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稲垣好「大先輩の一言で“お芝居に正解なんてないんだ”と気づきました」【声優図鑑 by 声優グランプリ】

稲垣好【声優図鑑】

キャラクターの裏に隠された自分自身をありのままに語る、インタビュー企画『声優図鑑 by 声優グランプリ』。

今回登場するのは、アニメ『黒の召喚士』(アンジェ役)などに出演し、2022年にアニメ『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』(結愛せるふ役)で初主演を務めた稲垣好さん。

幼少時は引っ込み思案で、高校でバンド活動をするようになってから、ようやく人前でも自分を表現できるようになったと語る稲垣さん。養成所での運命的な出会いを経て、今は“遊び”のあるお芝居を目指して猛進しているとか。これまでのこと、今気になっていること、そして今後の目標などをじっくり語ってくれました!

稲垣好
いながきこのみ●7月24日生まれ。アイムエンタープライズ所属。
主な出演作は、アニメ『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ』(結愛せるふ)、『黒の召喚士』(アンジェ)、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(コパノリッキー)ほか。

オフィシャルサイト:https://imenterprise.jp/profile.php?id=148

人前に立てるようになったのはバンド活動のおかげ

――アニメ『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』の舞台となった新潟県は、稲垣さんの出身地でもありますね。新潟というと、冬は雪深いイメージがあります。
冬は膝小僧の辺りまで雪が降り積もるので、雪の日は長靴を履いていましたけど、道路が凍っていても転ばずに歩けるという新潟県民ならではの特技があります(笑)。でも、雪合戦をすると長靴の中にも雪が入ってくるし、雪まみれになるし、冷え性なので冬の寒さはつらかったですね…。

――雪国出身だけど寒さは苦手だという…。そんな地元でどんな子ども時代を送っていましたか?
引っ込み思案で、恥ずかしがり屋で、幼少期はいつもお母さんの後ろに隠れている子どもでした。お店で注文を聞かれても、下を向いちゃうようなタイプ。でも、高校1年の時からバンドを始めて。それまでは、人前に出ると顔が赤くなっていたんですけど、バンド活動のおかげで、人前で自分を表現できるようになりました。中学生の時に『けいおん!』を観て、放課後ティータイム(作品内のバンド)みたいなバンドに憧れていたんですけど、中学にも高校にも軽音部がなくて。だから、高校になってから楽器ができる子たちに自分から声を掛けたんです。
――シャイな性格からすると、自分から声を掛けるのは緊張しそうですが。
そうなんですよ。でも、バンド活動が盛んな高校で、みんなバンドを組んでいたから、声を掛けやすい状況だったのが良かったんでしょうね。ただ、バンドメンバーが集まったはいいものの、誰もボーカルをやりたがらなかったので、私がキーボードとボーカルを担当していました。

――エレクトーンが特技でしたね。歌のほうは?
エレクトーンは3歳から習っていましたし、歌はもともと好きだったので問題なかったのですが、MCが大変で。最初は何もしゃべれない状態だったのが、3年間続けていたらしゃべれるようになりました。「みるきーうぇい」っていうバンド名だったので、みんなで「みるきーうぇい、サブウェーイ!」っていう謎の掛け声まで作って(笑)。

――語呂の良さが抜群です(笑)。どんな曲を披露していたんですか?
バンドの曲とか、ボーカロイドのカバーとか、アニソンも多かったですね。Supercellさんの曲もよく演奏していて、印象深いのは卒業ライブで歌った「さよならメモリーズ」。半泣きになりながら歌った思い出があります。

――卒業ライブを開催するくらいですし、相当人気があったのではないかと。
ライブハウスにも出ていたこともあり、おかげさまで多くの方に知っていただいていたみたいです。駅前でいきなり「あ、好さんだ」と言われた時は少し怖かったけど、バンドが知れ渡ったことがわかって嬉しかったです。

キャラクターになりきって歌うのが好きでした

――今は声優として歌うお仕事もされています。小さい頃から歌に触れることは多かったのですか?
小学校高学年くらいでアニメにはまってから、得意ではないですけど、いろいろな曲を覚えて練習していました。京都アニメーションさんの作品が好きだったので『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』、『マクロスF』とか。友だちとカラオケに行って朝から夕方までぶっ通しで歌う、みたいなこともずっとやっていました。ある日、自宅で練習していたら、音が大きすぎたのか親が帰ってきたことに気づかず、部屋のドアをノックされて「外まで聴こえてるぞ、上手だな」ってお父さんに言われたのが恥ずかしくて……。それからボリュームを調整するようになりました(笑)。

――将来は歌の仕事をやってみたいという気持ちも?
小学3年生くらいから声優になりたいと思っていたので、キャラクターソングを歌いたいなとは意識していました。いろいろな声を出せる人に憧れていて、アニメなどのセリフを真似していましたし、キャラソンもそのキャラクターになりきって歌うのがすごく楽しかったです。

養成所での出会いがなかったら、声優になれなかったかも

――日本ナレーション演技研究所(日ナレ)に入所されたのはいつ頃ですか?
高校を卒業したらすぐに上京して養成所に入ろうと思っていたんですけど、卒業間際になって、お母さんから「まだ一人暮らしなんてできないでしょ? お金も貯めてないでしょ?」と突然言われたんです。現実的に考えたら心配になったみたいで。それもそうだなと思って、新潟の専門学校で2年間学びながらアルバイトをして、お金を貯めてから上京して日ナレに通いました。

