【声優道】三ツ矢雄二さん

守りに入らずにチャレンジすることが大事
『キテレツ大百科』のトンガリもそうだった

この頃から、未経験者を育てていきたいという気持ちがふつふつと湧いてきました。僕は「演技を学ぶには、体を動かさなくてはいけない」と思っています。ジャンプをする「はっ!」でも、実際にそれを意識しながらジャンプしたことがある人とない人とでは、全然違います。いい演技からは、筋肉や細胞の動きが見えてくるんですよね。野沢雅子さんがおっしゃっていたのですが「二次元に命を吹き込むのだから、演技に命がなくてはいけない」というのは、真理です。ただ口の動きに合わせている演技ではいけません。実際に動き、どう演じるべきか、なぜそう演じるべきなのかを考えていかなければ、生きたセリフにはなりません。「こういうキャラだから、こういう声で、こういう言い方」みたいな、演技のひな形ができてしまっているようなところがありますが、どんどん自分なりのトライをし、自分だけのキャラにしてしまってもいいと思います。

僕は『キテレツ大百科』でトンガリをやるとき、最初のテストの段階で音響監督さんから「三ツ矢さん、無理しないでください。長く続くんですから」と言われてしまうくらい、やりすぎるところからスタートしました。とにかく、守りには入らない。チャレンジすることによって自分の演技の幅が広がっていくわけですし、演技の幅が広がれば、キャラクターが育ちます。トンガリも、はじめはセミレギュラーと言われていたんですが、最終的にはシリーズ通して欠場が1回のみのキャラになってくれました。機会があったら、アニメの第1話と最終話で同じキャラを見比べてみてください。もしどちらの演技もまったく同じで変わっていないとしたら、それは悲しいことだと思います。それは、長期間やっていたのにも関わらず、そこに創意工夫がなかったということですからね。

ムダをたくさんすることが成長へのいちばんの近道

養成所によって教え方に色があるわけなので、その色の演技になってしまうことがあるんですよね。ただ教えられたことだけをやっているのでは、個性的な演技はできません。テクニックは、教わってうまくなります。しかし演技は、自分が意識しないとうまくならないんです。たとえばアニメを観るなら、とにかくたくさん観ればいいと思います。ですが、楽しんでいるだけではダメ。常に頭の中にクエスチョンをもってください。声優を目指している時点で、もうただのファンとは少し違うんだという意識でしょうか。「なぜうまいんだろう?」「なぜへたなんだろう?」「なぜグッときたんだろう?」――なんでもいいから、自分なりに解釈してみるところから、あちこちに興味を広げていけばいいのだと思います。

僕はとにかく「浅くてもいいから広い知識」というものを大事にしています。今でもほとんどの週刊誌は読みあさっていますし、気に入った本や、ベストセラーになった本はすべて読むようにしています。DVDも、気になったものは片っ端から観るので、400枚くらい持ってるんじゃないかな。

もちろん自分の楽しみのためにやっている部分もあるんですが、こうやって得た知識を自分の中で整理しておくと、あとでものすごく活きるんですよね。自分とは違う時代や、自分とは違う性格のキャラクターを任されたとき、整理された知識の中に答えが見つかったりするものだからです。たとえば、声優は基本的に仕事を選べないわけですが、いきなり「じゃあ歌舞伎の見得を切ってください」と言われた場合、知らなかったらできないわけですよね。極端な話ですが「ゲームやアニメ、PCの話題くらいしか話せることがない」というのは、そのくらいしか演技の幅がないということ。ですから、なんだかムダなように思えても、とにかくたくさんムダをすることじゃないかと思います。そのムダが後々、声優としての幅を決めることになるはずです。