野島健児・浪川大輔・仲村宗悟

歌舞伎を人気声優が現代語で朗読『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎~梅と松と桜~篇』レポート!

野島健児・浪川大輔・仲村宗悟
三つ子の運命、三つの別れに感泣! 声優が紡ぐ壮大な歴史絵巻

2025年8月9日(土)から11日(月・祝)にかけて、三越劇場で開催される『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎~梅と松と桜~篇』。歌舞伎の名作を人気声優が現代語で朗読する本シリーズの第四弾として、歌舞伎三大名作の一つ『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』が上演された。

9日の初日を務めたのは、声優の野島健児さん、浪川大輔さん、仲村宗悟さんの3名。宿命を背負った三兄弟、梅王丸・松王丸・桜丸を中心に、たった3人で24役を演じ分けるという、声のプロフェッショナルによる圧巻のステージが繰り広げられた。

【登場人物が目まぐるしく入れ替わる、声の妙技】
「梅王丸!」「松王丸!」「桜丸!」の名乗りとともに、各役のテーマカラーで出演者が照明で染められ、幕開けの高揚感に客席の集中力が一気に高まったことが感じられた。シーンは「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」「車引」「賀の祝」「天拝山」「寺子屋」と『菅原伝授手習鑑』の全段をほぼ網羅する形で構成され、その代表的な24役がわずか3名に配役されている。

野島さん・浪川さん・仲村さんはさすがの技量で巧みに声を使い分け三つ子の兄弟、父、妻、敵役、子供から老人まで、多岐にわたる人物をしっかりと演じ切った。

【こだわり抜かれた舞台美術と演出】
本公演の舞台上には、美しい装飾が施された三越劇場にふさわしい幻想的な舞台美術が設えられた。中央に据えられた演台の背後には、梅、松、桜の意匠があしらわれたパネルがあり、バックライトで役柄やシーンの転換ごとに赤、緑、ピンク、青と照明が変化していき、場面の理解を深める一面もあった。

また歌舞伎ならではの演出「附け打ち」が物語に特別な緊迫感をもたらした。歌舞伎の中でも格式のある演目として知られる「車引」。野島さん演じる熱血漢・梅王丸が、仲村さん演じる桜丸と共に、浪川さんが演じる敵方である藤原時平の牛車を破壊するシーンでは、梅王丸たちの勇ましい怒号に合わせ、附け打ちの「ばたばたっ」という効果音が鳴り響き、会場の空気は一気に張り詰めた。朗読劇と歌舞伎の伝統的な技術を組み合わせた、「こえかぶ」ならではの演出が光る場面だった。

【兄弟の別れと親子の情、涙なしでは語れない感動のシーン】
物語が進むにつれ、三兄弟の運命は悲劇へと向かう。「賀の祝」では白太夫と桜丸の親子の別れが描かれる。菅丞相に深く恩義を感じているにもかかわらず、自身の過ちが流罪の原因を作ったと自責の念にかられた桜丸は、切腹という選択をする。

仲村さん演じる桜丸は「これ以上恥をさらして生きてはいけぬ」と沈痛な面持ちでつぶやく。そして、せめて息子の成仏を願う白太夫の「南無阿弥陀仏」という声が重く響くなか、苦痛に悶えながら散っていく。桜丸の覚悟と、息子を見送る白太夫の苦悩が交錯する壮絶なシーンとなった。

クライマックスの「寺子屋」の段では、浪川さん演じる松王丸の熱演が会場の感動を呼んだ。松王丸は、敵の立場でありながら、菅原道真の息子である菅秀才を守るため、実の息子・小太郎を身代わりにしていたことを打ち明ける。そして小太郎が、ほほ笑みながら自らの首を差し出して死んでいったことを知り、慟哭する。我が子を犠牲にするという苦渋の決断を下した父親の深い悲しみと葛藤がにじむ、胸を揺さぶる演技だった。

菅丞相の力によって藤原時平一味が滅び、菅秀才が菅原家の世継ぎを継ぐという結末が語られると、会場からは割れんばかりの拍手が送られながら、幕となった。

【『こえかぶ』の裏話も!笑いに包まれたアフタートーク】
本編の感動の余韻が残る中、舞台上の3人は再び笑顔で登場し、アフタートークへ。進行役を務める桜丸役の仲村さんを中心にクロストークが繰り広げられた。

トーク冒頭、「このメンバーで三兄弟を演じることへの率直な感想」という仲村さんからの質問に対し、浪川さんは「最近暑いなと思って。劇場が寒かったらどうしようかなって。浴衣でいらっしゃっている方もたくさんいるし」と質問とは大きくずれた回答。すかさず仲村さんが「まったく違う話をしないでください!」とツッコミを入れると、早速会場は大きな笑いに包まれた。最終的には「いやいや、この三兄弟、夏の匂いがするなと思ったんだよ」と野島さんと浪川さんがフォローし、三兄弟の末っ子役である仲村さんが、兄役の二人からいじられる形で和やかに始まった。

また、多くの観客が涙を流していたことにも触れ、「特に感情移入したシーンは?」という質問で、野島さんは子供を亡くす母の役・千代を挙げ、「子供に“いい子にしてるんですよ”と言葉をかける場面がとてもつらかった。子供に言うべき言葉ではないよ……」と、その心情を深く語った。

浪川さんは、松王丸がすべてを理解しながらも、運命に抗えないつらい場面に言及し、「現代の人が聞いたらショッキングな、すごい世界観」と、物語の重みをあらためてかみしめていた。

締めくくりの挨拶では、仲村さんはこれまで歌舞伎に触れてこなかった自身にとってこの朗読劇は大きな挑戦だったと振り返り、「複数の役を演じて、さまざまな感情を行き来して役者としても勉強になる時間だった。」と語った。

浪川さんは、リハーサルの時は歌舞伎という題材のハードルの高さを感じていたものの、3人で良い雰囲気で本番を迎えられた。お盆の初日にこの公演の観劇を選んでいただいたことへの感謝の気持ちをお客様に述べた。

野島さんからは「技術もさることながらフィジカルが重要なのが生の朗読劇であり、声優はアスリートだな」と実感のこもった一言が。『こえかぶ』によって歌舞伎に親しみを覚えた方も多いのではないかと語り、「ぜひ歌舞伎そのものも楽しんでほしい」と来場者へメッセージを送っていた。

感涙を呼んだ本編とは打って変わってアフタートークは終始和気あいあいとした雰囲気で行われ、温かい拍手とともに『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎~梅と松と桜~篇』の初日の幕を閉じた。

こえかぶ

公演公式サイト:https://plan.shochiku.co.jp/koekabu/performance/koekabu3/
公式SNS:https://x.com/koekabu

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