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【声優道】山寺宏一さん「声の実力がなければプロにはなれない」

『声優道 名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント』が3月9日から期間限定で無料公開中!
臨時休校などで自宅で過ごす学生の方々へ向けて3月9日~4月5日までの期間で随時配信予定となっている。

アニメや吹き替えといった枠にとどまらず、アーティスト活動やテレビ出演など活躍の場を広げ、今や人気の職業となっている「声優」。そんな声優文化・アニメ文化の礎を築き、次世代の声優たちを導いてきたレジェンド声優たちの貴重なアフレコ秘話、共演者とのエピソードなど、ここでしか聞けない貴重なお話が満載。

それぞれが“声優”という仕事を始めたキッカケとは……。

声優ファン・声優志望者だけでなく、社会に出る前の若者、また社会人として日々奮闘するすべての人へのメッセージとなるインタビューは必見です。

声の実力がなければプロにはなれない

▼広告代理店へ就職が決まりかけるも「やっぱりこっちなのかな」と役者の道へ
▼声優ってね、すごく差が出にくい仕事なんですよ
▼自分の得意技はあったほうがいい でも、別の技ももっているかどうかが大事
▼声優の世界は実力主義 声がダメだと100%選ばれない
▼失敗してもいいから、セリフだけは大きな声でしゃべろうと思ってた
▼「声優デビュー」はスタート地点 「声優の仕事を続けること」を目標にしてほしい

【プロフィール】
山寺宏一(やまでらこういち)
6月17日生まれ。アクロスエンタテインメント所属。東北学院大学卒業後、俳協の養成所で学び、卒業後俳協へ。1985年声優としてデビュー。以後、声優としてはもちろん、ラジオのDJ、舞台、映画、ドラマ、バラエティ番組などさまざまなジャンルで活躍。子ども向け情報番組『おはスタ』では司会を担当し、大ブレイク。「七色の声をもつ男」としても有名である。

広告代理店へ就職が決まりかけるも
「やっぱりこっちなのかな」と役者の道へ

今、中学生や高校生で声優を目指している人が多いでしょう? すごいよねえ(笑)。本当に声優ブームなんだなあって、ひしひしと感じますよね。僕なんて、声優になろうと思ったのは、大学を卒業する直前でしたから。それまで声優なんて意識したことさえなくて、普通に就職しようと思ってた。目指していたのは営業マン。広告代理店や旅行代理店とかだと楽しそうだし、口が立つ方だったから、まあ、いいかなあと。だから就職活動も、いちおうはやったんですよ。でもねえ、なんだか途中でイヤになっちゃった(笑)。そんなとき、たまたま地元の広告代理店にいる知り合いの人から連絡があって、「山寺くん、就職は? まだなら、うち来ない?」って言われたんですね。知り合ったきっかけは、大学時代に入ってた落語研究会へのCM出演の依頼。いわゆる地方CMなんだけど、僕が出演したんです。その縁で、声がかかったから、こりゃいいやって。だから、就職先も決まっていたようなもんなんです。

ただその頃、俳優や声優を目指す人向けのガイドブックがちょうど出始めた時期だったんですよ。書店に行くと、今はいっぱいあるでしょう。当時はハシリだよね。物珍しかったし、その世界に興味がないわけじゃない。そう思って読んでみると、「う~ん、やっぱり、こっちなのかなあ……」ってなっちゃって(笑)。で、結局は「よし、やりたいことは、やったほうがいいよな!」って踏ん切りをつけて、俳協の養成所に応募したんです。

もちろん将来、声優として食っていけるかどうかなんて、ほとんど考えてないですよ。親にはいちおう、「30歳までに、食える声優にならないときは辞める」とは言いました。けれどそれは、声優という仕事がどうこうというよりも、東京での生活の厳しさを考えただけなんです。僕は宮城県の出身で、大学も地元。しかも、22歳まで実家に暮らしてたんですよ。だから、食えないままで、ずーっと東京で暮らすのは、すっげえ大変だろうなあと思っただけ(笑)。

俳協の養成所を知ったのは、『声優になるには』という本でしたね。俳優編も一通り目を通しましたけど、劇団の紹介には、シェイクスピアがどうのこうのとか書いてある。なんだこりゃ、わかんねえやと(笑)。その点、俳協の養成所では、芝居も舞台も習うこともができるし、それに羽佐間道夫さんや中村正さんという名前と仕事が書いてあって、「あの洋画のあの声は、この人だったのか」と思ったんですね。将来、声優の仕事への道筋もある気がして、「ココだよな」と決めて。そのとき多分「俺にもできそうだな」とどこかで思ってたんですよ。

