声優道

超ベテラン声優からあなたへ、声優になるための極意を伝授します。


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永井一郎の声優道

声優とは声で演技する役者です。アニメ『サザエさん』の波平役で知られている永井一郎さんに、声優になりたい人へ向けて、自らの「声優道」を語ってもらいました。2回に分けてお送りいたします。

プロフィール

永井一郎 ながいいちろう……5月10日生まれ。2014年1月27日没。
『サザエさん』(波平)、『YAWARA!』(猪熊滋悟郎)、『機動戦士ガンダム』(ナレーター、デギン・ソド・ザビ)、『うる星やつら』(錯乱坊)、『花田少年史』(柳原歳三)、映画『スターウォーズ』(ヨーダ)など、数え切れないほどの代表作を持つ。著書に『永井一郎の朗読のヒント』(ふきのとう書房)、『バカモン!』(新潮社)など。

①道は長いから、あせらないで。 役者は何をするのかを考えてほしい

役者への第一歩

学生の時、ある芝居を観て、「うわぁ、世の中にこんなにおもしろいものがあるんだ」と素直に感動しましてね。それが俳優になりたいと思ったきっかけです。どうせなら、観る側ではなく演じる側、舞台側に立ってみたいと、大学の演劇部に入って、私は演劇活動を始めました。
 卒業後、本格的に役者になろうと思いました。けれど、なかなか受け入れてもらえない。新劇の劇団を受けては落ちて、受けては落ちて、その繰り返しでした。劇団に所属できたのは、それから2年ぐらい経ってからです。私に手伝ってほしいという劇団が現れまして。そこでようやく、念願だった役者への第一歩を踏み出しました。

 まだ、声優という職業は確立されていませんでした。若い人には想像がつかないかもしれませんね。大学を卒業した年にテレビ放送はスタートしていましたが、それまでは娯楽といえばラジオ。特に、ラジオドラマが全盛期の時代でした。当時、ラジオドラマを専門にやっている劇団があって、そこに所属している人がいましたが、声優という呼び方はされていなかったと思います。私が声の仕事を始めたのは『スーパーマン』でしたが、なんと生放送だったのです。アニメはまだ、登場していませんでした。

声で演じる面白さ

永井一郎そんな時代ですから、声優の学校なんてありません。指導してくれる先生もいません。それどころか、役者の間では「アテレコなんて役者の仕事じゃない。そんなものはバスガールや落語家にやらせればいい」なんて、バスガールや落語家さんに大変失礼なことを言う、お偉いさんたちがいたぐらいです。
体を動かさなければ言葉が生きないというのが、その人たちの考えでした。だからアテレコをやっていた私たちなんか、ひどく軽蔑されましたね。
「おまえは役者じゃない」なんて言われたこともありました。その後、アニメーションの声をやるようになったら、今度は洋画の吹き替えを専門にしている人たちから、「マンガの仕事なんかして」って、これまた、軽蔑されてね。 それでも私は続けました。だって、おもしろかったから。人間を演ずるのはもちろんおもしろいのですが、またそれとは違うやりがいがあったのです。  舞台ではやりにくい役も、夢の世界なら可能です。私の体は小さいけれど、声なら大男も動物も、木や石にもなれてしまう。その自由さがたまらなかった。
声優に憧れる皆さんも、周囲からいろんな意見を聞くことがあるでしょう。その意見が正しいのか、正しくないのか、キチンと判断できることが大切です。判断力を養ってください。
役者の世界は、自分がおもしろければそれでよいという世界ではありません。役者の表現は、自分ひとりで成立する表現ではなく、他人との関係の中で成立させる表現なのですから。

真意の伝わる演技

滑舌に関して言えば、自分は下手な方です。長年、役者や声優をやっていると、役者というのは「言葉を壊す」職業なのだなあと、つくづく思います。
例えば、「ばかやろう」という言葉。滑舌よく「ば・か・や・ろ・う」って言うより、「ばっきゃろー」って言った方が伝わりやすい。発声や発音はもちろん大切ですが、私は「音の色」や「勢い」の方を重視しています。
こういうと難しいかもしれませんが、つまり、「発音や発声が壊れていても真意が伝わる、これがいい演技」ということです。だから「こ・の・や・ろ・う」じゃなくて、「このやろー」「こんにゃろ」「んなろー」とかね。
僕はよい滑舌、正しい発音というのは、写真で例えると、フィルムの入れ方や取り出し方、シャッターの押し方、その類だと思います。つまり技術であって、それをベースにしながら、どう撮るか、何を撮るか、いつ撮るか、を考えることが必要です。それがなければ、作品(この場合、写真ですね)は成立しません 。

声優への必須条件

最近、個性のない新人が多いなぁって感じるのは、おそらく技術を重視するあまり、作品の理解力がおろそかになっているからでしょう。20年ぐらい前の新人声優は、下手だけどおもしろい連中がいた。今の時代は、優秀で才能がある人が多い。けれども個性がないのです。誰がどの声なのか、分かりにくい。
だから皆さんには、ぜひ、理解力を学校で身につけてほしい。金太郎飴みたいな薄っぺらの、没個性の声優にならないための、必須条件かもしれません。
私たちが声優を始めた頃に比べて、活躍の場は格段に広がっています。それはとてもいいことですが、同時に声優の希望者もものすごく増えています。その中で残っていくことは大変だろうけれど、頑張ってほしい。ちょっとお説教っぽくなってしまいましたが、それだけ期待をしているということです。
さて、皆さんのなかには、永井一郎といえば磯野波平、というイメージをお持ちの人が多いのではないでしょうか。次回は、波平についてお話しましょう。
 

先輩から学ぼう!

声優相談室、柴田がカツ
最強声優データベース、声優名鑑

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