【声優道】池田昌子さん「自分が演じる役を好きになって」

オードリー・ヘプバーンを
何度も演じることの苦労と幸せ

『銀河鉄道999』のメーテルも、私にとっては思い出深い役です。配役に決まってから知ったんですが、作品のプロデューサーの方が『ローマの休日』がとても好きで、私が吹き替えをしたものも観ていてくださったんです。あと、原作者の松本零士先生からもいろいろとお話をうかがいました。松本先生ご自身の中にメーテルにつながるようなイメージがいくつかあって、夜汽車に乗って上京してきたときに隣の席に座っていた女性の横顔が窓ガラスに映っていたのがとてもきれいだった、というようなお話ですね。驚いたことに、『わが青春のマリアンヌ』という映画でマリアンヌ・ホルトが演じた美しい女性も、メーテルにつながるイメージの一つだとおっしゃったんです。実は『わが青春のマリアンヌ』では、私がそのマリアンヌ・ホルトの吹き替えを担当させていただいてましたから、不思議なご縁だなと思ったのを覚えていますね。

何年か前に『銀河鉄道999』のキャラクターを使ったCMがありましたが、音声は新たに収録されたものなのですよ。久しぶりにメーテルを演じさせていただきましたが、録り直しというのは役者にとってはつらいものなんですよ。画面の中のキャラクターは歳をとりませんけれど、演じるこちらはどんどん歳をとっていきますからね。

オードリー・ヘプバーン作品も、放映されるたび、DVDとして発売されるたびに録り直しているんです。でも何度目かに『ローマの休日』を録り直したときは、もう二度と私が演じちゃいけないと感じました。『ローマの休日』に出ているヘプバーンは、演技ももちろん上手なんですが、それ以上にあの年齢だからこその透明感、清潔感が美しさとなって現れていると思うんです。ほかの作品だったら、声の出し方やセリフ回しなどで何とか演じることができるかもしれませんが、『ローマの休日』のヘプバーンのあの初々しい美しさは、作って出せるものではない。もっとフレッシュな声の方が演じたほうが絶対にいいと思うんです。だから二度と演じちゃいけないと思ったんですが、その後も再び録り直すことになったときに渋っていましたら、「城達也さんもご出演されるので、ぜひお願いします」とのことでしたのでやらせていただきました。あの映画でヘプバーンがグレゴリー・ペックという素晴らしい相手役に恵まれたと同じように、私も城達也さんという素敵な相手役に恵まれ『ローマの休日』という名作を何度も吹き替えることができたのは本当に幸せでした。けれど、もしまた依頼があったら、今度こそ「ごめんなさい、勘弁してください」と言うつもりでいます(笑)。

避けようのない声の老化をできる限り食い止める

声って、ものすごく正直で敏感なんです。体の健康はもちろんのこと、心の中に悩みがあったりするだけで、声に影響してしまうんです。声帯も体の一部なんですね。体が硬いと声も硬くなって伸びなくなりますし、音域が狭まるのがわかりますね。生きている限り悩みのない人間なんていませんから、精神的なものはできるだけ気にしないようにするくらいしかできませんが、せめて体だけでもできるだけ管理しておきたいですよね。ですから運動不足にならないように気を付けています。特別にジムに通ったりしなくても、なるべく歩くようにしたり、毎日ストレッチをしておくだけで、かなり違うんですよ。そういうトレーニング不足での声の変化は、誰に気づかれなくても、自分にはわかってしまうんです。「これだけしかできないのか。ここまでしか出ないのか」と自分にがっかりしたくないので、今でも毎日続けていますね。若いうちは何日かトレーニングをさぼってしまっても、ちょっと動けばすぐに取り戻すことができたんですけど、歳をとると毎日続けることがすごく大事になるんです。

本当に悔しいんですけれど、声も老化していくんですよ。それをできる限り食い止めるしかないんです。といっても決して昔と同じ若い声という意味ではなく、自分が出したい声がちゃんと出せるか、ということです。でもそれは歳をとってから何とかしようと思ってもなかなか難しいと思います。若いときの日常が大切ということでしょうか。