サイトアイコン seigura.com

【インタビュー】富田美憂さんのミニアルバム『Fizzy Night』は「背伸びしすぎない、今だからこそ出せる大人感」【声グラweb限定】

声優・アーティストの富田美憂さんが自身初となるコンセプトミニアルバム『Fizzy Night』を11月23日(水)にリリースします。本作のテーマは「大人の恋愛」。23歳を迎え、さらに大人っぽさを増した“今の富田美憂”ならではの5曲の物語が詰め込まれています。それぞれの曲の制作秘話を教えてもらいました。


ファーストライブの経験が呼んだ、新たな物語

──気づけば「Present Moment」でアーティストデビューされてからまる3年が経ちますね。
あっという間でした! さっきマネージャーさんと話して気づいたんですけど、もうすぐ声優デビューしてから10周年なんです。自分でも驚きました(笑)。

──アーティスト活動を始めてから、富田さんの中ではどのような変化がありましたか?
表現の幅が如実に広がったなと思っています。シングルを出す度にいろいろなチャレンジをさせてもらってきましたし、声のお仕事に加えてアーティスト活動を始めたことによって、吸収させてもらう場所が2カ所に増えたので、どちらの仕事にも良い影響が出ています。また、アルバム制作やファーストライブを経験するなかで、すごく明確に、自分がこれからやっていきたい音楽の方向性を掴めてきましたし、自分の得意なもの、足りないもの、というのもわかってきました。その流れの一つとして、「ゆくゆくはコンセプト・アルバムもやってみたいです」というお話をしていたら、「作ってみましょう!」と言っていただき、今回のアルバムの制作に至りました。

──自分にないものって、富田さん的にどんなものなんでしょう?オールマイティーにこなされているイメージですけども……。
いえいえ、いっぱいあります!(笑) それこそ歌も、今まではエネルギッシュでパワフルな声を全面に出してきたんですけど、今回のようなコンセプトの作品を作るにあたっては、エネルギッシュさよりは、柔らかさ、女性らしさ……今まで開けてこなかった引き出しが必要だったので、そこは自分の中でチャレンジでした。

──1stアルバム『Prologue』では19歳から21歳までの、子供から大人に切り替わる過程が表現されていました。「ジレンマ」「かりそめ」などの大人っぽい曲はありましたが、今回のコンセプトミニアルバムではさらに一段ステップアップした大人の恋愛を描かれています。
具体的にテーマをどうしましょうか、という話になった時に、春夏秋冬、朝から翌日の朝までの1日の様子など、いろいろなアイデアが出たんですけど、最終的に、大人っぽいラブソングだけを詰めたラブソングもチャレンジングで素敵なんじゃないかということになりまいた。そういったチャレンジをしようと思ったのは、ファーストライブ(2021年9月26日、東京・LINE CUBE SHIBUYA)の経験も大きくて。ライブ後にTwitterなどで感想を見たら「ジレンマがセクシーだった」というお声がたくさんあったんです。

──実際「ジレンマ」でライブの雰囲気がガラりと変わりましたよね。
そうなんです。「ジレンマ」までは皆さん温かく見守ってくれていていたんですが、「ジレンマ」で一気に変わって。「こういう方向も出せるようになってきたんだな」と。それで今回のようなコンセプトもありなんじゃないかなって。

──大人の恋愛ドラマを集めた、オムニバス的なような雰囲気もあります。富田さんとしても、曲が届くたびに、新しい物語の台本を開くような気持ちがありましたか?
そんな感じがしました! 新しいキャラクターをやらせていただくときに、初めてもらった台本を見ていると、「早くやりたい!」ってワクワクするんです。そのときと同じような気持ちになりました。

「My Guiding Star」は温めてきた曲

──いつぐらいから制作が始まったんでしょうか?
コンセプトが決まってからはけっこう急ピッチで、毎週1曲ずつレコーディングしていきました。でも時系列を説明すると少し複雑なんです(笑)。というのも、5曲目の「My Guiding Star」はもともと別のCDのカップリングとして収録する予定だったもので。すごく良い曲だったので皆さんに早く届けたかったんですけど、冬を演出した曲だったので「その時期にリリースしたいね」という話になって。満を持して、やっと皆さんにお届けできることになりました。

