キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by 声優グランプリ』。
今回登場するのは、2022年5月に開催された『第3回キミコエ・オーディション』で2000人の中から見事グランプリを獲得した新福桜さん。TVアニメ『勇者が死んだ!』ミリィ・ユニス役で念願の声優デビューを果たした新福さんに、声優になるきっかけや地元・鹿児島での思い出などを聞きました。
新福桜 オフィスPAC公式サイト:http://www.office-pac.jp/ ★新福さんの手書きプロフィール公開中! |
「声優なんて無理」という気持ちが強かった
――昨年5月のオーディション最終審査から1年経たずにアニメデビューされています。声優に憧れたのはいつ頃からですか?
気づいた時には憧れていて、声優という職業を知ったのは小学校高学年の頃。『ギルティクラウン』のイベント映像を観た時に、声を使ったお仕事でいろんな人に楽しさを届けられて、素敵なお仕事だなと思いました。私はもともと朗読が好きで、国語の授業で自分が読む段落が長かったら「よし!」って思うような子でした。
――声を使うお仕事ですけど、自分の声にはどんな印象を?
決してかわいい声ではないと思いますけど、感覚的にすごくサラサラしている気がして、お水みたいだなって。自分のことですけど、そこが気に入っています。一つ思い出があるのは、大学の英語の授業ですごく屈強な見た目のネイティブの先生が教えてくださっていたんですけど、グループワークで先生の話を聞かずに歌を歌っていたら、「誰だ!」と英語で言われて……。怒られるかと思ったら「あなたは声がいいから歌手になるべきだよ」と褒めていただいて、うれしかったことがあります。
――インパクトのある思い出ですね (笑)。それこそオーディションでは歌唱パフォーマンスも披露されていました。
4年生から6年生まで小学校の合唱部に入っていたので、歌うことはすごく好きです。
――その後も何か部活動を?
中学ではバドミントン部、高校では女子ハンドボール部でした。本当は運動が苦手だったんですけど、小学生の頃って運動できるとかっこいいイメージがあって。苦手だからこそ克服したい気持ちもあって、中学で始めたら、運動が好きになって、別のスポーツもやってみたいと思い、高校でハンドボール部に入部しました。
――6年間、運動部で青春時代を過ごしたんですね。
ハンドボール部では一生親友だろうなと思える人たちに出会いました。声優になりたいって自覚したのは中学1年くらいでしたけど、高校3年になるまで「自分にはできないんだろうな」という思いのほうが強かったです。でも親友の一人に、なりたい自分になるために、周りからどう言われようと努力している子がいて、それがすごく輝いて見えたんです。その子から影響を受けて、私もオーディションを受けるようになりました。
ここで失敗したら一生悲しいだろうから
――貴重な出会いだったんですね。では、オーディションも声優関連のものに応募を?
はい。初めて受けたのは大学1年の秋くらい。それと並行して演劇スクールにも通っていました。お芝居が好きじゃないと声優になれないと思っていたので、試してみるつもりで。その頃の人生設計としては、大学を卒業した後に特待生で養成所に行くという道を狙っていたので、オーディションは力試しのつもりでした。年に2回くらい受けていたので、『キミコエ』は4〜5回目くらいのオーディションになりますね。
――力試しのつもりがグランプリに。
もちろんいけるところまでいきたいとは思っていました。オーディションを受けるたびに、書類審査、2次審査、3次審査……と先まで進めるようになっていたので、『キミコエ』でも2次や3次までいけたらいいなと。
――最終審査の前には、ファイナリストが集まって週末にレッスンを受けていたとか。ライバル意識でバチバチになりそうな気もしますが……。
それが、びっくりするくらいほんわかしていて! みんな同じように緊張感やドキドキ感をもっているからこそ、共感しあえる部分が多かったんだと思います。一人しかグランプリになれないけど、お互いに応援し合ってベストを尽くそうという暗黙の了解が、2日目くらいからあったような気がします。最終日は終わるのが寂しかったくらいです。
――充実した時間だったことが伝わってきます。
レッスンで忘れられないのは、「セリフの裏に何があるのかを考えましょう」という演技の先生の言葉。今でも台本の上に「セリフの裏に何がある?」とメモしていて、悩んだ時にパッと見て基本に戻るというルーティンができているので、これからも大事にしていく言葉だろうなと感じています。初めて経験することばかりで、学ぶことが多かったので、最終審査はここで学んだことをひたすら振り返りながら臨みました。
――本番になって、大勢の前で演技や歌を披露するのはさぞ緊張するのでは?
めちゃめちゃ緊張しました。でも「ここで失敗したら一生悲しいだろうから、やるしかない」って自分に言い聞かせていたら、わりと緊張に流されずにできました。あの場を経験したので、これからどんなことがあっても乗り越えられるような気がします(笑)。もともとは、クラスをまとめたり、ドッジボール大会で円陣の掛け声を担当したりしていたので、人前に立つのは嫌いではないんです。そのわりには恥ずかしがり屋で、いざ人前に立つと、えへへ〜となるんですけど(笑)。不思議なことに、声優の仕事ではあんまり緊張しないんです。やりたいことをやっているからかもしれません。
仕事なら、求められたものに応えられないと
――昨年5月にグランプリを獲得し、その年の9月から『勇者が死んだ!』のアフレコがスタートしたとか。その間はどのように過ごしていましたか?
