【声優道】井上和彦さん

声優総合情報誌『声優グランプリ』25周年を記念し発売された、『声優道 名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント』が3月9日から公式サイト「seigura.com」にて期間限定で無料公開中!

アニメや吹き替えといった枠にとどまらず、アーティスト活動やテレビ出演など活躍の場を広げ、今や人気の職業となっている「声優」。そんな声優文化・アニメ文化の礎を築き、次世代の声優たちを導いてきたレジェンド声優たちの貴重なアフレコ秘話、共演者とのエピソードなど、ここでしか聞けない貴重なお話が満載。

それぞれが“声優”という仕事を始めたキッカケとは……。

声優ファン・声優志望者だけでなく、社会に出る前の若者、また社会人として日々奮闘するすべての人へのメッセージとなるインタビューは必見です。

アニメも外画も目指すところは同じ

▼友達と一緒に養成所を受けたら僕だけ受かっちゃった!
▼その後の活躍を決定づけた『サイボーグ009』の島村ジョー
▼僕らの仕事は観ている人をドキドキさせること
▼実は意外に難しい力の抜けたキャラクター
▼演技の感覚は教えようと思っても教えられない
▼声優の世界はみんな優しい人ばかり

【プロフィール】
井上和彦(いのうえかずひこ)
3月26日生まれ。B-Box所属。主な出演作は、アニメ『NARUTO-ナルト-』(はたけカカシ)、『夏目友人帳』(ニャンコ先生/斑)、『美味しんぼ』(山岡士郎)、『キャンディ・キャンディ』(アンソニー)、『サイボーグ009』(島村ジョー)、海外ドラマ『NCIS~ネイビー犯罪捜査班』(マーク・ハーモン)、『ドクター・ストレンジ』『ハンニバル』(マッツ・ミケルセン)、『LOST』(マシュー・フォックス)ほか。

友達と一緒に養成所を受けたら
僕だけ受かっちゃった!

僕はプロボウラーになりたくて、高校を卒業してボウリング場に就職したんです。ところが、何も知らない純粋な高校生が、いきなり大人の社会に入ってびっくりしちゃったのかな。やっぱり、思い描いていた世界とは随分違うし、こんなはずじゃなかったという思いもありました。そんな初めての経験がいくつも重なったせいか、人としゃべるのが苦手になっちゃって、これじゃいけない、と思っているとき、友達が「実は声優になりたいんだ」という話をもってきたんです。それで初めて声優という仕事を知ったんですが、声優の養成所みたいなところに行けば人と話す訓練になるかなと思って、友達と一緒に養成所の入所試験を受けました。そうしたら、僕は受かって、友達は落ちてしまったんです(笑)。それまではまったくお芝居に興味がなかったんだけど、勉強していくうちに大好きになっちゃって、今では仕事にしているんですから不思議ですよね。

養成所時代には、喫茶店だったり、立ち食いそばだったり、ビラ配りをしたり、ビルの掃除をしたり、いろいろなアルバイトを掛け持ちしましたね。ほとんどのアルバイト先が養成所の同期だった郷里大輔と同じで、「こんなバイトがあるよ」みたいに仕事を紹介してもらったりもしました。当時はアルバイト情報誌などもなかったので、道を歩いているときに、店先に貼ってある「アルバイト募集」の貼り紙を見て、働かせてもらうといった感じでした。

養成所には1年間通っていたんですが、後半の半年間は永井一郎さんに教えていただいたんです。そういう縁もあって、卒業してすぐに青二プロダクションの所属になりました。実は養成所時代から、CMやTVドラマのお仕事をいただいたりしていたので、わりと簡単にお仕事をもらえる世界なのかな、と思っていたんです。でも実際は全然違っていて、プロダクションの所属になってからもしばらくは、声の仕事をしているよりアルバイトしている時間のほうが長かったですね(笑)。そして時間を作っては、仲間を集めて勉強会をやったり、先輩のお芝居の手伝いをしたりしてましたね。

声の仕事も最初は番組レギュラーといわれるもので、男Aとか兵士Bみたいな名前のない役を演じるんです。多いときでは一つの作品で7役くらい演じました。初めて名前のある役をいただいたのが、『一休さん』に出てくる小坊主の哲斉さん。そのあと『キャンディ・キャンディ』のアンソニー役を演じて、『超合体魔術ロボ ギンガイザー』という作品で、初めて主役を演じさせていただきました。オーディションで選ばれたんですが、主役とはいってもかっこいいタイプじゃなかったんです。元気が良くて熱血系な感じで、頭は坊主。でも初主役ということもあって、今でもよく覚えています。

その後の活躍を決定づけた
『サイボーグ009』の島村ジョー

声優としての転機になったのは、『サイボーグ009』の島村ジョーですね。ちょうど『超合体魔術ロボ ギンガイザー』が終わるか終わらないかの頃に「こういう作品のオーディションをやってるんだけど、どうもイメージの合う人がなかなか見つからなかったみたいだよ」という話を聞いたんです。そんなとき、高橋良輔監督からプロダクションに「どんな新人でもいいから声を聴かせてほしい」という依頼があって、僕のところにもオーディションの話が回ってきたんです。オーディションのときって、最初に演じる役名と自分の名前を言ってからセリフに入るんですが、「島村ジョー役、井上和彦」と僕が言った途端に監督が立ち上がって、「井上さん! それだよ、ジョーは!」と叫んだものだからびっくりしました。まだセリフに入る前だったのでムダな力の入っていない状態でしゃべっていたんですが、それが良かったんでしょうね。

『サイボーグ009』の現場では、ちょっとしたアドリブもありました。台本の上に「加速装置」と書いてあったので、テストのときに「加速装置!」と声に出して読んでみたら、それが採用になっちゃったんです。僕としては、ジョーがいきなりピュッと速く行動するシーンを観ても、小さい子はなぜそうなるのかわからないのではないかと思っただけなんですが、言い方が独特で印象に残ったのか、ほとんど毎回セリフに出てくるようになりました。おかげで回を重ねるごとに、言い方が派手になってます(笑)。

島村ジョーを演じてから二枚目役というイメージがついたのか、次々に主役を演じさせていただくようになりました。そういう意味では、人生の中でいちばんの転機になった役ですね。今、当時の演技を見返してみると申し訳ないくらいヘタクソなんですが、地球を護ろうとしているんだなという気持ちだけは稚拙ながらも伝わってくる気がするんです。そこだけはちゃんと演じようとしていたんですね。