──「My Guiding Star」は日常感のある、それでいてブライトな曲ですよね。
もともと「冬っぽい、温かい曲が欲しいです」という話をさせてもらっていて。MEG.MEさんが曲を書いてくださったんですが、女性の作家さんだからこそ描ける世界観だなって思っていました。「星に願いを」をモチーフにして歌詞を書いてくださったとうかがっています。星を自分の大切な人に例えて歌っているという雰囲気なので、“私を導いてくれる星”という意味を持ったタイトルもすごくエモいなと。

──たしかにピッタリですね。その次に届いた曲というと?
1曲目の「Coming Up」です。実はこの曲も、コンセプトアルバムを作ることが決まる前にいただいていた曲で。「OveR」のレコーディングを終えたあたりで、「シティ・ポップにもチャレンジしてみたいです!」と言ったら、担当の方もノリノリで、曲を持ってきてくださって。その時点ではどのCDに使うかは決まってなかったんですけど、今回のコンセプトにぴったりだなと思い、収録させてもらいました。

──まさにシティ・ポップ色が強い曲で、新しいチャレンジが詰まっていますよね。
「Coming Up」のレコーディングは最近したんですけど、難しかったです。「やりたい!」とは思ったものの、年代的にもシティ・ポップは未知の領域。曲をいただいたときから「正解はどれだろう?」と考えていました。でも意外にも、レコーディングでは自分が持っていったものをそのまま使っていただいていて。富田美憂らしさも残るシティ・ポップにできたかなと思っています。

自分の直感は信じています

──2曲目、「群青Dreaming」はかなり大人っぽい楽曲。攻めましたね!
攻めてます!(笑) 歌詞を見たときに「これは私が歌っていいんですか!?」って思いました。どうアプローチしようかかなり考え、自分が思う、大人っぽいアーティストさんの曲を聴いて、イメージを固めて。

──富田さんが思う大人っぽいアーティストというと?
母は車で音楽をよく聴く人だったんです。だから私自身、小さい頃から聴いていたアーティストさんの曲をよく聴いていて。例えば倖田來未さんとか、宇多田ヒカルさんとか。個人的に語尾の処理の仕方が「大人っぽいなあ」と思うのは椎名林檎さんです。あらためて皆さんの曲を聴きながら、私なりに「大人の女性ってなんだろう?」って考えていました。

──富田さんが考える「大人っぽい女性像」というのは、今の富田さんの等身大というよりはもう少しだけ背伸びした印象ですか?
そうです! 成人していたときに考えていた23歳って、ビジュアル的にも、精神的にも、もっと大人のお姉さんになってる予定だったんです。でもあんまり変わってなくて(笑)。倖田來未さん、椎名林檎さんのような大人の女性像って、これからもっと年齢を重ねて、自分なりの大人っぽさを手に入れたあとに出せる色気や女性らしさのような気がしています。『Prologue』のときは等身大の自分を届けていたんですけど、今回は20代前半だからこそ出せる色気、大人っぽさを切り取りたいなと思っていました。だからちょっと背伸びはするんですけど、大きく背伸びしないようにと意識していました。

──そのバランスが絶妙ですよね。今の富田さんだからこその表現になっている。
それはすごく大事にしています。感覚的に、歌って写真にも似ているような気がしているんです。写真って今の等身大を切り取ったものじゃないですか。歌も写真と一緒で、“今”を切り取れるものだと思っていて。だから踏み込んで、先に先に、と行き急ぐよりも、今できるものを残したアルバムにしたいなと。自分的にも、聴いてくれる人にとっても、思い出になるんじゃないかなと考えています。

──また、「群青Dreaming」の“直感で分かるの”って言葉は、なんだか富田さんらしいなと。直感をいつも大切にされていますよね。
「群青Dreaming」の言葉は“女の勘”というニュアンスではありますが、実際曲選びはいつも直感なんです。候補曲は毎回繰り返し聴いて、いつも「どうしようかな」と迷うんですけど、結果1曲目に聴いて良かったものを選んでいる気がします。これは声優の仕事にも言えることです。年間何十本とオーディションを受ける中で、稀に「あ、この子!」と思うことがあります。そう思うときは受かることが多いんです。そういうこともあって自分の直感は信じていますね。

