【声優道】銀河万丈さん「若人よ、もっとわがままになれ」

いい緊張感とエネルギーに満ちた『ガンダム』の収録現場

僕は28歳で声の仕事を始めましたが、初期の頃で印象に残った作品というと、やはり『機動戦士ガンダム』ですかね。デビューして4〜5年目だったかと思いますが、スタジオの光景も覚えています。後々、ゲームやパチンコの仕事で、あんな昔のキャラクターをもう一回やるとは思っていなかったですけどね。すごく遠い時代の作品なのに新しいというか、近くに感じるものは、たしかにあります。

『ガンダム』で演じたのはギレン・ザビという悪役で、あとで考えてみると、意外に出番は少なかったんです。この作品には、ベテランの声優さんもいっぱい出ていらしたんですが、皆さんはもうご自身のカラーがある程度決まっているお立場だったので、そういうカラーから脱却した芝居を作ろうという意気込みがあったと思います。僕はそれほどキャリアがなかったけど、こっちはこっちで「この作品を失敗するわけにはいかない」という強い思いがありました。そういうメンバーたちの真剣勝負というか、しのぎを削るようないい緊張感、エネルギーが『ガンダム』の現場にはあったような気がします。いい意味で「みんな勝負に来ているな」という空気を感じました。

僕は、この『ガンダム』のギレン・ザビや『装甲騎兵ボトムズ』のジャン・ポール・ロッチナなど、悪役キャラの声を担当することが多くなっていきました。最初は声質みたいなところからキャスティングされていたと思います。ただ自分の中でも「悪役のほうが面白い」と思っていたので、それはそれでよかったと思っています。

なぜ悪役が面白いのか?というと、悪役を演じるときは、人間のもっている振り幅を目いっぱいとれるんです。たとえばいい人を演じる場合、「これをやっちゃうと、いい人じゃなくなっちゃう」という絶対に踏み越えられない線みたいなものができてしまう。でも悪役側に立つと、悪だくみをしたり、人をだましたりと何でもアリ。振り幅を大きく使えますから。演じる側としては、そっちのほうが楽しいかなと。いつもそう思いながらやっていました。洋画でも、主役を演じるキャラクターはカッコいいし、モテるし、オイシイ部分はあるんですけど、やっぱり敵方のほうが面白いと思いますね。何て言うか、いい人で二枚目だとつまらない気がするんですよ。人間のもっている人間臭さを演じられたときが楽しいんですよね。

それと、実際の自分よりも少し背伸びした役柄のほうが、演じるうえでは楽しいですね。想像する部分が大きいからかもしれないけど。実年齢の役はどこか照れくさい部分があるので、ちょっと背伸びしたくらいの方が面白いんです。でも、だんだんマズくなってきているんですよ。これ以上背伸びしていると、もう後期高齢者の役しか来なくなっちゃうから(笑)。

ゲームの録音は、かなりハードなお仕事!?

ナレーションで言えば、『開運!! なんでも鑑定団』(テレビ東京系)が放送1000回を超えましたからね。もう20年以上やっています。『〜鑑定団』の最初の頃は、正直「ちょっとうさん臭いなぁ」と思っていました(笑)。まだお宝がなくて、番組スタッフが蔵があるところに訪ねて行くんですけど、そこでまた〝河童の手〟とかね、妙なものが出てくるんですよ。まさかこんなに続くとは思っていなかったです。1000回記念のパーティーのときに一回目の放送が流されましたけど、明らかに違ってましたね。みんな若い!! 出演者もそうだけど、ナレーションも若かった(笑)。

今はバラエティ番組が全盛ですが、ナレーションも思い切りテンションを上げて、CMの直前ギリギリまで「この後すぐ!」ってしゃべっていますよね。あおるような感じで。でももう高齢化社会になっているんだし、ナレーションはもう少し静かなほうがいいんじゃないか?とも思うんですよ。どのバラエティ番組を見ても同じような作り方ですけど、もう少し、番組ごとに違うテイストもあっていいんじゃないかなと思ったりします。

それと最近では、昔アニメで演じたキャラクターの声をゲームのために録音する仕事が多くなっています。たとえば断末魔の叫びを数パターンとか、「やられた〜!!」を数パターンとか。普通アニメなら1話に一回あればいいようなセリフなのに、相当な数をいっぺんに要求されるんです。そのときスタッフから「こんな感じでやられてました」と当時自分の言ったセリフを聴かされると、素直に「素晴らしい!」って思っちゃう(笑)。そりゃそうですよね。その当時は、その役で死にに来ているわけですから。「ぎゃああ〜!!」ってのたうちまわって死ぬわけだから、それだけの勢いで演じられたんですよね。元気に、勢い良く死んでいる(笑)。

『装甲騎兵ボトムズ』でも、予告編の声だけをまとめて録音することがありました。でも、あのテンションで50数本いっぺんに録るのは無理でしょって(苦笑)。結局、2回に分けて収録しましたけれど声はガラガラ。普通は1話に一回なんですから、あの当時でももたなかったと思いますよ。そういう意味で、本当にハードな仕事が多くなって頭を悩まされることも少なくないです。