【声優道】松本保典さん

憧れだった先輩方のアドリブに
『太陽の勇者ファイバード』で挑戦できた

最初の主演アニメ『超音戦士ボーグマン』の頃は、OKが出ても、どこが良かったのか、自分ではよくわからないというありさまでした。そこから少し慣れてきて、いろいろ楽しんでやれた作品となると、勇者シリーズの『太陽の勇者ファイバード』でしょうか。その主人公をやったときは、思い切ってやってみたアドリブだったり、自分のやった演技が後々の台本などに活かされたりして、「これは楽しいな」と思いました。

この作品では永井一郎さんと滝口順平さんが一緒でした。滝口さんは悪の親玉役で、現場で初めてお会いしたときは「あ、タイムボカンの〝おしおきだべぇ〟の人だ!」って(笑)。お二方とも毎回、ルーティンワークのような取り組み方ではなく、がっつり作品と向き合って芝居を作っていたのが、印象的でした。しかも芝居だけじゃなく、アドリブもすごい。八奈見乗児さんと初めて共演した時は「この人、真面目にやっているんだろうか?」と思ったくらい、すーっと力の抜けたところで変則的な球が来る感じなので、芝居で絡むのに本当に気が抜けない。楽しいけど大変でした。

僕がいた劇団の座長だった緒方賢一さんは、もともとお笑いが好きで、舞台でもアドリブを入れながら芝居をやっていました。収録現場でもアドリブをやられるから「時と場合によってはやってもいいんだ」と、自分でもチャンスがあったらやろうとは思ってはいたんです。でも最初の頃は緊張してガッチガチで……。ボーグマンでご一緒させていただいた井上和彦さんは、肩の力の抜けた何げない一言をふっとはさんでくるから、「ああ、こんなふうにやれたらいいなぁ」といつも思っていました。

アニメやゲームが好きなことは、ただのきっかけ
「表現者になる」という認識をもって

今、この世界に憧れて入ってくる方は多いと思いますが、実はデビューすることよりも続けることの方が大変なんですよね。うまいだけでも続かないし、人とのつながりも大事にしないといけない。長く続けるためには、一つには縁というものが大きいのかなと思います。スタッフとのつながりだったり、作品や役との縁だったり。オーディションだけでなく、そういう縁の中で仕事が続いたりもしますから。

もう一つは、それまでの仕事の現場で何をしてきたのかが大きいと思います。なので、地味な話だけど、その場その場でできる事を精いっぱいやって、自分の爪痕を残していくことが大事なのかなと。僕も何かしら残していこうとは思って、毎回仕事に臨みます。常にうまくいくわけじゃないけど、それが縁というか、次へのつながりを生んでくれるのではないかと思っています。

僕ら声優は、現場でマイク前に立つときは「役と向かい合うのは自分だけ」という意味で、常に一人なので、表現を自己修正していく力をある程度必要とされるんですが、時にはいろいろな方から話を聞くことも大事です。自分の〝やったつもり〟は、オンエアを観ると、もくろみと違ったりしますから、そのとき自分を客観的に見てくれている他人の意見を聞くのは大事ですよね。だからもし「人とつき合うのは面倒臭い」と思っている人がいたら、「それはそれで大事だよ」と言ってあげたい。

「アニメや漫画、ゲームが好きだから声優になりたい」という話をよく聞きますが、それはきっかけにすぎません。最終的には「表現者になる」という認識をもってほしいです。演技を含め、表現することが好きになれるかどうかが大事なんですよ。「アニメやゲームが好き」というのはモチベーションの一つかもしれないけど、今では、この業界ではない方々も声優として活躍していて、要は表現力さえあれば、アニメ大好きじゃなくてもやれてしまう、というのが本当のところです。

僕らの頃は、どうすれば役者や声優になれるのかすらわからない時代でしたが、今は養成所なども多く、具体的に道筋が見えるので、きちんと表現者になることを目指してほしいと思います。その結果として自分の好きなアニメやゲームで活躍できたら、こんなに楽しいことはないですよね。

ちょっとおこがましいんですが、僕は声の仕事のとき、それこそ〝吹き替えている〟かのようにしゃべるのではなく、自分が全身で演じているかのように、画面というか、作品の世界の中にいたいと思っています。その辺は、いまだに試行錯誤していますけどね。よく〝声をあてる仕事〟なんて言われますけど、「それだけじゃないよ」とは言っておきたい。別にこれは、僕だけの特別な意見ではなくて、演技の理屈がわかっている人なら、みんな同じことを思っていると思います。

(2017年インタビュー)

『声優道 名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント』


『声優道 名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント』
定価:本体1,400円+税
ご購入はこちらから