【声優道】藤原啓治さん

うまくなれば必ず仕事はある!
シンプルに考え、向上心をもって学ぶべき

僕は声優養成所を出たわけじゃないし、声優への道と言っても、どこが入り口なのかわからないようなところがありました。今はわかりやすい入り口が増えたぶん、ライバルの数も飛躍的に増えていると思います。勝負は、いかにして抜きん出るか。どんなにライバルがたくさんいても、誰かは必ず生き残っているんです。言えるのは「残っている人が努力した人」ということ。これはもう、言い切ってもいいな。

勉強する場所は、養成所の教室だけとは限りません。たとえば、僕がやったように、テレビを参考にするのはかなり有効です。クラスの中でうまい下手を話し合うのもアリかもしれませんが、これだけ簡単にプロの仕事が見られるんですから、使わない手はないと思います。あとは、変に偏らずに一般人でいようという意識もすごく大切。この仕事を長くやっていこうと思うと、アニメや漫画以外も必要なんじゃないかと思うことがあります。日常生活の中で見聞きするもの――その中にだって参考になるものはゴロゴロしているはず。そういうものを得て想像力の幅が広がっていくわけですし、想像力は役を演じるうえでとても大切なものです。

長く仕事をし続けたいのならば、うまくなるしかありません。逆に言えば、うまければ必ず仕事は来ます。シンプルに考え、向上心をもって学ぶべきでしょう。あとは、人のために頑張るという意識もすごく大事。人間、自分だけのために頑張ろうと思うと限界があるんです。たとえば学費を出してくれている親に親孝行したいだとか、そういうことでいいんですよ。ちなみに僕は、亡くなった父親のお墓を建ててあげられたときに「ああ、頑張ってよかった」と実感しました。

ひろしというキャラクターを通して
自分のできることに広がりが出始めた

仕事で新人さんに望むのは、うまい下手よりも、マイクの前でどれだけ声が出せるか。何かをやろうという意気込みが、いちばん見たいんです。不慣れなのは周囲がわかっているんですから、そんなこと気にしなくても大丈夫。むしろ「不慣れですけどプロです」という意識で来てほしいですね。若いうちは、失敗しても許されるもの。だからどんなに誘惑が多くても、たとえば1年とか2年とか期間を決めて、「その間、俺はこれしかやらないぞ」と脇目もふらずに打ち込んでみるのもアリですよね。

仕事を続けていくうえでとにかく感じるのは、求められていることのありがたみです。自分の声、自分の演技を見て「こいつに頼もう」と誰かが思ってくださるというのは、本当にありがたいこと。アニメを観た方々が、僕の名前を覚えてくださるというのも、同じです。ただ、そういった声に合わせて「自分のイメージを大事にしよう」というのはもったいないことだと思います。ニーズに応えるのではなく、自分の演技を楽しんでもらうこと。これができたらいちばんいいのではないかと思います。

今は、たとえば新人さんが人気作品に抜擢され、作品が当たれば、ポンとポスターになってしまう。声優を目指して声優として名をはせるわけですから、これで夢が叶ったと思ってしまう人もいるかもしれません。ですが、そこがスタートラインなんです。そこからどういう意識をもち、どう演じ続けていくか……。そこが大切な部分なのではないでしょうか。ファンのニーズに合わせようとし続けている限り、やはり使い捨てというか、飽きられ、忘れ去られてしまう危険がつきまといます。だからこそ、自分のできることの幅を広げていくことが大事なのではないかと思います。しっかりと、向上心や志のようなものをもち、貪欲に進んでいくことが、長く続けていく秘訣でしょうね。

自分の演技の幅を広げていくうえで、いちばん印象に残っているキャラクターは、やはり野原ひろしでしょうね。この役をいただいたのが、声優としてまだキャリアの浅い2年目の27歳のときだったということ、そして『クレヨンしんちゃん』が人気番組だったこともあり、一時期は「やばいな、このままではひろししかできなくなってしまう」みたいな焦りもあったけど、今はそれもありません。いろいろな顔をもつひろしというキャラクターを通して、自分もものすごく成長したと思います。いい加減、ひろしとの付き合いも長くなっていくうちに、だんだん自由に演技ができるようになってきました。だからひろしを通していろいろな実験をすることもできたし、あれこれ試行錯誤した結果、27歳ではできなかったことを今やることができています。自分のできることに広がりが出始めたなと感じたときは、本当に素晴らしい気持ちだったな。そういう裏付けを重ねて、自分がこの仕事に対して抱えていたコンプレックスを克服したのだと思います。