──3曲目「Catcher」は『錆喰いビスコ』の音楽を担当されていた椿山日南子さんが楽曲を手がけられていますね。
そうなんです! 念願叶ってご一緒できることになりました。『錆喰いビスコ』のエンディング「咆哮」(ビスコ(鈴木崚汰)&ミロ(花江夏樹))をオンエアーで聴いた時に衝撃が走ったんです。「すごい作家さんだ!」って。「いつか私も椿山さんの曲を歌ってみたいなあ」と思いながら過ごしていました。その後、今回の候補曲が揃って聴く機会があって。そのときは作家さんの名前がない状態だったんですけど、直感で「これだ!」選んだ曲が「Catcher」でした。

──あれ? 前もそういうことがありませんでした?(笑)
「ジレンマ」のときのGRPさんもそうでした!(笑) 今回もそんな感じで、ご縁を感じました。この曲は、楽器の使い方、言葉選び……椿山さんの“らしさ”が出ていて素敵だなって。椿山さんに「どんなイメージで書いてくださったんですか?」と聞いたら、椿山さんの中の富田美憂のイメージで書いてくださったらしくて。「受け身よりか攻める印象だったので、ギラギラした感じにしました!」と。

──いつもよりハイトーンな歌声の印象があります。新しい表情が引き出されていますよね。
サビはほぼファルセットで歌っていて。レコーディングしたときは「私には少しキーが高いかも」と思い、半音下げたパターンもやってみたんです。でも原曲のキーのほうが新しさがあって良い!と。自分で聴いていると、良い意味で「自分じゃないみたい!」って思いました。オケが全体的に華やかで。レコーディング用の資料としていただいた音源をいただいていたんですが、その後「ちょっとブラッシュアップしました」と新しい音源をいただいたんですけど、歌を入れた後のトラックダウン時にはさらにブラッシュアップされていて。楽曲のパワーに私の声がついていけるかな、って不安はあったんですけど……でも良いものに仕上がったと思っています。今までにないものを引き出していただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。

曲順の流れも楽しんで

──「ベンチ」はこのアルバムの中では珍しい、かわいい曲ですよね。
そうですね。偏見かもしれないのですが、私の考える大人の女性って言葉をストレートに言い過ぎない印象があるんです。わざと周りくどい言い方をするのが“良い女”のイメージというか。

──あはははは、わかる気がします(笑)。
今回5曲並べたときに素直に、ストレートに気持ちを歌った曲があっても良いんじゃないかなと思ったので「ベンチ」を選ばせていただきました。歌詞の日常感が私はすごく好きです。

──公園のベンチで二人で話している景色が思い浮かびました。
お芝居のときも「景色を五感で受け取ってもらいたい」と思いながら演じていて。だから「景色が思い浮かんだ」と言っていただけるとうれしいです。しかもこの曲はバーの高い椅子とかじゃなくて、ベンチっていうのが良いなって! 万人が共感しやすい歌詞だなと思うので、恋人がいる方はぜひ一緒に聴いてもらいたいです。歌うのも楽しかったです!

──全曲に言えることですが、今回コーラスワークにいつも以上にすごく力が入っていませんか?
コーラスはいっぱい録りました!(笑) 全体を通して大人の恋愛というテーマがあるんですけど、1曲1曲が全然違う、それぞれの個性を持ったものなので。それぞれに爪痕を残したいという気持ちがありました。特に「Coming Up」、「My Guiding Star」はコーラスが印象的な曲なので、コーラスで曲に深みを出していきたいなって。

──それとさきほど最初に四季のアイデアがあったというお話がありましたが、最初の「Coming Up 」と、最後の「My Guiding Star」に“白い息”という言葉があります。これは偶然ですか?
めちゃくちゃ偶然です(笑)。でも偶然にも冬に出す作品なので、なるべくしてなった気もします。曲順をこれにして正解だったね、というお話をスタッフさんとしました。1曲目でしっとり、シティ・ポップ、夜になって、2・3曲目で畳み掛けて。4曲目で「ありがとう」というほっこりした気持ちになって、最後に落ち着くっていう。