――苦労して念願の養成所へ。声優になる勉強は順調に進みましたか?
最初は周りの目ばかり気にして、「普通はどうするんだろう?」ということばかり考えて、型にはまっていたんです。できてはいるけど、表現が小さいというか。講師の方からも「そういうの、いっぱいいるよね」と言われて、ずっと悩んでいました。ある時、講師だった大先輩の坂本千夏さん(アーツビジョン所属)が、「そんなんだったら新潟に帰って別の仕事でもやってろ!」と敢えて厳しく叱ってくださったんです。その時は涙がボロボロ出てきて、「私はお芝居がやりたいんです!」と初めて反抗しました。今でも思い出したら泣けちゃいそうですが、それからがむしゃらにやっているうちに、今の事務所に所属できました。千夏さんに出会えていなかったら、きっと声優になれていなかったんじゃないかなって思います。

――坂本さんとの運命的な出会いが自分を変えるきっかけになったのですね。それからどんなふうに変わったんでしょうか。
とにかく、周りとは違うことをして爪痕を残そうと思うようになりました。正解を意識しなくなったというか、正解なんてないかもしれないと思うようになって。それからは千夏さんが褒めてくださるようになり、自分もだんだん堂々とできるようになって、自信がついていきました。最後は千夏さんが「あんたの芝居好きだよ」と抱きしめてくださって……。今でも心にずっと残っていますし、千夏さんが言ってくださった言葉を大事にしないとなと思いました。

――その経験が今の仕事に生かされていることが伝わってきます。今、声優として大切にしていることは?
演じる上での“遊び”です。お芝居に遊びを入れることで役が生きてくるような気がしています。今まではセリフを滑舌良く言うことを強く意識していたんですけど、『Do It Yourself!!』のアフレコでジョブ子役の大森日雅さんの演技を見た時に、滑舌や尺にこだわりすぎるのではなく、こんなに自由に表現していいんだ!って思ったんです。津田健次郎さんと掛け合いをさせていただいた時も、こんなに力を抜いてセリフを崩しても成立させられるんだ……と。『水星の魔女』では、榎木淳弥さん、畠中祐さん、KENNさんが掛け合いセリフを自由にアドリブでやられていて「それでいい、もっとやってくれ!」とディレクションされていたのが心に残っています。おかげでこちらまで楽しくなってきて、私も気持ちを引っ張られたんです。私のアドリブもちゃんと受け止めてくださって、もっと面白くしようとしてくださるし、OKが出た後もずっとアドリブが続くんですよ(笑)。そんな先輩方のお芝居を見て、私もあんなふうに演技をしたいと思うようになりました。この人なら面白いお芝居をしてくれる、そんな信頼されるような役者になりたいです。

声に特徴がない分、幅広い役になりきれる

――ところで、趣味に「イラスト」とありますが、どんなイラストを描いていたんですか?
保育園の頃から絵を描くのが好きで、漫画家を目指していたこともありました。でも小学2年のある日、コマ割りができないことに気づき。2コマとか見開きしかなくて、全部が見せ場みたいな感じ(笑)。その後は声優になりたいと思いつつ、もしなれなかったらイラストレーターになろうと思っていたので、中学では美術部に入りました。幽霊部員でしたが、文化祭だけはコピックで大きな紙に絵を描きました。友だちと朝4時くらいまで「今どのへん? もう完成する?」とか電話で話しながら仕上げて、私も『Do It Yourself!!』のせるふちゃんと同じように、絵で賞をいただきました。

――さすが、漫画家とイラストレーターを目指していただけあって本格的ですね。
最近はApple Pencilも購入しました! ゆるキャラみたいなものを考えるのが好きなので、LINEスタンプをいつか出したいなと思っています。

――漫画は読むのも好きだったんですか?
物心つく前から『ONE PIECE』の漫画を読んでいました。それから『銀魂』『黒子のバスケ』『BLEACH』といった王道の少年漫画にはまり、その後は『りぼん』『ちゃお』『なかよし』に載っている少女漫画も読みましたね。

――最近も読みますか?
最近はミステリー系が好きで、韓国のドロドロしている漫画にもはまったし、この間は夜中に少女漫画をバーっとまとめて買って読んじゃいました。『ふたりで恋をする理由』とか『カワイイなんて聞いてない!!』とか。家の中で過ごすのが本当に好きなんですよね。

――趣味の映画鑑賞のほうは?
ディズニーが好きで新作が出たら観ますけど、以前は1日1本観ていたのが、今はそんなに時間がなくて、どちらかというと、最近は漫画を読んだりゲームをしたりして休日を過ごしています。事務所の先輩方とDiscordを通じて『マーダーミステリー』をやることも多いですね。

――エンタメがいっぱいで楽しそうな休日ですね。
唯一外に出るとしたら、カフェが好きなので、頭がごちゃごちゃして整理したい時などに出かけます。ぼーっと考え事をしたり、手書きのスケジュール表にお仕事の反省点や目標を書き込んだり。

――たとえば、どんな目標を立てるんですか?
その時までに終わらせたいことやできるようになりたいことを、来週の目標、来月の目標、1年の目標、みたいな感じで決めています。また、お仕事前のルーティーンを決めておきたくて、仕事のスイッチを入れやすいよう毎回同じ物を食べてみたりもしますね。最近だと、事務所とコラボしている声優公認タブレット(『ミンティア+VOiCE レモンジンジャー』)というものがあって、それを仕事前に一粒食べると頭がすっきりするんですよ。

――書くことで意識が高まりそうですね。初主演を経て今後に期待が高まりますが、これからどんな声優を目指していきますか?
面白い演技をしている声優がいて、クレジットを見たら稲垣好だった……というのが理想です。もともとの声にはあまり特徴がないと思っているので、そのぶん幅広い役柄を演じて、いろんな声をお届けできたらうれしいです!

【声優図鑑】稲垣好さんのコメント動画

次回の「声優図鑑」をお楽しみに!

撮影=石田潤、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」

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