声優道

超ベテラン声優からあなたへ、声優になるための極意を伝授します。


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朴璐美の声優道

まっすぐな少年役から大人の雰囲気をたたえた女性まで、さまざまなキャラクターを演じている朴さん。声の演技だけでなく舞台女優としても活躍し、さらにラジオのパーソナリティとしてまた違った一面を見せてくれる。そんな幅広い活躍を見せる朴さんが今のような演技力を身につけるまでには、こんな紆余曲折があった!? 朴さんの演技に対する真摯な思いが、全3回のトークからひしひしと伝わってくる。

プロフィール

朴璐美 ぱくろみ……1月22日生まれ。円企画所属。おもな出演作は『トリコ』(小松)、『進撃の巨人』(ハンジ・ゾエ)、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』(エドワード・エルリック)、『BLEACH』(日番谷冬獅郎)、『NANA』(大崎ナナ)、『シャーマンキング』(道蓮)、『∀ガンダム』(ロラン・セアック)、洋画でヒラリー・スワンク、ルーシー・リューの吹き替えほか、舞台にも多数出演。2013年よりボイススクール「studio Camblia」を主宰。

③心と体がひとつになる瞬間を味わってほしい

役者が全力でぶつかりあうからこそ、舞台は面白い  

paku06-n お芝居のプロデュースをするようになったそもそものきっかけは、宮野真守くんとラジオで共演するようになったことです。宮野くんが私の出演しているお芝居を見に来てくれて、「僕も舞台がやりたい」といい出したので、「それなら一緒にやろうか」とずっといっていたんです。そんなとき、劇作家の中島かずきさんが「この脚本、演じてみない? 宮野さんと朴さんに合うと思うんだ」といって『戯伝写楽-その男、十郎兵衛-』を薦めてくださったんです。

 私はそのとき、お芝居を作っていく流れを把握したいという気持ちがあったんですが、自分が役者として出演してしまったらどっちつかずになっちゃうんじゃないかという懸念がありました。それで宮野くんの座長公演という形にして、自分はプロデュースに回ったんです。すべての状況がぴたっとはまって、舞台に向けての歯車が動き出したような感覚がありました。それでいよいよ公演という日になったんですけど、まさかの公演2日目に東日本大震災。もう、いろいろなことを考えさせられました。「こんなときこそ演劇の持つ力が生きるんだ」という思いと、「こんなときに演劇なんていっている場合じゃないだろう」という両極端の思いが頭の中で渦巻いてました。いよいよ公演決行か中止かを決めなければならないときには、「まだ余震も続いていて、今後どうなるかも分からないのに、『命を賭けてこの芝居を見に来てください』といえるのか。いえる人がいたら私を説得してほしい」と泣き言をいってしまいました。もちろん誰もいえるわけがなくて、結果、さまざまなものを呑み込んで公演中止を決めたんです。

 状況が落ち着いてきてからようやく再演を考えたんですが、私も宮野くんもモチベーションが下がっているし、かといってこのまま再演しなければ心の傷として残ってしまいそうだし、どうしていいか分からなかったんです。そんなとき、中島かずきさんが「朴さんは死ぬほど頑張ったんだから、もう頑張らなくていいよ。もうこのお芝居を手離していいよ」といってくださったんです。その言葉に救われたというか、肩に乗っていた荷物を下ろしてくださいました。おかげで逆に、前に進む気持ちが湧いてきました(笑)。

 最初にこのお芝居を立ち上げたときには、プロデュース自体が初めてだったので、まだ周囲の状況を確かめながら手探りで進んでいるような状態でした。ところが今回は2回目じゃないですか。そこで「このお芝居は私がプロデュースなんだから、私のやりかたでやらせてもらいます」といって、どんなに周囲から迷惑に思われようが、演出から照明からパンフレットにまでことごとく口を出しました(笑)。私は性格的に、やるからには全力でやらないと気が済まないんです。せっかくお金と時間と手間を掛けてやるんだから、妥協はありえないと思っていました。その全力でぶつかりあうエネルギーがあるからこそ、舞台って面白いし、お客様にも熱が伝わるんだと思うんです。作り込んでいくアニメ作品とは、また違ったおもしろさですね。

