トークライブ「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」
第2夜「音響スタジオの今、これから。声優・録音現場の未来」
アニメ放送の延期やイベントの中止など、新型コロナウイルスの影響により大打撃を受けているアニメ業界。今後、アニメ業界はどうなっていくのか――。緒方恵美さんと第一線で活躍するアニメ業界関係者の方々が、業界の現状や未来について語り合うオンライントークイベント「わたしたちのこれから-アニメのおしごと-」が、7月31日から3週に渡って開催された。今回は、ゲストに音響監督の方々を迎えて行われた第2夜の模様をお伝えしよう。
<ゲスト>アニメ音響監督(音楽プロデューサー)の方々
・山田 陽さん(スタジオドンファン)『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『君の名は』『虚構推理』ほか
・亀山俊樹さん(ビットグルーヴ)『魔法少女リリカルなのは』『3月のライオン』『SSSS.GRIDMAN』ほか
・島居理恵さん(フリー)『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『鬼灯の冷徹』『日本アニメ(ーター)見本市』ほか
レコーディングでもソーシャルディスタンスを意識
コロナ禍の最中にちょうど会社の合併事業が重なったという亀山さんは「仕事がちょうど止まってしまったので、引っ越しなどの作業はスムーズできました」とのことだが、仕事は1カ月から1カ月半はほとんど動かず、その間は抗菌シートを揃えるなど、再開に向けての準備期間に当てていたそう。一方、「映画の制作はあまり密にならないような状況で作業ができるので、それほど影響を受けずに仕事を続けることができました」と対象的な感想を山田さんが述べたように、取り巻く環境や担当する作品によって状況はまちまちだった模様。もっとも、どこかの工程が止まれば必ず他の工程に影響するので、影響がゼロという人はいなかっただろう。
また、「オーケストラ仕様の楽曲をレコーディングする際は、大人数の人たちをどのように配置できるのか検討となりました」とレコーディングの大変さを実感したという島居さんは、続けて「高橋洋子さんのステージでは、ダンサーのソーシャルディスタンスを保つために振り付けを変えなければならず、他にも大変なことがたくさんありました」と、コロナ渦におけるパフォーマンスの難しさを神妙な面持ちで語った。
最少人数での作業を余儀なくされるアフレコ現場
飛沫感染を防ぐため、マスクが必須の時代となった。たとえマスクを着けていたとしても、大きな声での会話は避けるというのが常識になりつつある。というわけで、苦しむアニメ業界のなかでも特に新型コロナの影響が大なのがアフレコ現場。
アフレコスタジオの対策について亀山さんは「立てるマイクの数を減らして臨んだり、普段は使わないスペースにもマイクを置いたりして、人と人の距離を保つようにしています」と、アフレコ現場においてもソーシャルディスタンスを徹底していること明かす。また、「広めのスタジオを使っているので、マイクは1人1本。使用後はその都度消毒をするよう徹底しています」と山田さんが語るように、コロナ前とコロナ後ではアフレコ現場が大きく様変わりした。さらに、アフレコブースよりも音響監督や監督が入る「コントロールルーム」のほうが密になる可能性があるということで、場合によっては、監督であってもリモートでの立ち会いをお願いすることもあるそうだ。
なお、アフレコそのものについては、「最少人数での作業」「マイクの配置等など細かな違い」などから苦労が絶えないことは容易に想像がつく。実際、アフレコ時間もコロナ前に比べて倍近くかかっているのが現状だという。緒方さんいわく「私自身はもちろん疑問ですが、『アフレコもリモートでやればいいのでは?』という意見も聞こえてきます」。しかし、相手の表情や間が読めないなど、今までアフレコ現場で当たり前にやってきたことができないため、事はそう単純ではない。
また、そういった演技面に加え、リモートではタイムラグという技術的な問題も生じてしまう。現在主流となっているリモート放送を例にとると、人によって通信環境が異なることに加え、「昼と夜では環境が全然違ってくるので、リハーサル通りにいかないこともままある」と島居さんが語るように、アフレコやリモート放送は、依然として手探りの状況が続いているとのことだ。
登壇者の話にじっと耳を傾けていた儀武さんは、「マイクの前に入れ替わり立ち替わり入り込んで演技をする声優ならではの技術が今後なくなってしまうとしたら残念」と心境を吐露。緒方さんも「役者さんの空気を受け取ってそれを渡すということができない環境になってしまい、演じていて本当に寂しい」と嘆いていた。
また、制作現場以外でも問題は山積みだ。島居さんが「購入特典を店舗に取りに行くという流れが営業自粛で難しくなったり、リリースイベントの開催などができなくなってしまったりするのは、レコード会社にとっても悩みの種です」と話すと、緒方さんは「私も、ファンの皆さんと会える機会がなくなったのはとても寂しい。それに、イベントの出演料などを計算に入れながら生計を立てている声優も多いので、大変なんですよね」と、別の角度からも窮地に立たされている役者がたくさんいることを明かした。
緊急事態宣言が明けてもなお、危機的状況が続くアニメ業界。最終回の第3夜では、新しい時代のアニメーションの在り方について考えていく。
ロフトグループ応援企画トークライブ「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」
<配信日時>
8月7日 19:30-21:00
<配信場所>
渋谷ロフト9(無観客有料配信)
<MC>
緒方恵美さん、構成作家・アシスタント:儀武ゆう子さん
<企画・制作>
ブリーズアーツ、LOFT9 Shibuya
今までのアニメ、これからのアニメ。作り続けるために(第1夜)
https://seigura.com/news/44604/
※第3夜は9月6日(日)に掲載いたします。