【声優道】井上和彦さん「アニメも外画も目指すところは同じ」

僕らの仕事は観ている人をドキドキさせること

高橋良輔監督には『サイボーグ009』の後も、『太陽の牙ダグラム』『蒼き流星SPTレイズナー』などで主役を演じさせていただきました。そういうこともあって二枚目というイメージがついたのか、いまだにかっこいい男性の役を演じさせていただけるのはうれしいですね。作品に関連したイベントに出演することもありますが、僕らの仕事は夢をみてもらうことじゃないですか。そういう場面でときめいてもらうにはどうしたらいいのかなと思って、考えた苦肉の策が〝ジャケットプレイ〟です(笑)。演技のうえでも、観ている人にときめいてもらうには、まず僕自身がときめいていないといけない。だからヒロインに恋する役を演じるときは、僕自身もヒロインのことが好きになってます。

その気持ちをそのまま実生活に持ち込んじゃうと、大変なことになっちゃうんですけどね(笑)。でも、いつも気持ちのうえでは恋をしていますね。あとは、現実でもすごくステキな人、美しい人はいっぱいいるじゃないですか。そういう人を見たとき、素直に羨ましいなぁと思うだけでなく、この人はどうしてステキなんだろう、どんなところが魅力的に見えるんだろう、と考えますね。二枚目という設定の役でも、ただ演じただけではかっこよくならないんです。どういうところが二枚目なのか、外見、中身など二枚目に見せるポイントはいろいろあると思いますが、そこを意識して演じないと二枚目の演技にはならないんです。そういう意味では、いつもステキ探しをしています。

二枚目の役に限らず、どんなキャラクターでもその役になりきろうとする気持ちが大切ですね。よく「このキャラクターにはこの声みたいに、いろいろな声を使い分けてるんですか?」と聞かれるんですが、僕自身は意識して声を使い分けたことはないんです。声なんて、いくら使い分けようとしても高いか低いかの違いくらいしかないんです。そこに、キャラクターの性格とか、そのときの気持ちなどが加わって、しゃべり方が変わってくるんですね。たとえば『夏目友人帳』のニャンコ先生だったら、人間のキャラクターよりも小さいから目線が低いじゃないですか。もし僕の体がニャンコ先生みたいに小さかったら、と考えると、周囲の人をいつも見上げる体勢になるんだから、普通に人と相対してしゃべっているときの声にはなりませんよね。声をどう出そうか、と考えるのではなく、そういう環境に置かれたときに自分の身体がどう反応させるか。まあニャンコ先生はちょっと極端な例ですが、僕が演じた役の声だけを取り上げたら、そんなに大きな違いはないと思いますよ。

もちろん、なかにはすごく声の特徴の強い人や、いろいろな声が出せる人もいますが、僕はどちらかというと声に特徴がないほうですね。でも、だからこそ幅広い役を演じられるというのはあると思います。こういうことを言うとがっかりされるかもしれませんが、『サイボーグ009』の島村ジョーの声と『美味しんぼ』の山岡の声はどう違うんですかと言われても、僕自身思い出せないんですよ。ただ、画面でジョーの顔を見ると自然とジョーの気持ちになって演じるし、山岡を見れば山岡になる、としか言いようがありません。

実は意外に難しい力の抜けたキャラクター

『美味しんぼ』の山岡は、僕にとって島村ジョーと同じくらい転機になった役ですね。実は最初の頃は、山岡の演技をするのにすごく苦労したんです。山岡って、普段はさぼってばかりでだらけていて、料理のことに関してだけキリっとするじゃないですか。キリっとするほうはいいとしても、普段のだらけている演技が難しいんです。録音監督の浦上靖夫さんには「かっこいいからダメ」と何度もダメ出しされました。「よれたスーツを着て二日酔いで出社してくるような声」と言われても、やっぱりマイク前に立つとそれなりに緊張するので、自然と油断してない声になっちゃうんです。マイクの前でだらけた声を出すというのが難しくて、いろいろと勉強させてもらいました。そういった山岡役での経験は、『NARUTO』のはたけカカシ役などに生きてますね。アニメ以外に海外ドラマの吹き替えも数多く経験しましたが、初めて外画の現場を経験したときにはいろいろと戸惑いました。ヘッドホンで原語のセリフを聴きながら演じるんですが、つい耳から聞こえてくる言葉に引っ張られちゃうんです。僕は英語なんてまったくしゃべれないのに、「旦那様、大変でございます!」というセリフのときに、ついヘッドホンにつられて「Hey! Master!」と言ってみたり……(笑)。音響監督さんからは「それ英語っぽい」「英語にしないで」とさんざん注意されました。今ではもうそんなことはありませんけどね。

僕自身はアニメと外画で演技を変えているつもりはないんです。結果として変わってしまうことはあるかもしれないけど、役柄の気持ちを考えて演じるということではアニメも外画も変わりはないんです。ただ、外画のほうが役者さんの演じているセリフや画面から受ける演技のヒントが多いですね。画面をよく観ていると、演技のヒントだけじゃなくて、「この役者さん、こんなことを考えながら演じているな」とわかってしまうこともあります。また、同じ役者さんの吹き替えをずっとやっていると、「この人、若い頃より英語がキレイになったな」というように、その役者さん自身の成長を見られることもあります。そういう意味では、アニメとはまた違った魅力がありますね。

BAR『Envelop』バーテンダー・亜夜芽【CV.諏訪彩花】