 

自分と本気で向き合ったその先に、表現というかたちがある

 お芝居をプロデュースしたことで勇気が出て、始めたのが「studio Camblia」というボイススクールです。なんでそんなことをしてみたいと思ったかというと、今の若い人たちに全力でエネルギーをぶつけあう楽しさをしってほしかったんです。

paku04-n それまでも養成所に特別講師として呼んでいただくことはありました。最初にお話をいただいたときは「役者が誰かにものを教えるなんて冗談じゃない」っていう気持ちがあったので、「最近のしらけている子たちに私が接したら、きっとケンカになりますよ」と断ろうとしたんです。するとお話をくださった人が「そのくらい本気でぶつかってください。学生を泣かせてもいいです」とまでいうので、引き受けました。だから最初の頃のレッスンは、かなりケンカ腰だったと思います(笑)。そのとき学生にやらせたのが、演劇集団円の演出家の福沢富夫先生がやっていたレッスン。誰かの目を見て、わーっと大声で泣き叫びながら匍匐前進で突っ込んでいくというものでした。最近の若い子は他人の目を気にするから、こんなことは恥ずかしくてできないんじゃないかと思っていたんです。ところがみんな本気で突っ込んでいって、相手のすぐ目の前まで来ても叫び続けているんですよ。その姿を見たときに、自分が若い子たちを誤解していたことに気が付きました。

 今どきの若い子はいつも白けた態度を取っているので、きっとなにも感じないのだろうと思っていたんです。でもじつは、心の中にはこんなにも訴えたいことがあった。今の社会はなにかと息苦しいことが多いので、あえて感じないように感覚をシャットダウンしていなければ生きぬいていけないんだと感じたんです。そのときから特別講師とは別に、もっと時間をかけて若者と継続性を持って向き合ってみたい、自分でスクールをやりたいと思うようになりました。

 集中してなにかを伝えたいと思うと、体と心と魂がひとつになる瞬間があるんです。普段はその感覚がバラバラになっているから、気がそぞろだったり落ち着かなくなったりしてしまうんですけど、本気で腰を据えて集中するとがっちりとひとつになる。自分自身とガチで向き合って、体と心と魂がひとつになる瞬間を味わってほしい。そんな感覚が味わえる場所を作ってあげたい。そう思って始めたのが「studio Camblia」です。だから「studio Camblia」の目的は、役者や声優を育てることではないんですよ。「自分を知りたい人、自分と向き合いたい人は来てください。一緒に真剣に向き合いましょう」といっています。

 もちろん中には役者を目指している人もいるんですが、それは結果として後からついてくるもので、まず大事なのは自分と向き合うこと。「なにを表現したいのか」「なにを伝えたいのか」という部分から発するエネルギーがなければ、なにをやっても成功はできないと思うんです。そして、自分と向き合うという感覚を身につけてから、社会に出て行ってほしいんです。2012年の秋から5ヶ月間のプレスクールを行いましたが、たった5ヶ月の短い期間のなかでもスクール生の成長が見られたのがうれしかったですね。

 なかにはイジメやDVといったネガティブな体験をしてきた人もいるでしょう。でも、そういう人は心の中にある訴えたい物が溜まっているので、いい表現者になれる気がするんです。だから決して負けないで自分と向き合い、強くなった上で社会に出て行ってほしい。一度きりの人生なんだから、全力で生きたほうが面白いじゃないですか。器用でなくてもいい。いろいろなことに興味をもって、心を豊かにしてほしい。その先に初めて表現という形があるんだと思っています。

 

先輩から学ぼう!

声優相談室、柴田がカツ
最強声優データベース、声優名鑑

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