毎週末、レッスンに通っていました。大学は地元だったので、金曜日の夕方に上京して、日曜のレッスンが終わったら鹿児島に帰るという生活を10カ月ほど続けていました。最終審査の日に作品名だけは聞いていたので、その日すぐに原作を買って、どの役だろうって考えながら読みました。
――10カ月はなかなかハードでしたね。ミリィ役を演じることを聞いたのはいつ頃?
アフレコが始まる直前だったような……? 誰かからサラッと聞いて「そうなんですか?」って聞いたら、「え! 聞いてないの?」って驚かれました。
―― サラッと(笑)。初めて知った時の印象は?
音響監督の清水洋史さんから「もしかしたら新福さんにはもっと合う役があるかもしれない」と言われていましたし、私自身も「私がミリィ役に100%ふさわしいとは言えないかも」と感じていて。不安もありましたけど、だからこそ全力でやりました。それまで苦手だったことも頑張りたいと思ったし、目を向けてなかったことにも注目したいと思えたから、結果的には自分の幅を広げてくれたキャラクターです。
――いろいろな新しい発見があったんですね。
これまではアニメに憧れしかなかったから、自分に合いそうな役やお芝居しか見てこなかったんだなって。声が低めだから、少年役とかもっと落ち着いた女の子の役は向いているだろうけど、ミリィみたいなキャピキャピ元気系の女の子は無理だと思っていたんです。でも仕事として演じるなら、求められたものに応えられなきゃと。
――真摯に役に向き合えたんですね。実際に演じたミリィはどんな女の子でしたか?
かわいいだけではなく、すごく芯が強い子です。冷静に考えたら、あの若さで故郷を離れて、怖い悪魔を相手に戦ってるってすごいことだと思うんですよ。勇者になった理由もかっこいいし、冒険の中でいっぱい不安があると思うのに、弱さを出さない子で。たまに調子に乗ってミスをする時があるのも親近感が湧くし、かわいらしいなって思います!
――初めて体験した、声優としてのアフレコ収録はどうでしたか?
不思議だと思ったのは、初めて入ったのに「ブースの中って落ち着くなあ」と感じたことでした。声優に憧れて、アフレコの舞台裏みたいな映像をいっぱい観て、自分がお芝居するところも想像していたからだと思います。でも、静寂さにびっくりしました! 音までは想像してなかったから、一人で中に入った時の無音さがすごくて……。なんかもう、宇宙空間みたいに感じて、軽くパニックになりました(笑)。
桜島は子どもの頃からそばにあった特別な存在
――新福さんのプライベートについても知りたいので、大好きなものを3つ教えてください!
1つ目は「BUMP OF CHICKEN」さんです。兄の影響で小学生の頃からウォークマンで聴いていて、私の人生観の8割くらいは影響を受けています。最終審査の日、ホテルから会場まで歩いている時も爆音で聴いて、「私、最強」みたいな(笑)。今でもライブに行きますし、力をもらうことがたくさんあります。
――特に気分が上がる曲は?
最終審査に行く時に聴いていたのは、「Hello,world!」。最近上京したんですけど、引っ越しの前日は「バイバイサンキュー」を聴きました。人生で、この曲を聴くのにこんなにふさわしい日はないだろうなっていう感じで。他の曲もみんな好きで、カラオケで全部歌えます。ランダムに選んだ曲でもパッと歌えます!
――2つ目は何でしょう?
地元の桜島です。私の名前も「桜」ですし、本当に大好きで。フェリーに乗って桜島を眺めている時がいちばん、鹿児島に生まれて良かったって思うし、離れたくないって感じますね。私にとって特別な存在です。
――子供の頃から親しんできた場所なんですね。
はい。私は垂水(たるみず)フェリーが好きで。45分かけて桜島をぐるっと周るので、乗っているうちに桜島の形がどんどん変わっていくのが最高なんです。フェリーの中でおいしいうどんが食べられるし、ぜひ皆さんも乗ってみてください!
――最高の旅になりそうですね! 3つ目はどうですか?
これも地元にまつわる話ですけど、温泉が好きで。鹿児島にはいっぱいあるので、子供の頃から週に一回くらい行っていました。垂水に秘境みたいな温泉があって、県外の人にはあまり知られていないんですけど、露天風呂から桜島も開聞(かいもん)岳も錦江(きんこう)湾も全部見えて、絶景なんです。そのうち関東の温泉巡りもしてみたいです。草津温泉とか!
――お休みの日はどんなふうに過ごしていますか?
かなり現実的な話になりますけど、その週の作り置きを作っています。週末に「これくらいあれば水曜日まで食べられるかな」っていうくらいの量。引っ越してから本格的に自炊を始めたので、めちゃくちゃ楽しくて。普通の家庭料理ばかりだけど、最近作っておいしかったのは、ひじき煮。初めて作ったので適当に味付けしたんですけど、それがすごくおいしくて。
――お仕事では、これからどんどん忙しくなりそうですね。今後はどんな声優になっていきたいですか?
今はがむしゃらにいろんなものを吸収して、役者として少しずつ成長していけたらと思っています。私自身もいろんな作品や音楽、言葉に救われてきた人間なので、今度は私が声優として、自分の言葉や表現で誰かの背中を押すことができたら、幸せだなと思います。
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
撮影=石田潤、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」
【声優図鑑】新福桜さんのコメント動画
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
撮影=石田潤、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」