声優道

超ベテラン声優からあなたへ、声優になるための極意を伝授します。


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キートン山田の声優道

最初は自分が役者になるとは思っていなかったというキートン山田さん。ところが、自分の新たな可能性を探して劇団に入ったことから、演技の楽しさを発見したとか。数々の番組で「キートン節」とも言うべき名調子を披露しているキートン山田さんが、これまでに歩んできた長い道のりを3回に分けてお届けします。

プロフィール

キートン山田 きーとんやまだ…10月25日生まれ。リマックス所属。主な出演作はアニメ『ちびまる子ちゃん』(ナレーション)、『MASTERキートン』(ナレーション)、『銀河英雄説』(アレックス・キャゼルヌ)、『一休さん』(足利義満)、『サイボーグ009』(004)、『ゲッターロボ』(神隼人)ほか、『大!天才てれびくん』『みんなの疑問ニュースなぜ太郎』『理科3年 ふしぎだいすき』『○ごとワイド~キートンの名店』『土曜スペシャル』など数多くの番組でナレーションを務める。

②30代半ばで陥ったどん底からの再起

日々の生活に困り、役者を辞めることを考えた

 じつは、声優どころか役者という仕事を本気で辞めようと思ったこともありました。30代半ばの頃、仕事がなくなった時です。
 それまでは約10年間、青二プロダクションに所属していて、すごく恵まれていました。レギュラーもたくさんもらって、収入もわりと安定していたんです。結婚して家を買って、車を買って、子供もいて、それでも生活が成り立っていました。ところが青二を辞めてから仕事が減って、レギュラーが1本もなくなってしまったんです。たまに仕事が来ることもありましたが、収入は主にアルバイトに頼っていて、子供の給食費にも困るようになってしまいました。役者になる時にあれだけ反対された親からも借金をしました。妻からは「たとえ少なくてもいいから、毎月決まった収入がある仕事についてほしい」とも言われました。それで、役者を辞めることを考えたんです。
_DSC6436_atari かといって僕に何ができるかと考えた時、何も思いつかなかったんです。もしかしたらどこかの会社に勤めることもできたかもしれませんが、年齢的にも中途半端だし、これといった経験もない。悩みに悩んで、何を食べても味が分からないまでになって、ものすごく痩せました。そうしてると、だんだんおかしくなってくるんですね。景色や色も見えなくなってくる。目には入っているけど、感じてないんです。後から考えたら、音も聞こえていませんでした。誰かから声をかけられても、まったく届かないんです。景色はすべてグレーに染まっていて、頭の中でつねに何かがガンガン鳴っているような状態でした。とにかく楽になりたくて、一番楽な方法として死ぬことも考えました。
 ある日、一人で部屋にこもっていた時に、ふと子供達の笑い声が聞こえてきたんです。なぜか頭の中が熱くなるような感じがして、「このままじゃダメだ」と思いました。それで外に出てみたら、空がすごく青くて、白い雲が浮かんでいて、子供のころに北海道で見た景色を思い出したんです。東京に出てきてこんな風に景色を見たことがあっただろうかと思い、その風景の美しさに自然と涙が出ました。それで「もう一回、真剣に役者をやってみよう。それでダメならすっぱりと辞めよう」と思ったんです。

新たに生まれ変わったつもりで、キートン山田に改名

 改めて役者として踏み出すに当たって、生半可な気持ちでは再起できないと思いました。そこで考えたのが、改名です。
 僕はそれまで本名の山田俊司でやっていましたが、結果的に仕事がなくなってアルバイトや借金で食いつなぐ生活になっていました。近所の人達もそういう状態は知っていたわけで、気持ちだけでなく表向きも一新しないと、今までの自分を捨てて新たに踏み出すということを分かってもらえないかと思ったんです。
 そして38歳の時、キートン山田として生まれ変わりました。それからはもう、役者を辞めようと思ったことはないです。まあ、この歳になって「いつごろ引退したらいいのかな」とは考えますが(笑)。
 ただ、仕事がなくなってつらい状態にあったこと、食べていくために何でもしたことは、僕にとっての宝とも言うべき貴重な経験になったと思っています。あの経験がなかったら、そこそこの仕事を続けて何となく歳をとっていっただけで、今頃は消えていたんじゃないかな。あまりに強烈な経験なんで、もしかしたら聞いた人が引いてしまうかもしれないけれど、あの時期に経験したことはすべて勉強になりました。何ひとつ無駄になっていません。
 改名してからは、演技スタイルも変わりました。周囲から何かを言われて演技を変えるのではなく、自分らしさを貫こう、キートン山田としての芸風を押し通そうと思ったんです。「キートン山田」という名前からは、まず誰も二枚目風の演技を想像しないと思いますが、そこも狙いでした。元々、主役によく見られるような二枚目ではなく、主人公を周囲で支える脇役の演技に惹かれていたんです。もちろん二枚目の役が来たら引き受けましたが、やっていても「性に合わないな」と思っていました。
 こう言うと、自分に近い役のほうが演じやすいのかと思われるかもしれませんが、そうではないんです。クールな悪役とか、アウトローの役とか、自分にないものをもっている役のほうが、演じていて面白いですね。自分にはもっていないものを想像して、その役ならではの魅力を自分らしく表現するというところに惹かれるんです。主人公よりも脇役のほうが、そういった自分が表現したいものを出せる余地が多いので、演じていて楽しいと感じることが多いんでしょうね。

『ちびまる子ちゃん』との出会いで生まれ変わった

 僕にとっての転機となったのは、『ちびまる子ちゃん』のナレーションです。
 キートン山田に改名してからは、自分らしい表現というものを試行錯誤していましたが、そのひとつにナレーションがありました。できるだけ作らず、自分らしくナレーションをしたらどうなるんだろうと、ずっと考えていたんです。やはりどこかに無理をかけて作ったものは、長くは続けられませんからね。また、それまでにいろいろな仕事を受けてきましたが、キートン山田としてぴったりの仕事、代表作になるような仕事があるはずだとも思っていました。
_DSC6410_atari 『ちびまる子ちゃん』の仕事が来たとき、すぐに「これだ」と感じたんです。決して無理せず、しかし思いを込めてナレーションをするという、望んでいた形の仕事ができたと思ったんです。
 役者の世界では、どれだけ努力をしても報われないこともあります。実力があっても、自分にぴったりと合うような仕事に巡り会うための運がなかったために、辞めていく人も大勢います。僕もそういう人達を数多く見てきました。そんな世界で、決して演技が上手いわけでもない僕が生き残っているということが、若い人達にとっての励みになったらいいですね。
 人は一人ひとり顔も違いますし、声も違います。それが個性なんです。他人の真似をしても身につかないし、小手先のテクニックではどうにもならないんです。全部個性と捉えて、それを人前で恥ずかしがらずに全部さらけ出すようにすれば、その個性を認めてくれる人に巡り会えるのではないでしょうか。僕も44歳で『ちびまる子ちゃん』と巡り会い、本当の意味で生まれ変われたと思っています。

先輩から学ぼう!

声優相談室、柴田がカツ
最強声優データベース、声優名鑑

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