今年活動30周年を迎える保志総一朗さんが、アニバーサリーを記念してミニアルバム『Restart journey』をリリース。「旅立ち」をテーマに、ゆかりのある作家陣、さらに最近発足したばかりのユニット「Isla・la」のメンバーが制作に参加。“これから”へのスタートを華やかに彩ります。
30周年を迎えたけれど、まだまだ道の途中
──まずは30周年を迎えてのお気持ちをお聞かせください。
30年という実感はないまま、年数だけ重ねてきちゃった感じがありますね。25周年のときはしみじみと「四半世紀もやってきたんだな」なんて実感はあったんですけど、それからの5年間をコロナ禍が大きく占めてきたこともあって、あっという間だった気がしています。
──歌手としての意識で変わったこと・変わらないことはありますか?
歌手という言葉自体がまだしっくりこないんですよ(笑)。歌手という意識はあまりなくて、歌で一つの作品に参加しているという意識ですね。声優ほど専門家とは言えないかもしれませんが、でもやはり歌が好きという部分は変わらずあります。変わったことというのかはわかりませんが、25周年の時は、声優以外の活動でも頑張れたら良いなという意識がありました。別軸というよりかは、声優活動にもつながるような、いろいろなことをしていきたいなと。それが今、少しずつ形になっていて。声優としては30周年を迎えましたけど、まだ道の途中と言いますか。いろいろなことをやっていきたいなと思っていますね。
──保志さんは作詞・作曲もご自身で手掛けられていますが、本作にはさまざまなクリエイターが参加されています。制作にはどのような形で携わられていったんですか?
30周年のミニアルバムを出せるということで、今回はゆかりのある作詞家・作曲家さんにお願いしていて。以前のように自分ですべてをクリエイトしてプロデュースするというよりかは、いろいろな方に僕のイメージや、旅立ちというテーマなどをヒントにある程度お任せしました。プロデュース的な部分はあるんですけども、僕自身「どんな楽曲ができるんだろう?」とお客さん側の気分を味わえたといいますか。その一方で、集めたものをどういうバランスでみんなに届けようかなと考えていきました。
──ある意味、クリエイターの皆さんから保志さんへのプレゼントでもあるといいますか。
そうですね。僕にとってはプレゼントでした。お祝いしていただける気持ちもありましたし、新たなイメージをいただくこともできて、とても贅沢だなと。
──7曲中、6曲が新曲というのはファンにとっても贅沢なプレゼントです。
1曲でも良いから記念になるものをお届けできたらなと思っていたんですけども、ミニアルバムという形で、ファーストアルバムからゆかりの方々にも久しぶりに作っていただき、喜んでいただける方は多いのかなという気はしています。
──旅立ちというテーマはどのような思いから?
先ほども少しお話ししましたが、25周年のベストから5年経って、何かが大きく変わったというわけではないけれど、精神的に……今までの意識とは変わってきたかなというところがありました。これまではどちらかというとがむしゃらに突っ走って。年齢的にもレベルが上がった今、人生の第二章的なステージに行こうかなと。それでガムシャラ味を卒業しまして(笑)、ちょっとゆったりと、余裕を持って楽しんでいきたいなと思っていました。もちろん大変なこともいっぱいあるだろうけど、それすら余裕を持って迎えられるような……気持ちのステージを一個上げるという意味で、新たな旅立ちといいますか。『Restart』とタイトルにありますけど、やり直しや再出発というより、一つ上のステージに行った、という感じですね。
──何かきっかけがあってそう考えられるように?
