【声優道】大原めぐみさん

〝声だけで表現する難しさ〟の壁にぶつかり
毎週夜遅くまで居残り収録……

『ドラえもん』に決まってうれしくて、「決まったからには頑張ろう」と思っていたんですけど、「自分にできるのかな? やっていけるのかな?」という不安も大きかったのです。でもその不安は、徐々に覚悟に変わっていきました。

いざ収録に入ると緊張だらけでした。それまで自分が観ていたアニメーションをやってらっしゃる憧れの声優さんたちが現場にいらして、そのなかで、自分がマイク前に立って芝居で絡んでいくわけですから。その作業って、すごいことだと思いました。

最初の頃は余裕もなくて、アドバイスをいただいても、自分が要求されていることをちゃんとキャッチできなかったんですよ。現場のスタッフさんも、もどかしかったんじゃないかと思います。自分の気持ちはのび太役とシンクロできていると思うのに、それを声だけで表現することが難しくて。そのとき、音で感情の起伏を表現する難しさという壁にぶつかりました。監督さんからも「気持ちは合っています。でもそれじゃ届きません」と言われて、「どうしたら声だけで観る人に届けることができるのか?」と悩みました。映像だと表情や仕草でも表現できるけど、〝声だけ〟というのは本当に難しかったですね。

随分〝居残り〟収録もやりました。『ドラえもん』では収録前に入って先にリハーサルをして、ほかのキャストの皆さんが入って収録スタート。皆さんの収録が終わってから、私はその後、自分ができていないところを居残りで録っていました。毎週夜遅くまでやってましたね。
私に付き合ってくださったスタッフさんはもちろん大変だったと思います。ドラえもん役の水田わさびさんもずっと付き合ってくださって、本当にありがたかったです。わさびさんだけなら録り終わって帰れるところを、ドラえもんとのび太の関係性があるので、一緒に残って見守ってくださったんですよ。

スネ夫役の関智一さんにも相談させていただいて、「自分の考えている、感じているのび太くんでやれればいい。いろいろ考えなくても、めぐみちゃんはのび太くんなんだから、そのままでいいんだよ」と言っていただきました。また、しずかちゃん役のかかずゆみさんとも「この話はどうやったら面白くなるかな」と話し合ったり、「このセリフは、こう立てたらいいよ」とアドバイスをいただくこともありました。

『ドラえもん』のキャストは皆さん忙しい方なので、個々で動いている感じもしますけど、誰かが困っていたら、サッと手を差し伸べてくれるんです。私はフォローするよりもっぱらフォローされることが多いので、支えていただいている感覚が常にあります。本当に感謝しています。ベタベタした感じではないけど、みんなでいい作品を作り上げていこうという結束力はすごくあると思います。

勉強の内容は変わっても
声優としてのゴールはない

その後、『ドラえもん』の〝居残り〟収録にかかる時間は少しずつ短くなって、だんだん早く帰れるようにはなりました。役にシンクロする感覚がつかめるようになったのは10年くらいたった頃。つい最近のことですね。今ではようやく役とシンクロできる感覚が多くなってきて、『ドラえもん』という世界観をのび太と一緒に楽しめるようになってきました。

ただ、気持ちを音で表すのは本当に難しくて、今、声優の勉強をされている皆さんも、この壁を感じることがあるんじゃないかと思います。私も「どうしたら監督の求めている芝居に到達するんだろう」と思い悩んで、プロデューサーさんに相談したこともありましたが、そのときは「それは大原さんが自分で気づかないとできないんじゃないかな。私たちも、言葉では説明できないから」と言われました。なので、現場で先輩たちがどうやって表現しているのかを見て、必死にヒントを探していました。これは自分自身の感覚でくみ取っていくしかありません。

現状で満足したら成長が止まってしまうので、常に勉強は必要です。勉強の内容は変わっても、声優としてのゴールはないと思います。常に好奇心をもって何かに挑む行動力が必要でしょうね。もちろん今も現場でダメ出しをいただくことがありますが、そこを真摯に受け止めて、何らかの成長を得られたらと思っています。

これまで現場で怒られたこと、ご指摘いただいたことは、たくさんあります(笑)。何度もやり直しているうちに、声がお腹から出ていなかったことで芝居の幅が狭まっていたことに気づいたことも。先輩方は体が楽器のようになっていて、2オクターブ、3オクターブと声が出るんですよ。私はきちんと声が出ていなかったから、その幅が狭くて、表現の幅も狭かったんです。これから声優になる皆さんは、体が楽器になるように、自在に声を出せるように、腹式の発声をしっかりマスターしておいてほしいです。

そういう失敗や反省から学べることもたくさんあるのですが、これからの若い声優さんたちは〝失敗すると次につながらなくなる恐怖感〟をもって挑まなければいけないとも思います。

もちろん、私も〝『ドラえもん』をクビになるかもしれない危機感〟は常にもっていますよ。あるとき「もう(役を降りていただいて)いいですよ」と言われても後悔しないように、毎回「今できることを全力でやろう」と思って取り組んでいます。そういう気持ちは、もち続けていないといけない。そこを甘えたら、その気持ちが音や芝居になって出てしまう気がするんです。

のび太はやっぱり国民的キャラクターなので、責任感は常にもっています。「観てくれる皆さんに楽しんでもらうにはどうしたらいいのか?」と考えながら台本を読んだり、表現の仕方を工夫しています。そんななか、ファンの方から「のび太が頑張っている姿を見て勇気をもらっています」という内容のお手紙をいただいくこともあって、のび太を演じる上で大きな励みになっています。声優として、とてもやりがいを感じますね。

毎年、自分の子供を連れて『ドラえもん』の映画を観に行くのですが、劇場で笑っている子供の姿を見ると、「ああ、やっていて良かった?」と思います。劇場で大人も子供もスクリーンに惹き込まれて心が動いている状態を目のあたりにすると、「私って、こんなに素敵なお仕事をさせてもらっているんだ」と幸せを感じるんです。

自分さえ諦めなければ
何歳からでもスタートできる

今、若い声優さんたちを見ていると、自分が新人時代にダメ出しされて悩んでいたことを思い出しますね。「自分はこういう芝居をしたい」と主張したり、自分の考えを変えられない人もいると思いますが、指摘されたことを素直に受け入れることが大切です。相手(音響監督など)が何を求めているのか、自分は何を求められているのかをしっかりキャッチし、掘り下げて考えてみること。相手に寄り添ったり、相手を思いやる気持ちがないと、求められた芝居を出すことはできないと思います。

また、すべての経験が役者の引き出しになるので、いいことも悪いこともたくさん経験しておくこと。それらが役に立つときが絶対に来るので。学生なら部活やバイト、恋愛など何でもいいのでいろんな経験をしてほしいです。つらい経験でも、何もやらないよりは、そこから学びとれるものがいっぱいあります。たくさん心が動くきっかけになりますから、何にでもトライしたほうがいいと思いますよ。

昨今は声優業界も低年齢化してきていますが、本当は自分さえ諦めなければ何歳からでもスタートできるんです。私も27歳で声優を目指し始めて、養成所に入ったときは年齢が上のほうでしたけど、私より年上の方もいました。やる気さえあれば大丈夫!! ぜひ夢に向かって行動を始めてください。

(2017年インタビュー)

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