声優道

超ベテラン声優からあなたへ、声優になるための極意を伝授します。


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松本梨香の声優道

声の演技では『ポケットモンスター』のサトシ役として世界的に知られる松本さん。それだけでなく歌の世界でも、圧倒的な歌唱力で実力派アーティストとして活躍している。その原点となった体験から今までの軌跡を、余すところなく語ってくれた。3回に分けてお送りする松本さんの声優道を見逃すな!

プロフィール

松本梨香 まつもとりか……11月30日生まれ。サンミュージック所属。おもな出演作は『ポケットモンスター』シリーズ(サトシ)、『ビバリーヒルズ青春白書』(ケリー)、『ミディアム』シリーズ(アリソン・デュボア)『ネリーとセザール』(セザール)、『NINKU-忍空-』(風助)、『機動戦士Vガンダム』(ハロ)、『伝説の勇者ダ・ガーン』(高杉星史)、『絶対無敵ライジンオー』(日向仁)、情報番組 TVK『ありがとッ!』コメンテーターほか。アニメ、特撮作品の主題歌を多数担当するなど、歌手としても活躍。

①誰かの心をつかんで震わせられる役者という仕事

 舞台役者になるのが自分にとって自然なことだった

 私の父が大衆演劇の座長をやっていたので、劇団員の人たちがうちによく遊びに来るという環境で育ちました。ときには30人くらいの役者さんがうちでご飯を食べていたりすることもあったので、芸事が身近にあった気がします。
もちろん、父の舞台も何度も見に行きました。見に来てくださるお客様の心にすっと入り込んで、わしづかみにして震わせることができる。舞台を見に来てくださった方が、帰り際に「楽しかったね。また来ようね」とおっしゃってくださるんです。
お芝居ってなんて素晴らしいんだろう、自分もそんな風に誰かを喜ばせる、幸せにすることができたどんなにステキだろうと思っていました。だから私も舞台役者になりたいと、ごく自然に考えるようになりました。

 でも、役者になるために特別な勉強をしたわけではないんです。父から何かを伝授されたということもありませんでした。ただ、うちは人がたくさん集まる家だったので、近所の人が集まったりしている前で、なにか芸をしたり歌を歌ったりするということがよくあったんです。みんな喜んでくれたので、自分でもこういう道が向いているんじゃないかと思っていました。うちにカラオケセットがあったので、みんなの喜ぶ顔が見たくて何度も歌っていました(笑)。それが今に繋がったのかもしれません。

 初舞台を踏んだのは10代のころです。小さいころから日舞を習っていたのですが、その発表会の前日、「お客様の前に立つのが一番勉強になるから」といって舞台に立たせてもらったのが初舞台でした。それからさまざまな舞台に参加させてもらうようになり、自分でもこのまま舞台役者として生きていくんだと思っていたんです。でも、井上ひさしさんが主宰するこまつ座の舞台に参加しているときのことでした。双子みたいに仲良く育った兄が他界し、私自身もそのショックで倒れてしまい、舞台を降板することになったんです。
じつは自分でも気づかなかったんですが、そのときに私は病気にかかっていて、「発見があと1週間遅かったら、命が危なかった」という状態だったんです。療養して病気は完治したんですが、体力的な問題もあって、しばらくは舞台に立つのは禁止というドクターストップがかかってしまいました。舞台で演じることしか頭になかった私はもう目の前が真っ暗になりました。夢が打ち砕かれたというか、これからなにをしたらいいのか、まったく分からなくなってしまったんです。

 そんなとき、舞台で共演したことのある名古屋章さんが「お芝居をする場所は舞台だけじゃない。ラジオドラマなどの声の仕事もあるよ」とアドバイスしてくださったんです。すでにさまざまなアニメの仕事をしていた同期の山寺宏一さんもお見舞いに来てくれたので、名古屋さんから声の仕事を薦められたという話をしたところ、「おまえだったらできるよ」と背中を押してくれたんです。それで、声の仕事もしてみようと思い立ちました。もちろん、今まで舞台しかやってこなかったので、マイク前でのお芝居ってどうしたらいいんだろうとか、果たして私にできるんだろうかという不安はありました。でも死にものぐるいというか、お芝居ができなければ死んだも同然というくらいに崖っぷちに立っていたので、ほかの選択肢はありませんでした。そんな「なんでもやってやる」という気持ちで挑戦したのが、『新・おそ松くん』のオーディションだったんです。

 

夢が破れたときに出会ったアニメという世界

 今でこそ、演じられる場所は舞台以外にもたくさんあるんだと思っていますが、当時の私は舞台演劇しか見えていませんでした。なんでそこまで舞台にこだわっていたのかというと、うまく言葉にできないんですが、表現をしたときに誰かが共感してくれて、その気持ちが伝わってきて思いがひとつになる瞬間があるんです。私が役者をしているのはその感覚が味わいたかったからで、それには舞台演劇しかないと思いこんでいたんです。

 そんな私ですが、初めてのアニメ・オーディションに運よく合格し、『新・おそ松くん』に出演することになりました。初めての収録では、本当にびっくりしましたね。肝付兼太さんとか大平透さんとか田中真弓さんとか、小さいころから耳に馴染んでいた声がスタジオ内に飛び交っているんですよ。最初にご挨拶をしたときは気がつかなかったんですが、演技をしていると「あ、この声ってどこかで聞いたことがある」って思って、やがて「小さいころに見ていたアニメの×××の声だ!」って気がつくんです。もう、声を聞くたびに昔見ていたアニメが頭に次々に浮かんできて、うわぁって思ってました。さすがに仕事でスタジオにいるんだっていう自覚はありましたから、騒いだりはしませんでしたけどね(笑)。お芝居自体も今までやったことのない経験だったので、毎日が新鮮で楽しかったんです。アニメの絵に自分の声が乗るというのも不思議な感じで、最初は自分が現実とはまったく違う世界に入り込んでしまったような感覚でした。

 ただ私は女性なので、ふだん話しているときは女性の声でしかありませんよね。それが少年役を演じることになり、声だけを取り出して少年の絵に乗せたとき、ちゃんと男の子の声として聞こえているんだろうかと考えていました。この仕事を続けていくうちに、セリフの語尾であるとか、演じるときの気持ちが男の子になっていることで、十分少年の声に聞こえるというのが分かりましたけど、最初は「どんな風に感じてもらえるんだろう」とかなり不安でした。多分、少年役を演じる女性声優さんは、誰でもそういう感覚をもったことがあると思います。

 今までさまざまなキャラクターを演じてきましたが、その役のほとんどが記憶に残っています。でも自分にとって転機になったといえるのは、『絶対無敵ライジンオー』の日向仁ですね。初めての主役ということもありますが、キャラクターソングを歌わせて戴くことになり、作品を通して本当にたくさんの歌に巡り会えました。聴いたみなさんからも光栄なことに絶賛していただけまして、「これだけ歌えるんならオリジナルアルバムを出してみれば」という話にもなり、キャラクターとしてではなく、私、松本梨香個人の名義でアルバムを出そう!と。しかも「ロックも演歌も歌えるなら、ポップス編と演歌編とアルバムを2枚作って同時発売するのも面白いんじゃないか」とどんどん話が大きくなっていったんです。曲もそうそうたる作家の先生方の書き下ろしばかりで、こんなことまでしていただいて本当にいいのかなと、信じられないような気分でした。
 

先輩から学ぼう!

声優相談室、柴田がカツ
最強声優データベース、声優名鑑

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