今年もまたヒヨコ群(夏川椎菜ファンの総称)にとって特別な一日がやってきた。
年に一度、4月17日の“417(しいな)の日”に行われる、夏川椎菜が自ら企画・脚本・演出を手掛けるイベント『417の日』。毎年趣向を凝らした内容で楽しませてくれる彼女が、令和8年度となる今回の公演で掲げたサブタイトルは「Escape from the 2nd Live」。彼女にとって因縁深き“2nd Live”からの脱出とは果たして……? 千葉・森のホール21で昼夜2公演が行われた本イベントのうち夜公演のレポートをお届けする。
今年の『417の日』は並行世界SF? 時空を超えた“やらかし”劇が開幕!
本題に入る前に、まずは夏川椎菜さんの“2nd Live”についておさらいしておこう。なかなか込み入った話だが、彼女はこれまでに計4回、“2nd Live”に類するライブを開催している。
1回目は、本来2ndライブツアーを行う予定だった時期にコロナ禍が重なってしまい、元通りの状態でライブができるようになるまでの“武者修行”として2020年から2021年にかけて行われた『夏川椎菜 Zepp Live Tour 2020-2021 Pre-2nd』。
それを経て2022年に実施されたのが『夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER』だ。だが、いずれもコロナ禍による制限を設けた公演だったため、夏川さんはそれらのライブを声出しOKの環境で再現する“リベンジライブ”を企画。それが2024年開催の『夏川椎菜 Revenge Live “re-2nd”』と2025年開催の『夏川椎菜 Revenge Live “reMAKEOVER”』だった。
“リベンジライブ”を大盛況のうちにやり遂げ、ようやく“2nd Live”の心残りはすべて晴らした……はずだったのだが、令和8年度の“417の日”の幕を開けたのは、“2nd Live”のリベンジを誓う夏川さんの言葉だった。
「宣誓~! 我々、天下一ヤワな羽毛のヒヨコ群は、『MAKEOVER』で感じた楽しかったことも悔しかったことも、全部、全部、ぜ~んぶひっくるめて、リベンジすることを誓います!」。
“リベンジライブ”で聞いた覚えのある力強い宣誓とともにステージの紗幕が上がると、そこには『夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER』で着用していたヒヨコ色のツナギの衣裳を着た夏川さんの姿が。

そしてギラついたバンドサウンドを背にしながら威勢よく放たれるライブの1曲目は「ハレノバテイクオーバー」。「烏合讃歌」の歌詞を引用した宣誓の言葉から「ハレノバテイクオーバー」の流れ。まさに『夏川椎菜 Revenge Live “reMAKEOVER”』を再現したかのような幕開けだ。
だが1番のサビ終わり、夏川さんの“Stop”という声を合図にバンドが一瞬演奏を止めるキメの場面で、夏川さんがかっこよく“Stop!”とキメたかと思いきや、そのまま音が完全に途切れてしまう。「あれ?曲止まっちゃった?」とバックバンドの“ヒヨコ労働組合”のほうを振り向くと、ステージにいるのは楽器の代わりにほうきやモップを持ったマネキンのハリボテたち。ドラムやアンプもよく見ると段ボールで作られている。
「兄さんたちも止まっちゃった!」と戸惑う夏川さんが「どうしよう!?このまま時が止まったままだったら、2nd Liveが終わらないじゃーん!」と絶叫したところで次曲「羊たちが沈黙」へ。

夏川さんが熱唱する“デラレナイデラレナイキョウヲデラレナイ”という歌詞が彼女の置かれた状況とリンクするなか、スクリーンが降りてきて、パンダの着ぐるみに身を包んだ夏川さんのプロデューサー・417Pが高笑いしながら登場。
なんでも彼はパラレルワールド「Earth0718」の417Pで、今ステージにいる「Earth0417」の夏川さんが“やらかし”のし過ぎで限界突破してすべてのパラレルワールドの夏川さんに悪影響を及ぼしているため、“2nd Live”に封じ込めて“やらかし”をリライトさせる、という魂胆らしい。

突然のSF的な展開にもかかわらず「ムチャクチャですけどやるしかないですよね。絶対に“2nd Live”を終わらせます!」と力強く宣言した夏川さんは、ここから417Pの用意した“進行台本”の情報を参考に過去のやらかしをリライトしていくことに。
それによると、“2nd Live”に閉じ込められた今の彼女を観測できるのは、夏川さんに時間とお金の感覚を狂わされた会場にいるヒヨコ群、略して“時空群”のみ。ステッキ状のマイク“リライトマイク”を用いて、過去のやらかしを反省しながら時空群に向けてパフォーマンスを行うことによって、過去の上書きを試みることができるという。すべてのやらかしをリライトした後、「リライト完了」と叫ぶと全時空にリライト結果が反映され、すべての夏川さんを破滅から救えるとのこと。壮大な計画だ。
そしてスクリーンに夏川さんのこれまで行ってきた6つの“やらかし”のリストが掲示。そのうち「デビュー曲の歌詞間違い」「某作曲家への暴言」「萌え萌え大遅刻」はすでにリライトが完了しており、残りは「厄介ブログ」「体重管理の不行き届き」「踊らないTikTok」の3つのみ。