コロナ禍を経て健康志向になったんですよ。若いうちは……というか、何年か前までけっこうヤンチャな感じだったので(笑)。ヤンチャはヤンチャで良いんですけどね。こういう職業なので常に先が見えなくて。だからこそ「今を楽しむ」という刹那的な生き方をしていたところがありました。でもコロナ禍に入って、業界的にも状況が変わりましたし、気持ち的に落ち込んでしまったところもあって「あまり良くないな」と。世の中的にどうなるかは大きなテーマなので難しいところですけども、まずは自分が精神的によく居られるには……と考えたときに「体が健康でいられたら、精神的にも余裕が生まれるんじゃないかな」と。自然とそういうモードになりましたね。
曲の対比も含めて楽しんでもらえたら
──それぞれの曲についてもおうかがいさせてください。オープニングを飾るのは「Star journey」。音楽的にも新たな挑戦が詰まった曲です。
作家さんたちによってオーダー具合は少しずつ違うのですが、バイオリンが印象的な、ロックなゲーム・ミュージックをオーダーをさせてもらっています。最初は「最先端のゲームミュージックをバリバリのロックでやったらどうなりますかね?」という投げ方でした。そしたらドンピシャなデモを作っていただき、すぐに「これでいきましょう」と。「Star journey」は新たな出会いの中で作っていただいたので(作詞:小寺可南子/作編曲:岡島俊治)、新曲の中でもとりわけ新しい風の入った曲になったと思いますね。岡島さんはゲーム・ミュージックに造詣の深い方で、僕も岡島さん方面のゲーム・ミュージックが好きなので、それを再現してもらいつつも、新たなものも詰まっていて。
──音楽的にもとてもぜいたくな内容ですよね。
最初の段階では曲順は決めていなかったんですけど、自信を持って1曲目に持ってきました。新たな風を感じてもらえたらと思っています。また、この曲はバイオリンをフィーチャリングをしていて、ミュージシャンの指名もさせてもらいました。岡島さん自身もドラマーということもあって、すごくカッコいいドラムを叩いてくれて。ぜいたくなオケになりましたね。
──「戦う者たち」に関しては、俊龍さんが久しぶりに楽曲を制作されています。
1stアルバム『ONE SONGS』ぶりですね。俊龍さんには関わりたいとは思っていたんですけど、2ndからは自分で作っていたのでなかなかお願いする機会がなくて。今回はぜひお願いしたいなと思っていました。俊龍さんの正統派のカッコいい路線の曲が僕自身も好きなので、また歌いたいという思いがあり、そういったオーダーをしたところ、曲としてバッチリな、正統派のものを返してくれました。歌詞に関しても正統派で来ると思いきや、声優活動30周年にフィーチャーされていて、まさかそうくるとは思わなかったんですよね。30周年にフィーチャーした、唯一の曲ですね。また、この曲だけハモもすべて僕が担当しています。
──先ほど余裕を持って……というお話がありましたが、<もう一人の俺が言うんだ「お前の喉はそんなもんじゃない!」>など、焚きつけられるような感じもあります。
飛ばしています(笑)。「Star journey」も「戦う者たち」はどちらも王道的で、熱い雰囲気ではあるんですけど、新しいメンバーによる「Star journey」と、かつてお世話になった俊龍さんの「戦う者たち」という対比が面白いなと。この2曲はあえて並べたいなと考えていました。
──3曲目の「Beautiful Life」は酒井ミキオさんならではの熱のこもった楽曲になっていますね。
がらっと変わって“ミキオワールド”全開ですね。ミキオさんにだけは具体的に曲なども例に出しつつ、「こういう路線にしたいです」とオーダーしていたんです。曲をもらって「さすがだな」と思いました。ミキオさんとは作品絡みでも長いお付き合いでもあるので……初めて聴きますけど、前からあったかのような、完成した曲になっているなと思いました。1、2曲目とはまた違う熱さがあり、物語の中に入り込んだかのような曲になっています。
──その酒井ミキオさんが作詞・編曲を務め、保志さんが作曲を手掛けられた「Soul of Rebellion」(『BLADE ARCUS Rebellion from Shining』主題歌)が4曲目に。この曲も熱いです。
既存曲としてはいちばん新しい曲です。ゲーム主題歌であり、配信用のシングルでもあったので、この曲も入れたいなと思っていました。ただ、ミニアルバムは旅立ちというテーマがあったので、ボーナストラックにしようかなとも思ったんです。でも最後がこの曲でめちゃくちゃ熱く終わってもな、と(笑)。じゃあミキオさんの新曲とつなげて聴いてもらったら面白いんじゃないかなと思っていました。どちらも熱い曲ではあるんだけども、「Soul of Rebellion」はオープニング的な立ち位置の曲で、その前の「Beautiful Life」はエンディング的な雰囲気。その対比を楽しんでいただけたらと思っています。
──そうした曲順の仕掛けも面白いところです。
自分なりの狙いがあって、曲順にもこだわりました。1曲、1曲にももちろんこだわっているのですが、トータルでひとつの作品という意識が強いですね。前半はとにかく飛ばしてます(笑)。
自身のユニット、Isla・laが参加したナンバーも