──全曲通して聴いたとき、ほかにはどのような印象がありましたか?
トラックダウンの見学に行かせていただき、できたての曲をミキサーブースのいちばん良い席で聴かせていただいたんです。聴き終わった後の満足感がすごくて「充実の5曲だよね」ってスタッフの皆さんと話をしていました。5曲に思えないくらい、ぎゅっと詰まったアルバムだなって。

──たしかにミニアルバムというより、アルバムのボリューム感がありますよね。では『Fizzy Night』というタイトルにされた理由についても教えてください。
コロムビアの担当さんが5、6パターン考えてきてくださったんです。投票で決めようとなったんですが満場一致で、3分で決まりました(笑)。Fizzyは炭酸という意味で。先ほどお話しした「背伸びしすぎない、今だからこそ出せる大人感」をカクテルに例えると……大人が飲むコテコテのお酒ではなく、スパークリングワインなどのしゅわっとしたフレッシュさが似合うんじゃないかなって。また、アルバムに収録されている曲には、叶う恋もあれば、叶わない曲もある。よく「泡沫(うたかた)の恋」って言うじゃないですか。その雰囲気も、Fizzyという言葉に込めています。

──ジャケットの衣装も、これまでにない大人っぽい雰囲気です。
スタッフさんと「大人っぽい」のイメージを持ち寄ったんですけど、「大人っぽいってなんだろう?」と考えすぎてしまって答えが出なくて。「衣装さんに任せよう!」という話になりました(笑)。そして、衣装さんからバッチリなものを用意していただきました! 靴も今まで厚底しか履いていなかったんですけど、思い切ってピンヒールにも挑戦して。写真だとわからないんですけど、透け素材になっていて、それもすごく大人っぽいなって。メイクは青いアイラインを引いて、髪の毛もあえて無造作に。メイクさんも「今回はグッと大人っぽくしよう!」とノリノリでした! スタッフの皆さんが毎回作品に合わせてコンセプトを考えてきてくださるので撮影も楽しいです。セットも、シティ・ポップ風味なイメージに寄せて、少しレトロな雰囲気にしていただいていただきました。撮影では、初めてダイヤル式電話を触ったのも印象に残っています!(笑)

──最後に、2月5日(日)、LINE CUBE SHIBUYAで行われる“富田美憂 2nd LIVE ~Fizzy Night~”について教えてください。
本格的な準備はこれからなんです。ラジオで「あと5カ月でライブですね」というお便りをいただき、気づけばもうすぐだなと。先日、『京まふ 2022』(第2回アニメ「かぐや様は告らせたい」を語る会~京都編~)の帰路で、マネージャーさんとライブの作品会議をして衣装や演出を考えていました。あくまでまだ想像なんですけどね(笑)。コンセプトがはっきりしているので、気持ち的には5曲それぞれに違う服を着たいくらいで。でもそれは分身しなきゃできない(笑)。どうしようかなあと考えているところです。ぜひ楽しみにしていてください!

取材・文/逆井マリ

とみたみゆ●11月15日生まれ。アミューズ所属。主な出演作はアニメ『かぐや様は告らせたい』(伊井野ミコ) 、『錆喰いビスコ』(大茶釜チロル、膨れ蚕)『アイカツオンパレード!』(虹野ゆめ)『メイドインアビス』(リコ)ほか。

コンセプトミニアルバム『Fizzy Night』


2022年11月23日(水)発売
価格:2750円(税込)

<CD>
1.Coming Up
作詞・作曲・編曲:涼木シンジ
2.群青Dreaming
作詞・作曲・編曲:フワリ
3.Catcher
作詞・作曲・編曲:椿山日南子
4.ベンチ
作詞・作曲・編曲:佐藤厚仁
5.My Guiding Star
作詞・作曲・編曲:MEG.ME

富田美憂 2nd LIVE ~Fizzy Night~
会場:LINE CUBE SHIBUYA
日時:2023年2月5日(日) OPEN 16:00 START 17:00
チケット価格:全席指定 7700円(税込)