「厄介ブログ……? どれのことですかね。心当たりがありすぎるんですけど」と発言して時空群から喝采を浴びるなか、まずは「厄介ブログ」のやらかしリライトを試みることに。そのブログとは、2025年1月22日に公開された「夏川的オタク文学」というタイトルの記事。夏川さんが推しのバンド・Shiggy Jr.のライブに行った感想をオタク的熱量とともに書きつづったパトスあふれる迷文ならぬ名文だ。
しかもそれが推し本人たちにも届いてしまったとのことで、夏川さん的にはやらかしに認定。ということで、そのShiggy Jr.の原田茂幸さんが楽曲提供し、メンバーたちが演奏・コーラスで参加した「メイビーベイビー」を歌って想いを昇華していく。時空群一同もヒヨコ型のペンライトを振ったりクラップで盛り上がった結果、ブログは「推しのライブに行きました!」という良識的な感想を述べたまでにとどまり、本人たちの元にも届かなかったという過去にリライトされた。
大切なのは“私らしさ”――誰も知らない道を進む夏川椎菜の生き様
時空群からの「えー!」という残念そうな声が会場中に響くなか、「私の不祥事というか気持ち悪い文章がなかったことになるんですね!」と喜ぶ夏川さん。

気を良くしたところで次にリライトを試みたのは「体重管理の不行き届き」。2025年3月、TrySailの単独としては初の日本武道館公演『TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館』という大切な日に「食べ過ぎてかわいくなり過ぎてしまった」姿でステージに立つことになった“やらかし”だ。「世界における夏川椎菜の総量が増えているので喜ばしいことだ」と自分の心さえもごまかし続けてきた彼女だが、自己最高体重を大幅に更新してしまったためさすがにごまかしきれず、ピラティスを始めて適正体重に戻したという。この“やらかし”をリライトすれば、体重管理を怠った過去はなかったことになり、ライブBlu-rayに記録された武道館での自分の姿もシュッとするかもしれない。
そんな希望を込めて彼女が時空群に届けたのは「Silhouette」。今年2月リリースの最新アルバム『CRACK and FLAP』に収録された、夏川さんがダイエットの苦労を歌詞にしたためたヘビーなロックチューンだ。ギラギラと光り輝く照明を浴びながら、リライトマイクをフレディ・マーキュリーばりに操ってパフォーマンスする夏川さんの歌声からは、1gに笑い1gに泣くボクサーさながらの本気が感じられる。そのかいあって過去をリライトすることに成功。だが「体型管理をごまかし続けることを選ぶ」という夏川さんの希望とは真逆の結果となり、時空群は大喜び。当の本人は「ちょっと!リライトできてないじゃない!」と釈然としない様子だ。
そして残りのリライト対象は「踊らないTikTok」のみ。2025年7月1日、SNS活動を強化するためにTikTokのアカウントを開設した夏川さん。しかし、彼女の考える動画企画はTikTokユーザーにはなかなか刺さらず、再生数が伸び悩んでしまうという“やらかし”だ。その憂鬱を払うべく放たれた楽曲「コバンザメの憂鬱」は、田淵智也さん(UNISON SQUARE GARDEN)が作曲、川口圭太さんが編曲を手掛けた2分59秒を嵐のように駆け抜けていく衝撃作。夏川さんが自ら書いた歌詞には、TikTokになじめないながらも頑張りたい気持ちと“……やっぱきっちぃな!”という本音がせめぎ合う心象風景が投影されており、時空群の熱狂的な合いの手も加わって心のあつれきをハイテンションにスパークさせていく。

