声優道

超ベテラン声優からあなたへ、声優になるための極意を伝授します。


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戸田恵子の声優道

『それいけ! アンパンマン』ですっかりおなじみの戸田恵子さんは、俳優業から声優業まで、演じる仕事のプロフェッショナル。経験とイマジネーションに裏打ちされた演技力こそ、声優の最大の武器だと戸田さんは言う。それさえあれば、顔が濡れても力は出るぞ!

プロフィール

戸田恵子 とだけいこ……9月12日生まれ。愛知県出身。ルックアップ所属。主な出演作品は、アニメ『それいけ! アンパンマン』(アンパンマン)、『機動戦士ガンダム』(マチルダ・アジャン)、『キャッツ・アイ』(来生瞳)ほか。また、アニメ作品以外では、ジュリア・ロバーツ、ジョディ・フォスター、ビビアン・リーなどの洋画の吹き替えも担当。その他女優としても、多数のテレビドラマや舞台で活躍している。

①活きたセリフを増やしてくれるのは、イマジネーション

 何も分からず飛び込んだ声優の世界

 声優の世界に入ったのは、劇団の座長でもあった声優の大先輩、野沢那智さんに誘っていただいたのがきっかけでした。当初は声優の仕事に興味があったというわけではなく、生活のために足を踏み入れたという感じです。声優のお仕事がなかったとしても、何かバイトはしていたでしょうね。そのくらいの感じでした。
それまでは子役時代からずっと演じる仕事を続けていたのですが、いかんせん「画面に合わせてしゃべる」というのが初めての経験だったので戸惑いましたね。

最初は映画の吹き替え、次にアニメだったのですが、とくにアニメのほうが難しかったのを覚えています。当時はまだ芝居にしても研究生という立場で経験不足でしたし、画面に合わせてセリフを言うという最低限のことすらできない自分が情けなくなりました。 アニメの中で起こっていることは架空のできごとが多い。その中で、いったいどんな気持ちでセリフを言えばいいのか、イマジネーションが湧かないんです。これは大変でした。二度目のお仕事のあと、すぐ事務所に「向いてないと思う」と伝えたほどです。それに、息づかいなどふだんだったら発しない声も出さなくてはいけないというのも大変でしたね。それまでは、当たり前にテレビでアニメを見たりすることはあっても、取り立ててアニメファンだったわけでもないので、慣れるだけでも大変でした。

とにかくつらかったその時期を乗り越えられたのは、慣れようと努力したからというよりも、自分を支えてくれる人たちや、一緒に仕事をしている周囲の人たちのために、とにかくなんとかしようと我慢し続けたからだと思います。具体的にどんなトレーニングをしたとか、そういうことはほとんどなかったように思います。習うより慣れろ! ただ、ひたすら耐え続けるだけでしたね(笑) アニメの難しいところは、キャラクターが生身の人間ではないところです。外国映画に出てくる俳優さんと違い、アニメキャラは声を入れて初めて命が湧くんです。どんな気持ちで、どんなふうにしゃべっているのかも最初はイメージしづらいですし、口の動きにセリフを合わせるのもアニメのほうが難しい。この「相手が生身かそうでないか」というのは、大きな壁だったと思います。
でも、レギュラーをもって演じているうちに、面白さというのもわかるようになっていきました。相手が生身の人間ではないにせよ、毎週1回顔を見ているうちに、だんだんとテンポ感というのができてくるんですね。最初のうちはキャラに合わせてしゃべっているだけでしたが、しだいにセリフに合わせてもっと自分らしい感情が出るようになりました。
  

演技力を裏付ける、経験の力と イマジネーション

戸田恵子

アニメ作品のアフレコの面白みであり、難しいところは、自分が経験したことのないできごとが次々と起こることです。たとえば、空を飛ぶ気分や、いきなり変身したりする気分なんて、味わったことがないんですから。そんな大げさなことでなくても、たとえば「ハァハァハァ」と声を出しながら走るようなことだって、実生活の中ではなかなか経験しませんよね。振り返るのに「ハッ」と声を出したりとか。そんなふうに、経験したことのないことを演じるという苦労の連続の中で、改めて「これはすごく難しい仕事だ」という認識を持つようになりました。

活きたセリフをしゃべるには、本来体を動かさなくてはいけません。体を動かさなくては、不自然だからです。気持ちの動きに欠ける、口先だけの「それっぽい演技」になってしまってはダメ。だから、アニメのキャラクターと同じように実際体を動かしてみて、セリフを試行錯誤してみるなんていうこともしょっちゅうでした。ただマイクの前に立ってしゃべればいいという技術職ではないんですよね。マイク前でじっとしていても気持ちをどれだけ動かせるかが勝負です。

 そのため、とにかくイマジネーションが必要です。イマジネーションとは自分の経験に裏打ちされた、想像力の幅のこと。だから自分の中にどれだけ経験の引き出しがあるかということが、演技の幅を左右する……活きたセリフを増やしてくれると言っても過言ではないのです。これは、声優だろうと舞台役者だろうと変わりません。役者として怠っていることがなければ、それは声優としてもOKということ。私は「声優であるために」と思ってしていることは、ひとつもありません。つまり声優は、役者の仕事と何ら隔たりはないのです。

役者として演じるときは、その引き出しの中からあるいはイマジネーションの中から演じ方を決めます。これは、声優業でも同じこと。ですから、いろんな音楽を聴いたほうがいいでしょうし、いろんな本を読んだほうがいいでしょう。自分の興味が向かないようなことを、あえてやってみることも大事かもしれません。そうやって、経験の引き出しが増えていくのだと思います。 

演じることは表現すること。 そして、発信してゆくこと

  演じることとは別に、やってみたいこと。それは、自分発信していくことです。まだ漠然としか考えていないのですが、チームを組み、ステージをベースにしてものを表現していくことができたらと思っています。役者というのも表現者のひとつの姿ですが、もうひとつ立ち位置を変えてみたときに見えてくるものというのもあるのではないかと思うのです。たとえばそれをしたあと、自分の演技にだって変化が現れるものでしょうし、これはぜひともやらなければと思っています。

表現するということは、そこに受け取り手がいるということ。つまり、たとえ相手の顔が見えていなくても、それは人とのかかわり合いなのだと思います。そういったものを大切にしていくというのもまた、仕事をしていくうえではとても大事なものだと考えています。
そういってしまうと「声優」という言葉からはいささか飛躍してしまっているように感じられる人もいるかもしれません。ですが、この「声」という意味を、単純に口から出る音のことだと受け取ってほしくはないんです。そうではなくて、表現者として発信したいこと……つまり自分の「声」は何なのか。表現したいことは何なのか。そういうことを考えることが大事なのではないでしょうか。 

 

先輩から学ぼう!

声優相談室、柴田がカツ
最強声優データベース、声優名鑑

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