【声優道】榎本温子さん

「本当は雪野がやりたかった」と
『カレカノ』庵野監督に直談判

声優デビューした半年後にアニメ『彼氏彼女の事情』(以下、『カレカノ』)(※1)のオーディションに受かって、宮沢雪野役でTVアニメデビューとなりました。まさにシンデレラストーリーですよね。それが偶然にも、以前ラジオでお会いした庵野秀明監督の作品でした。オーディションは事務所に入っていない一般の方も受けていたので、全部で7000人くらいの人たちが受けていました。私たちは事務所枠で受けていましたけど、庵野さんが新人を使いたかったらしく、受けられるのは新人に限られていたようです。

実は、事務所からは別の役を受けるように指示がきていたんです。でも原作の漫画を見たときに雪野に共感して「超、雪野やりたい!」って。でも事務所には言えなかったので、「これは現場でどうにかしよう」と。庵野さんとの面談のときに「本当は雪野がやりたかったんです」と直談判しました。あのときは若かったです(笑)。

そしたら庵野さんが「後悔するといけないから、やってみれば」と言ってくださいました。それで雪野をやったら原作の方も聴いてくださって「私の頭の中ではこの人です」と言ってくださったそうです。うちの事務所からは3人受かりましたが、事務所の人から「受かりました」と聞いたときは、まさか雪野で受かったとは思わず、「井沢真秀さんで受かったのかな? え、雪野~!?」って。本心を言って良かったと思いました。雪野で受けていた山本麻里安も「私は雪野じゃないと思う。ほかの役がやりたい」と言っていたんですけど、まさか二人とも違う役を受けさせてもらえるとは……驚きました。

※1:1998年10月2日から1999年3月26日まで、テレビ東京系列(TXN)にて放送された。全26話。『新世紀エヴァンゲリオン』で有名な庵野秀明監督の、『エヴァ』後初のTVアニメ作品としても注目された。

「大人の人ってわからない」
つらかった仕事の飲み会

こういうお話をしていると、すごく順調そうに聞こえるでしょうけど、もちろん落ちたオーディションもありますよ。受け方がよくわからなくて、戸惑って失敗もしましたし、うまくいかないことも多かったです。お芝居自体、ほとんどしたことがなかったですしね。

この仕事を始めてつらかったのは、大人の人と関わることでした。女子校で育ったので男性がよくわからなかったし。今思えば大したことないんですけど、ちょっとしたキワドイ冗談を言われたり。そういう大人たちのノリについていけなくて「何でこんなひどいことを言うんだろう?」と思ってました。でも主役だったから、私が落ち込んでしまったら全員が失敗してしまうプロジェクトなんだという責任感があって、何とか頑張ろうとしていました。だけど「大人の人ってわからない」と思っていました。

最初の頃は、現場の飲み会もあまり楽しくなかったです。どうしたらいいかわからなくて。でも早くなじみたい気持ちもあるし、主役だから行かなくちゃとも思っていました。ムード作りとまではいかなくても使命感があったので。なじめるようになるには何年もかかかりました。食事に誘われたりするのも苦手でしたね。これは一般社会で若い女子の誰もが経験することだと思うんですけど……「行かなくちゃ」と思って行って、冗談で口説かれたりしても、若いとやっぱり真に受けたりするじゃないですか? でも、だんだんこっちも「友達連れて行っていいですか?」とか対策を考えるようになって(笑)。「事務所の人にスケジュールを確認します」と言って反応を見たり、「ごちそうさまです! ブログに書いていいですか?」みたいな軽い感じでかわすこともうまくなりました(笑)。こういうのはどこの業界でもあることですよね。