【声優道】柴田秀勝さん

俳優を志す者にとっては
日常生活で見る・聞くすべてが修行である

それから、今日から「俺は声優だ」「私は声優だ」というイメージをもって生活してください。感性はその人の努力によって、差こそあれ、育て、育むことができるものです。たとえば田中さんだったら「私は俳優・田中だ」と意識して、エレベーターのボタンを押す、飯を食う。俳優であるということの意識を常にもち続けることなのです。こうした意識のアンテナを張ることで、日常生活のなかで体験したことや小説を読んで感じたことを、人間のもつ五感にしっかりと記憶させること。これを「五感の記憶」といい、「役者の引き出し」になるのです。俳優を志す者にとっては日常生活で見る・聞くすべてが修行と考えてください。将来あなたがその「引き出し」から演じるとき、それはあなたしかもっていない個性に生まれ変わっているでしょう。

皆さんはまず、できるだけたくさんのお友達を作って、おしゃべりになってください。そのときの注意点は、口の形をハッキリ作っておしゃべりをする努力をすること。口の周りの筋肉がすごく柔らかくなったイメージが生まれてきます。それから、俳優が必ず通る道、「外郎売り」をそらんじて言えるぐらいの努力はしてほしいですね。それができたら次の課題、「外郎売り」の句読点を除いて書き写し、自分がいちばん気持ちがいいと思うところに句読点を打ってごらんなさい。そもそも文章上の「、」と「。」は、目読するうえで誤解を生まないよう便宜上つけられてあるもので、声優による句読点は間であり、リズムを生みます。私にも柴田節というのがあるように、どこにブレスをもってくるか、どこに間をもってくるかでその人の感性、個性が表現されます。ある意味、声優は作曲家でもあるわけですね。リズムを体で覚えるためにスポーツを、カラオケを、日舞を、洋舞を、何でもトライしてみましょう。そのとき忘れてはならないのは、覚えるという意識のアンテナのイメージです。

たくさんのトレーニング法を紹介してきましたが、最後に一つ、これだけは必ず挑戦してください。新聞のコラムのようなものを、毎日目読ではなくて声に出して、音読するのです。大事なのは、音読を通して本当に演じることが好きなのか、それとも声優に憧れているだけなのか、気づくことです。毎日音読できたら、それは演じることが好きなのだから、胸を張って学校や養成所を受験してごらんなさい。

声優は、俳優の仕事の一部分
心を演じる、人間を演じる俳優になれ

ここ10年ぐらい仕事の現場で感じることですが、若い人たちの演技はどうしても底が浅いような気がしてなりません。大変な苦労をしてせっかくのヒーロー、ヒロインを獲得したのに、次へのステップアップにならない。つまり使い捨てになってしまう人たちがいます。本来なら1本レギュラーをとったら、それを足がかりにして一歩一歩階段をのぼっていかなければならないはずなのにね。

声優になるために、声優の勉強をして、声優になっちゃった、という人たちも多い現在、映像に声をあてることだけはむしろ僕らよりうまい人がいます。でも残念ながら、心を演じていない、人間を演じきれていない。つまり「らしく」演じる類型芝居ってやつですね。

役者の芝居を優先して絵を直す。こんなことだってあり得るんです。もちろん、セリフの寸法は守るように努力はします。しかしセリフは「間」の芸術ともいわれるように、「間」と「リズム」はセリフの基本ですから。そうなった場合は演出家が「イエス! 芝居優先、絵を直します」といったことだって可能なんです。

さて、そこで皆さんにぜひ実行してもらいたいのは、小説をたくさん読むことです。小説には必ず状況説明がありますよね。「暗い空に向かって煙草の煙をはきだした……」という具合に。主人公が今どんな心理状況に置かれているのかを想像させてくれます。これを俳優という「心」で読むことは想像力を豊かにし、そしてあなたのもつ「五感の記憶」を大切に保管することで、あなたが将来演じるときにそれを再現させることができるはずです。これを「役者の引き出し」といいます。「行間を読め」――これは台本に書かれていない部分をどう読むか、どう演じるかということで、演技の幅も奥行きも違ってきます。あなたの隠れた感性と想像力を養うためにも、たくさんの本を読んでください。「五感の記憶」が大事というのは、そういうことなんですね。つまり、「自分は俳優だ」という心をもっていれば、小説で体験したことを「五感の記憶」の「引き出しに」ちゃんとしまっておけるはずです。