【声優道】榎本温子さん「必死につかんだ役者という居場所」

『プリキュア』で役者として
認めてもらえたと思えました

今までのお仕事で印象に残っているキャラクターと言えば、やっぱり『カレカノ』の雪野ですね。デビュー作って、本人に似ているところで選ばれる場合が多いんですよ。雪野は自分でも似ていると思うし。あの作品では、庵野さんに「口パクに合わせなくていい」と言われて日常の感じでしゃべっているんですけど、多分それが受けたんだと思います。だから、まんま当時の私なんですよね。演じているというよりも、しゃべっているだけという感じです。

それと、転機になったのは『ふたりはプリキュア Splash Star』の美翔舞ちゃんです。私はそれまでアイドルとしてバンバン出ていましたけど、向いていないと思ったし、違和感を感じたので、アイドルの方向はやめることにしました。それでレコード会社の契約を満了して、事務所を移籍して、最初のオーディションが『プリキュア』でした。受かったときはびっくりしましたが、このときやっと有名な子供番組の主役に選んでいただけて、役者として認められたのかなと思えました。

それまでは居場所がない感じでした。アフレコのスタジオにいても「あの子はアイドル」「雑誌に載っている子」みたいな感じで見られていたので。それが『プリキュア』をやって自信がつきました。女児向けアニメの頂点なのでグッズ数も多いし、全国ですごい規模のキャラクターショーも行われていました。CMも流れるし、『プリキュア』と言ったらみんながわかるのがすごいなと思いました。

最近では、『LINE TOWN』のヒヨコのサリーちゃんが印象的かな。世界の人に言ってもわかってもらえるキャラクターですから。この仕事をやっていると、何のキャラクターをやっているか必ず聞かれるんですよ。もちろん『カレカノ』も有名なアニメだけど、ヒヨコのサリーちゃんはアニメを見ない人でもスタンプを知っているので。最近は、聞かれるとこのキャラクター名を言うようにしています。

この世界で生き残るには「変わっていくこと」

本当に長くこの業界にいますが、私の場合は変わっていくことで生き残っているのかなと思っています。私はアイドルをやっていたときも、長くはできないと思っていました。『彼氏彼女の事情』のときも、自分は若くて選ばれたから「声優自体も長くできるのかわからない」くらいに思っていました。自分の売りは若いことなんだと、当時からわかっていたんですね。その位置には次々と若い子たちが来るわけだし、ずっと同じところに立っていたら負けてしまう。なので、そのときはお芝居の仕事に絞ったんです。

今はアニメじゃなく、ナレーションの仕事に注力しています。そうやって変わっていくことで生き残っていけるんじゃないかと思うので、私はいつも10年後のことを考えています。デビューのときからそうでした。最初の事務所は好きでしたが、そこは若い子を売り出すのが得意な事務所だったので、話し合って円満に退社しました。それから別の大手の事務所に移籍して、それまでにやりたかったいろんなお仕事に挑戦しました。外画やナレーションなど、いろんなお仕事があって、本当は下積みの時にやるべきだったさまざまなことを経験しました。やったことがないことが多かったので楽しかったですね。2つの事務所には、大変感謝しています。

いろいろな仕事をやっていくなかで、30代になるとアニメのオーディションも減ってきます。最近だと歌って踊れるアイドルアニメのような作品が多いので、当然ギャラの高い人は入れない。だから新人やジュニアだけという世界が多くなってくる。そこで自分はどうしたいのかと思ったときに、『NOTTV ファミ通TV』で天の声というのをやらせていただきました。それがすごく楽しくて、ナレーションの仕事に目覚めたんです。

新しい事務所ではナレーションばかりの人や外画ばかりの人もいましたが、私みたいに派手でMCもできると、どうしてもタレント業に回されるんです。それが嫌ということではないけど、ほかのこともやりたいのに、やはり役割分担があるので急には方向転換できない。だから現在は事務所を辞め、ナレーションの事務所と業務提携だけして、ほかのお仕事はフリーでやっています。やっぱりフリーになるときはちょっと勇気が要りましたけど、意外と経理事務的なことも好きだし(笑)。もともと自主イベントなどもやっていましたし。今思うと、事務所に管理されるのは苦手だったのかもしれませんね。

フリーになって良かったことは多いけど、アニメのオーディションはあまりチャンスがないですね。ただ、今まで演じた役に関しては、どこかから連絡が来ます。いい業界だなって思いますね。今はナレーションを勉強する時期だと決めていて、目標は、地上波の〝ゴールデンの華〟と言われているような番組のナレーションです。また、AbemaTVでニュースを読むお仕事も経験させていただきました。報道って私の未来像にはなかったんです。だから、まったく違うことをやっていく可能性もありますね。いろんな声の仕事をしたいなって思います。

自信というのは自分で身に付けるもの
与えてもらっているだけだとダメ

今の若い人たちの夢はどこに向かっているのかわからないですね。本当にいろいろで、「今だけできればいい」みたいな感覚の人もいますし。現場もぬるくなっている気がします。録音の技術が発達しているので、声にしても口パクにしても編集ができてしまう。芝居がうまくなるような環境がないんですよ。だからみんな同じようなしゃべり方になってしまう。若い人たちに私から言えることがあるとしたら、今やっている仕事のやり方をずっと続けることはできないから、長くやっていきたいのなら、自分の特色を見つけて伸ばしていくことが大事です。自分と向き合って、もがいて道を探すしかないと思います。今売れている人でも、ずっと売れ続けることってないんです。私も波がありましたし、売れ続けているように見える人でも、実は山あり谷あり。それが芸能界ですから。おごらずに感謝してやり続けることが大切だと思います。このお仕事を長くやってらっしゃる方は人柄も素敵な方が多いので、そういう方がリピートしてお仕事をもらえるんだと感じています。

なかにはSNSで自分の名前を検索して一喜一憂している若い人もいますが、そういう人には「参考程度に見るのはいいけど、アイデンティティをネットに求めるのはやめなさい」と言っています。自信というのは自分で身に付けないとダメで、与えてもらっているだけだと落ち込むことになります。だから評判を気にしすぎるのはやめること。やはり生身の相手と顔と顔を合わせて、そこで言ってもらった言葉を大事にしたほうがいいですよ。本当の自信というのは、「これはできる、これもできる」と一つずつ自分の中の課題をクリアしていくことでしかできないものですから。

(2017年インタビュー)