その結果、アカウント開設から3カ月で損切りして投稿をやめた状態にリライト。会場からの「やめないでー!」の声に夏川さんは「お前ら全員TikTokフォローしろよ!」と憤懣やるかたない思いをぶつける。
ともかくすべての“やらかし”をリライトした夏川さん。あとは「リライト完了」と叫べば、“全パラレルワールドの夏川椎菜”を救うことができる。だが、リライト内容に納得できない彼女は「やっぱおかしいですよね!」と思い留まる。ここまでリライトのために歌ってきた3曲は、それぞれの“やらかし”がきっかけになって生まれた、“2nd Live”の終わっていない時空に封じ込められたステージ上の夏川さんにとっては未来の彼女が作る音楽。それが生まれない可能性があることを考えるとリライトなんて必要ない。そう決断した夏川さんは、417Pにリライトをやめることを宣言。
「気づいちゃったんです。やらかしをリライトして、なかったことにして優等生を装ったって、私らしくないって!」と力強く告げると、「SCORE CRACKER」を熱唱する。サビの“楽譜(スコア)通りが性に合わないなら 優等生は諦めて!”という言葉は、まさに今の彼女の心情を表したもの。間奏で「大事な思い出を消してまでリライトする必要はありません! これからもだせえ“やらかし”とともに進んでいきたいです!」と言い放つと、ヒヨコ群たちの盛大なクラップや歓声を浴びながら解放的に楽曲を歌い切り、417Pの言いなりにならず自分だけのルートを歩むことをアピールした。

思惑通りにいかず「くっそー!またかよー!」と声を荒げて悔しがる417Pだが、昼公演の結果を含め何度やっても、自分らしく“やらかし”とともに進む道を選ぶ夏川さんに根負けした様子。夏川さんが『夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER』で語った「夢はでっかく武道館!」という目標をあらためて確かめ合うと、「そんじゃあこんなところでぐずぐずしてる場合じゃねえな。“2nd Live”きっちり終わらせて来い!」とはっぱをかけてエンディングへ……と思いきや、再び音がストップ。
夏川さんはまたも時空に封じ込められたのかと思い「なんで~!」と戸惑っていると、「ハッピーバースデートゥーユー」のメロディが流れ出す。『夏川椎菜 Revenge Live “reMAKEOVER”』大阪公演での誕生日サプライズの再現だったことに気づいた夏川さんは、「な~んだ、ただの誕生日サプライズだ~、またやらかしたー!」とオチを付けて、チャンチャン!という昭和のコントのような音とともに終演した。
その後、再びステージに登壇した夏川さんは、今回の演目について説明。何度も繰り返してきた“2nd Live”に華々しいとどめを刺すべく、自身が好きな“タイムループもの”の要素を絡めて、昼夜で内容を変えてシナリオを構成したという(ちなみに昼公演の1周目はバッドエンドだったとのこと)。そしてライブグッズをたっぷり紹介すると、やはりイベントを締め括るのはライブ。
今回は「何が出るかな?アンコール楽曲抽選」として、夏川さんがボックスから引き当てた楽曲を歌うことに。候補曲のラインナップは最新アルバム『CRACK and FLAP』の収録曲のうち、公演本編で披露されなかったもの。曲目はある程度絞られているとはいえ、抽選結果によって次に歌う曲が変わるわけで、なかなかチャレンジングかつユニークな試みだ。


結果、歌われたのは「ライクライフライム」と「ミエナイテキ」の2曲。焦燥感と疾走感にあふれたサウンドに乗せてライムの弾丸を次々と撃ち放っていく前者、客席からの「Wow Wow Wow」と歌う声とオレンジの光がエモーショナルな瞬間を作り出した後者、どちらも堂々たるパフォーマンスでヒヨコ群をリードして『令和8年度 417の日』を締めくくった。

毎年、会場だけを渡されて、あとは夏川さんが自由に作り上げているという『417の日』。来年も千葉・森のホール21での開催が決まっているとのことなので、夏川椎菜さんの特濃な部分を味わい人は、今後も毎年4月17日の予定は空けておくことをオススメしたい。
取材・文/北野創
◇セットリスト◇
LAWSON presents 令和8年度 417の日
01. ハレノバテイクオーバー
02. 羊たちが沈黙
03. メイビーベイビー
04. Silhouette
05. コバンザメの憂鬱
06. SCORE CRACKER
07. ライクライフライム
08. ミエナイテキ
◇Profile◇
夏川椎菜
なつかわしいな●7月18日生まれ。ミュージックレイン所属。主な出演作はアニメ『最終楽章 響け!ユーフォニアム』(釜屋すずめ)、『卓球少女 -閃光のかなたへ-』(ジャン・ルオイ)、『アイドルマスター ミリオンライブ!』(望月杏奈)ほか。
夏川椎菜 公式Twitter https://x.com/natsukawa_staff
夏川椎菜 公式サイト https://www.natsukawashiina.jp/
夏川椎菜 公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@Shiina-Natsukawa
夏川椎菜 オフィシャルブログ「ナンス・アポン・ア・タイム」 https://ameblo.jp/natsukawashiinablog/