声優ってね、
すごく差が出にくい仕事なんですよ

声優になろうと思ったことはなかったけど、向いてるかもしれないと考えるところは、たしかにありました。僕は小さな頃からものまねが好きで、それも、いろんな声をマネして人を笑わせるのが得意だった。友達とか先生とか、テレビのアニメキャラもやってたし、動物の鳴き声までマネしてましたから(笑)。とにかく自分はどんな声が出るのか試してみるのが大好きだった。どこまで高い声が出せるだろう、低い声はどこまで低くなるんだろうなんて、考えてみると、大学生までそんなことばっかりやってたかなあ(笑)。自分の声に興味があったことも、それから、大学時代、落研に入ってたことも、声優・山寺宏一の中で、生かすことができてる。その意味でも、声優という仕事に出合ったことは、本当に幸せだと思っています。

ただ、だからこそ、いつも考えているのは、一つひとつの仕事に、ちゃんと答えを出していくしかないということ。答えというのは漠然としているけど、いろんな答えがあると思う。でも、どんな答えであってもちゃんと出さなくてはいけないって。

実は声優ってね、すごく差が出にくい仕事なんですよ。誤解を恐れずに言うと、それはつまり、声優の声にはそれほど大きな違いはないということです。うん、これから声優になりたいという人にとっては、意外かもしれない。好きな声の声優もいるだろうし、いろんな声優の声を聴き分けられる人も少なくないでしょうから。でもね、たとえば俳優さんの場合、二枚目と言われたら、いろんなタイプがいるでしょう。ところが、映画の吹き替えでもアニメのアフレコでも、二枚目の声に、それほどの違いはないんですよ。もし、僕がアフレコをしている二枚目のキャラを別の声優がやったとしても、驚くほどの違いは出にくいんです。誰かと入れ替わったとしても、大抵の人は気づかないかもしれない。そういう仕事でもあるんですね。

自分の得意技はあったほうがいい
でも、別の技ももっているかどうかが大事

ちょっとだけ、辛口で言わせてもらおうかな(笑)。今、声優が活躍する場って、映画やアニメだけじゃなくて、OVAもあればゲームもあるし、ラジオも電波以外のインターネットラジオがあるし、それにパチンコだって声優が必要でしょう。それこそいっぱいあるんですよ。こうしたなかで、「このキャラは、この声優しかいない」といわれる声優が、どのくらいいるかというと、少ないんですよ。もちろんそれは、自称・器用貧乏な僕も含めての話なんだけど(笑)。もちろん、声優ファンにとっては、「このキャラはやっぱり……」という見方もあると思う。でもね、普通に見ている人にとって、そこまでじゃない。かつてのアテレコ創世記を支えてくださった先輩方のなかには、個性的な声をもつ声優はたくさんいたと思う。外国映画の俳優を見た瞬間、心の中に声が聴こえるような声優、と言えばいいかな。そういう声優が少なくなった理由は、いろいろあると思う。誰にもマネができないほど個性的な声の持ち主なんてめったにいない。いや、もしかしたらいるかもしれないけど、その個性的な声が求められるかどうかは、別の話なんですよ。この場合の「声」って、もちろん声質だけじゃなくて、演技力、表現力も含めての意味ですけどね。

それにね、たとえ個性的な声だとしても、それだけで勝負できるほど、甘い世界じゃないんです。自分の得意技はあったほうがいい。でも、別の技ももってるかどうかが大事なんです。たとえば「ありがとう」という言葉を言うときに、声の高低、質感はもちろん、微妙なニュアンスを含めれば100万通りだってある。でも、100万通りできるようになれという意味ではなくてね、そのうち、ものにできたのは何通りあって、なかでも得意技はどれかというくらいの気持ちは必要なんですよ。

そのためにも、声優になりたいのなら、自分はどんな声をもっているのか、どんな表現ができるのか、自分の声に興味をもって、幅を広げていってほしい。あと、やっぱり声量は大事ですよ。声優にとって声量は、車にたとえると排気量みたいなものでね、排気量が大きい車はスピードも楽に出せるけど、ゆっくり走っても快適に乗れる。つまり、声が大きい、声量があるというのは、幅を広げる意味でも、声優にとって武器になると考えてください。

声優の世界は実力主義
声がダメだと100%選ばれない

僕がプロとして、一つだけ自信をもって言えるのは、声優という仕事の世界はすごくクリーンだということです。声優としての実力さえあれば、たとえ年齢が若かったとしても、その実力はきちんと評価してもらえる世界。声優としての力がないのに、誰かの後押しだけでキャスティングされるなんて理不尽なことがない、いや、あってはならない、本来の意味での実力主義で動いているはずなんです。

いや、でも、声優ってね、受け身の仕事なんですよ。制作サイドが僕たちを選び、僕たちは選ばれて仕事をする立場。だからキャスティングされるには、さまざまな要因があって、人間性がいいってのもそうだし、場が盛り上がるとかね。演出家と気が合うのも大事。ただ、そこも含めてプロの声優の実力ではあるけれど、声がダメだと、100%選ばれない。最も重要視されるのは、やっぱり演技力なんですよ。声優の仕事は、これからも声という実力が評価されると思う。だからこそ、自分の声を良く知って、どういう道を選べばベストなのか、最善の入り口を見つけ出してほしいと思ってます!