──そこから一転、RUCCAさん、Elements Gardenが手掛けた「KOHAKU」からは少しゆったり目に。新しさも感じる曲です。
曲名だけ見ると「カッコいい曲がくるんじゃないかな」と思うかもしれませんが、ここからはやっとゆっくりと(笑)。ミキオさんと違ってエレガさんに丸投げだったんです。「新たな挑戦ができるような、今までにないような楽曲を」という漠然としたオーダーをしていました。どういう曲が来るかはまったく分からなくて。試行錯誤していただきこういう形に落ち着いたんですけど、聴いたときに「今までに見せたことのない僕を見せられるかもしれない」と思いました。良い曲を作っていただきました。
──「風の旋律にのって」は、保志さんが発足したユニットであるIsla・la(アイララ)のフィーチャリング楽曲です。爽やかで、音の面白さもあって。
爽やかですよね。新曲の中では僕が唯一作曲した曲です。Isla・laは準備期間を経て今年3月からスタートしたユニットなのですが、声優活動30周年の時期と重なってしまうので、「どっちがどっちだろう?」と少し分かりにくくなってしまうのかなという懸念もあったんです。ただ、僕の気持ちとしては、あまり別軸とは考えていなくて。どちらの活動も自分の気持ちは一緒ですし、クロスオーバーしているので、Isla・laの座組で1曲は入れたいなという気持ちがありました。この曲を聴いた人はIsla・laの活動もチェックしてもらいたいし、その逆も然り、ユニットを聴いてくれている人たちにもこっちの作品を聴いてもらいたいなと思っています。このアルバムの中では最後に作った曲なので、路線は迷ったんですけども、前に出る曲というよりかは、少し後ろに下がって、このアルバムを優しく見守る立ち位置の曲になれば良いなと思っていました。それと、これまでやってそうで、やっていなかった曲をやりたいなという気持ちもあって。最終的にはIsla・laらしい楽曲になったと。
──.最後は「Shining Tears」を手掛けられた近藤ナツコさん、たかはしごうさんが再びタッグを組んだ壮大な「うたうたうたびびと」です。
「Shining Tears」からお世話になっているお二人なので、安心感がありましたね。ごうさんには普段アレンジでお世話になっていますけども、楽曲を作ってもらうのは久しぶりだったので、すごく楽しみにしていました。
──聴いた時はどのような気持ちになりましたか?
デモを聴いたときに「このアルバムのエンディングにしたいな」とイメージが浮かんで、迷うことなくラストに持ってきました。ごうさんはいつもコーラスも入れてくれていて、曲を支えてくれているんですけども、今回は入っていないんです。僕としてはごうさんに居て欲しいなと思っていたんですけど、あえて一人旅に出されました(笑)。旅立ちの寂しさもありつつ、一人で行かなきゃいけない時もあるよね、と。そういうドラマも感じるなと思いました。
──本作を聴いて“これから”の保志さんのご活動がますます楽しみになりました。最後に、今回のタイトルにかけて、新しくチャレンジしたいことについても教えてください。
なんだろうな。先ほど話題に上がったIsla・laは自分主体ですべてをイチからやっているんです。Isla・laに今は日々が支配されていて(笑)。発足してまだ半年ですし、これから、という感じではありますが……。保志総一朗とはまた違う音楽性で、いろいろな音楽を作っていけたらと思っています。今は日々チャレンジですね。
取材・文/逆井マリ
保志総一朗Profile
ほしそういちろう●5月30日生まれ。福島県出身。アーツビジョン所属。主な出演作は、『アイドリッシュセブン 』シリーズ(百) 、『機動戦士ガンダムSEED』(キラ・ヤマト)、『最遊記』シリーズ(孫悟空)、『ペルソナ5』(明智吾郎)ほか。
- Information
「Restart journey」
保志総一朗
発売日:2023年10月4日(水)
価格:定価:¥3,190(税抜価格¥2,900)
品番:KICS-4120
※初回製造分のみスペシャルBOX仕様
【収録内容】
<収録楽曲>
1.「Star journey」
作詞:小寺可南子/作編曲:岡島俊治
2.「戦う者たち」
作詞・作曲:俊龍/編曲:久保正貴
3.「Beautiful Life」
作詞・作編曲:酒井ミキオ
4.「Soul of Rebellion」(『BLADE ARCUS Rebellion from Shining』主題歌)
作詞:酒井ミキオ/作曲:保志総一朗/編曲:酒井ミキオ
5.「KOHAKU」
作詞:RUCCA/作編曲:岩橋星実(Elements Garden)
6.「風の旋律にのって」
保志総一朗 feat. Isla・la(作詞:小寺可南子/作曲:保志総一朗/編曲:森本貴大)
7.「うたうたうたびびと」
作詞:近藤ナツコ/作編曲:たかはしごう
★キンクリ堂限定セットも同時発売!★
アニバーサリーミニアルバム&ミニブック
販売価格:¥4,290(税抜価格¥3,900)
【商品内容】
CD:保志総一朗 アニバーサリーミニアルバム「Restart journey」(KICS-4120)
ミニブック「Log of my journey」:オールカラー/170×143mm/36ページ
撮りおろし写真、新規ロングインタビュー、セルフライナーノーツ等を収録