声優道

超ベテラン声優からあなたへ、声優になるための極意を伝授します。


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肝付兼太の声優道

数多くの作品で忘れられない名演技を披露してきた肝付さん。ご自身の主宰する劇団21世紀FOXでは多数の舞台に出演すると共に、演出も手がけている。声の仕事の創世記から役者として第一線で活躍し続けてきた肝付さんの声優道が、改めてその口から語られる。3回にわたって掲載される貴重な体験談は、絶対に見逃せない!

プロフィール

肝付兼太 きもつきかねた……2016年10月20日没。おもな出演作はアニメ『それいけ!アンパンマン』(ホラーマン)、『ドラえもん』(骨川スネ夫)、『怪物くん』(ドラキュラ)、『忍者ハットリくん』(ケムマキケムゾウ)、『キテレツ大百科』(狩野勉三)、『おそ松くん』(イヤミ)、『天才バカボン』(本官)、『ドカベン』(殿馬一人)、『銀河鉄道999』(車掌)、TV『おかあさんといっしょ』(じゃじゃまる)ほか多数。主宰する劇団21世紀FOXでは全作品の演出を担当している。

●劇団21世紀FOX

③実生活で体験してきたはずのことを演技で表現する難しさ

さまざまな役を演じるためには、積み重ねが大切

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 僕はラジオドラマの役者になりたくてこの世界に入りましたが、ラジオやドラマの仕事をいただけるようになったのは劇団に入って勉強させてもらったからです。そういう意味では、僕のルーツは舞台だといっていいでしょう。舞台ってやっぱり面白いんです。でも、面白い脚本を書く人は数が少なくて、一時は海外の翻訳作品ばかりという状況になってしまいました。

ところが、僕が所属していた劇団が解散してから15年くらい経ったころだっかな。小劇場ブームが起こって、僕もさまざまな小劇団の芝居を見に行ってみたところ、これが面白いんです。
東京ヴォードヴィルショー、第三舞台、自転車キンクリートなどですね。すると、自分でも劇団をやりたくなっちゃった。でも、劇団を作るためには人を集めなくちゃいけない。もちろん、一緒にやってみたいといってくれる仲間もいたんですが、僕は舞台演技に慣れた人よりも、ほとんど素人のような人達とやりたかった。周りが素人じゃないと、言い出しっぺの僕が威張れないでしょう(笑)。というのは冗談ですが、素人のほうが新鮮で面白いものができるんじゃないかと思ったんです。

最初は僕が講師をしていた声優養成所などで声を掛けたりして人を集め、半年間かけて毎日のように稽古をして公演を行いました。その劇団が、来年で30周年になります。入ってきてすぐ辞めちゃった人もいますが、所属したのべ人数は700人を超えました。わりと新陳代謝が激しいので、つねに新人を育てていないと芝居自体ができなくなっちゃうんです。僕がアニメに出ていることで、自分も声優になりたいと思って劇団に入ってくる人もいます。
声優は声だけですべてを表現する仕事ですが、その表現力を養うにはやっぱり芝居が最適なんじゃないかと僕は思っているんです。例えば、話している相手が子どもなのか大人なのかお婆ちゃんなのか先生なのか、それによって態度や口ぶりもすべて変わってきますよね。また相手との距離がどれくらいあるのか、どんな状況で話しているのか、自分で体を動かして芝居してみることで実感として身につけられるんです。

じつは演技で表現しているものは、すべて実生活で体験してきたことのはずなんです。走れば息が切れるし、首を絞められれば声が詰まる。ところが、誰でもふだんからやっている簡単なことのはずなのに、意識して生活していないからみんな忘れてしまう。役者には、そういう感覚を思い起こして再現する、感性が要求されるんです。笑う、怒る、哀しむ、喜ぶといった日常生活で起こる感情を、すべて整理して自分のポケットにしまっておく。地味でつまらないことかもしれませんが、さまざまな役を演じるためにはそういう積み重ねが必要なんです。

最初にマイナス評価になると、覆すのは難しい

今の若い人にいいたいのは、結果を急ぐなということ。声優養成所に1年か2年通って、すぐにデビューできると思ったら大間違いです。なかには10代で声優デビューという人もいますが、声優業界全体を見たら平均デビュー年齢って30歳くらいなんです。声のみですべてを表現するのは、それだけ難しいことなんです。
 急ぐなというのには、もうひとつ理由があります。もし、最初の仕事で「こいつはダメだ」と思われてしまったら、その評価を覆すのには大変な時間がかかるんです。今は声優養成所がたくさんあって、養成所に通っている人も何千人といるわけですから、簡単に別の人に置き換えられてしまいます。

 でも、最初から「完璧であれ」といっているわけではないんです。というより、完璧なんてそうそうできることではないし、僕自身も自分が完璧にできたなんて思えたことはありません。周囲に「このままいけば面白い役者になるよ」と思わせる片鱗があればいいんです。それこそが、その人自身がもっている個性や感性なのではないでしょうか。
今、声優業界の第一線で活躍している方は、表面からはそう見えないかもしれませんが、みんなすごい努力をして、ほかの人が追従できないような個性や感性を磨いています。「こんなこともできるようになった」ではなくて、つねに「本当にこれでいいんだろうか」と考え続けて試行錯誤することが大事なんです。そういう仕事に対する姿勢は、声優を目指す人にはぜひ学んでほしいですね。自分で意識してやっていかないと、運良くデビューできたとしても短期間で消えてしまうことになりかねません。

あと、これは声優志望者にいっても仕方のないことなんですが、声に特徴のある人、味のある声をもっている人が少なくなったような気がします。一言しゃべればすぐに誰だか分かるような、昔の役者さんでいえば、雨森雅司さん、滝口順平さんみたいな声ですね。アニメ作品にも流行り廃りがあるので、ギャグアニメが多かった時代には特徴的な声で強烈なインパクトのある役者さんが求められていたんでしょうけれど、今は逆に特徴的な声は使いにくいと思われているのかもしれません。でも、そろそろそういう現状を打破するような新人さんが出てきてもいいのではと思っています。
どんな声であっても、きちんとした表現力をもっていれば、声優として生き残っていく道はあるはずです。とりあえずデビューできればいい、なにかアニメに出られればいいではなくて、声優として長く続けていけるだけの個性を持った役者、つねに上を目指して努力を続けていける役者になってください。
 

先輩から学ぼう!

声優相談室、柴田がカツ
最強声優データベース、声優名鑑

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