失敗してもいいから、セリフだけは
大きな声でしゃべろうと思ってた

俳協の養成所を卒業した後、プロダクションも俳協所属になりました。養成所の同期では6人だったかな。松本梨香も僕と一緒の俳協組でしたね。初めてもらった仕事は忘れもしない、入ったばかりの4月。作品は、劇場用の『キャプテン翼』でした。

ところが僕、「仕事入りました」って言われたときに、いったん断っているんですね。実は当時、養成所の先輩が旗揚げした「冒険団」という劇団にも入っていて、しばらくは、声優と舞台の二足のわらじでいこうと思っていたわけ。そしたら「冒険団」の旗揚げ公演で「主役をやってくれ」って言われて、だから『キャプテン翼』の仕事の話があったとき、「すみません。ボク、もうすぐ芝居が本番なんです」って断ったら、もうめちゃくちゃ怒られてね(笑)。「ふざけるな! 来た仕事を断るなんてとんでもない! 何様だ!」って話ですよ。まあ今思うと、当然なんですが(笑)。

そうそう、アニメ作品のデビュー作は、『キャプテン翼』じゃなくて、養成所時代にオーディションを受けた『メガゾーン23』。僕が逃した主役は(笑)、NHK教育テレビ『つくってあそぼ』の〝わくわくさん〟こと久保田雅人さんで、ヒロインが荘真由美さん。ほかには、川村万梨阿さん、冨永みーなさん、岡本麻弥さんなんかがいてね。仕事よりもまず、「かわいいコばっかりだあ」なんてね(笑)。みーなちゃんはセーラー服、岡本麻弥ちゃんは高校の試験中だったかな。そんな時代ですよ(笑)。

スタジオで驚いたのは、アニメ自体は、まだ完成してなくて、いわゆるオール線画の状態だったこと。生まれて初めてアニメの声優をやるっていうのに、キャラクターの顔一つできてないし、色もない。ただのビーッという線だけです(笑)。もう、何が何だかわからなかったなあ。

そういえば『キャプテン翼』もぜんぶ線画で、どこでセリフを言うのかわからなくてね。先輩の伊倉一恵さんに背中を叩いてもらって、やっとって感じでした。

でも、ド新人ながら思ったのは、失敗してもいいから、とにかくセリフは、大きな声でしゃべろうっていうこと。積極性がないように見られるのはイヤだったんですよ。それがまぁ、本当に失敗に結びついてね(笑)。ナレーションが入るところで「こっちだ! パスだっ!」とか思いっきり叫んだら「オイ、ナレーションだろう!」「それは別録りだ!」ってすっごい叱られたことは、今でも覚えてますよ。

「声優デビュー」はスタート地点
「声優の仕事を続けること」を目標にしてほしい

声優だけで食べていけるようになったのは、プロダクションの俳協に所属して4年目くらいです。いつ仕事がなくなるかわからなかったので、それまで養成所時代からのバイトをずーっと続けていました。ウナギ屋さんなんですが、配達用のバイクで稽古に行ったりして(笑)、居心地はよかったんですよ。初レギュラーは、『ボスコアドベンチャー』というTVアニメ。「レギュラー1本で頑張ってます。何でもやります! よろしくお願いしまーす!」なんて自己紹介がウケてた時代がしばらくあって(笑)、アニメのレギュラーがだんだん増えてきて、同時にラジオCMや企業の教育ビデオのナレーションなども入ってきた。声の仕事で入るギャラは、最初の頃はないに等しいぶん、仕事が入れば収入は倍々になるわけ。その点ではかなり順調だったんだけど、それは、いいことばかりではなくて、どん底の苦労を味わっていないことが僕の弱点でもあるんですよ。

ただね、プロとして意識しているのは、一つひとつの仕事の結果です。前回「声優の世界は実力主義」って話をしましたけど、そこで大事なのは、「向上心」だと思ってる。「向上心」をもっていることも実力のうちだってことですね。
声優に憧れて、声優になろうとする人が多いのは大歓迎。だけど、「声優になる」っていう言葉の意味は、「声優デビュー」じゃなくて、「声優の仕事を続けること」じゃないかなあ。声優デビューはスタート地点。そう思っていると、養成所で学ぶ姿勢も違ってくるでしょう。声優になると、日々いろんな仕事と出合う。そのとき、いかに「向上心」をもって取り組み続けることができるか。志は高くもって、ぜひ僕らの仲間になってくださいね!

(2007年インタビュー)