【声優道】戸田恵子さん

演じることは表現すること
そして、発信してゆくこと

演じることとは別に、やってみたいこと。それは、自分を発信していくことです。まだ漠然としか考えていないのですが、チームを組み、ステージをベースにしてものを表現していくことができたらと思っています。役者というのも表現者の一つの姿ですが、もう一つ立ち位置を変えてみたときに見えてくるものというのもあるのではないかと思うのです。たとえばそれをしたあと、自分の演技にだって変化が現れるものでしょうし、これはぜひともやらなければと思っています。

表現するということは、そこに受け取り手がいるということ。つまり、たとえ相手の顔が見えていなくても、それは人との関わり合いなのだと思います。そういったものを大切にしていくというのもまた、仕事をしていくうえではとても大事なものだと考えています。そう言ってしまうと、「声優」という言葉からはいささか飛躍してしまっているように感じられる人もいるかもしれません。ですが、この「声」という意味を、単純に口から出る音のことだと受け取ってほしくはないんです。そうではなくて、表現者として発信したいこと……つまり自分の「声」は何なのか。表現したいことは何なのか。そういうことを考えることが大事なのではないでしょうか。

「いい声」かどうかにとらわれて
スタートを切れないのはもったいない

よく、声がいいとか、声が悪いとか言うじゃないですか。「声がいいから声優に向いてるよ」とか「声が悪いから声優なんて自分には無理だ」とか。でも、そんなことはあり得ない話です。いい声のキャラクターばかりが登場する作品とか、想像できますか? だいたい、いい声というのはどんな声のことなんでしょう。たとえどんな声であれ、そういう声の人がいるということは、そういうキャラクターがいるということ。声が悪いからといって声優に向いていないなんてことはありませんし、そもそも、悪い声というのもおかしな話です。だから、これから声優を目指そうとする人には「声が悪いから……」と諦めてほしくはないですね。

それよりも声優として大切なのは、どれだけさまざまなことに努力できるかだと思います。経験や知識が自分の引き出しを増やし、演技の幅を広げてくれます。だから、どれだけ経験し、どれだけ知識を得るかということが、演技者としてとても大事な要素になってくるはずです。もしかしたら、最後にはセンスの勝負になるかもしれません。ですが、そこに至るまでの努力というのは誰にでもできるもの。そして最終的に、センスで劣ることはあるかもしれませんが、そこまで到達したときに、人は何者かになっているのではないでしょうか。いい声なのか、悪い声なのか。そんなふうに声だけにとらわれてスタートが切れないのは、とてももったいないことです。せっかく興味が向いたのであれば、何はなくとも一歩踏み出してみることが大事。目標をもてるということは、それだけでとても幸運なことかもしれないんです。むしろ、「声なんて二の次だ」くらいのつもりでいてほしいなと思います。いちばんは、何と言っても芝居の力なんですから。

技術的なものだけでなく
人との関わりを大事にしてほしい

また、とにかく大切なのは人との関わりですね。仕事となると周囲にはたくさん人がいるわけですが、「人とうまくいっていないのに、仕事だけがうまくいっている」などということは、まずありません。人付き合いが苦手だったり、臆病だったりする人もいるかもしれませんが、このあたりは、仕事をしていくうえではとても大事なことだと思います。私は、いきなり声優の世界に入りましたが、現場で仕事をしている方々を見て、仕事の仕方や、仕事に対する向き合い方を学んできました。いったいどんな距離でマイクに向かったらいいのか、スタジオでどこに座ればいいのか……。そんなこともわからないド素人だった私が今でもこうして声優として演じ続けていられるというのは、周囲の皆さんとの関わりがあったからだと思いますし、今でもその出会いには感謝しています。

私は子役からスタートして、ずっとこの道を今まで歩んできました。人とは少し違った生き方かもしれませんし、実際にそう言われることもしばしばあるのですが、だからといって「自分は人と違う世界にいるのだ」と考えたことはありません。

今は、私がスタートした時代とは違い、声優の養成所や学校もたくさんあり、技術はそこで教えてもらえます。新人の声優さんなどでも。しっかりとした技術を身に付けているなと感じさせられます。ですから、そういった技術的なものプラス、経験や知識に支えられたイマジネーション、そして人との関わりなどといったことも、よりしっかりと意識しておくべきだと思うのです。そういったことは、自分で意識していかないと、身に付きませんからね。

これから声優を目指す人たちには、まず、芝居の力を身に付けること。そして、自分の「声」を最大限に活かし、みずから何を発信し、その「声」で何を表現するか、たくさんの人との出会いの中できっと学ぶことができると思います。すべては出会いです。

(2010年インタビュー)

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