キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回は『ヒプノシスマイク』の有栖川帝統役や『東京リベンジャーズ』の林良平などを演じる野津山幸宏さんを直撃。帝統役の表現力が大きく評価される野津山さんの意外なデビュー前の話、個人的にも好きだというラップバトルのこと、休日のリフレッシュ方法など、縦横無尽に語っていただきました!
野津山幸宏 オフィシャルサイト:https://stay-luck.com/talent/nozuyama-yukihiro/ ★野津山さんの手書きプロフィール公開中! |
同級生から「吉本に行くしかないだろ」と言われて……
――2017年に大阪アミューズメントメディア専門学校を卒業し、声優の道に進まれていますが、子どもの頃から声優というお仕事に興味があったんですか?
今はあんまり緊張することはないのですが、昔は真逆というか、めちゃくちゃ緊張しいでした。でも小学校高学年くらいから人前に出るのが好きになって。役者になるというより、テレビに出る仕事に就きたいなと思っていました。
――ということは、テレビが好きだったのですね。
お笑いをよく見てましたね。大阪では吉本新喜劇が毎週テレビで放送されていたし、笑いが身近にあったので。みんなの前でもよくふざけていたので、「もう吉本に行くしかないだろ」と言われていました(笑)。クラスのムードメーカーみたいに認識されていて、僕が休んだ日の学級日誌には「今日は野津山がいなかったから静かだった」と書かれていたのを覚えてます。
――山寺宏一さんをテレビで見て大きな影響を受けたというのは、その頃ですか?
しゃべるのが好きだったこともあって、中学生の頃に母親から「アナウンサーに向いているんじゃない?」と言われて目指した時期もありました。ただ、勉強がめちゃくちゃ苦手で……。塾に行って進学校に入ったんですけど、週に2回もテストがあるし、テストの点数が悪いと補習があるし、地獄のような日々の中で余計勉強が嫌いになっちゃって。アナウンサーは断念しました。
その頃、内輪で先生や友達のモノマネをしていたりして、ものまね芸人という道も考えたりしました。ただこれも、母親から「自分の子が芸人になって熱湯に入ったりドッキリでつらい目に遭ったりするのを見たくない」と言われて。でも、それ以外にやりたいことがなかったんですよね。
ある程度の大学に行って収入が安定した公務員になろうと漠然と考えていたら、モノマネ番組に山寺さんが出演されていて。当時は高校2年生でしたけど、めちゃくちゃ失礼な話、声優さんの存在も、山寺さんのことも知らなくて、新人のモノマネ芸人さんだと思っていたら、「声優」というテロップが出たんですよね。それで、声優という職に就けばモノマネ番組にも出られる、と思ってしまったんです。
その頃は何もわかっていなかったので、こんな軽はずみな考えを許してほしいんですけど…(笑)。
――本当に声優さんのことをご存知じゃなかったんですね。じゃあ、それから声優になれる道をいろいろと調べたわけですね。
はい。アニメや専門学校もチェックして。まったく触れてこなかった世界でしたけど、アニメってこんなにすごいんだ……と。こんな文化があったことに衝撃を受けました。その頃、帯のアニメで、梶裕貴さんがいくつかの役で出演してらっしゃったんですが、役によって声や演技が全然違って。最初は「モノマネ番組に出たい」という動機が、徐々に「声優としてアニメ業界に関わってみたい」という想いに変わっていきました。
ラップはひたすら聴くことで習得しました
――2017年に『ヒプノシスマイク』のオーディションに合格、有栖川帝統役で出演しています。
その時のプロダクションに所属してから3回目のオーディションでした。専門学校時代に「オーディションは100回受けて1回受かればいいほう」と教えられたので、「え、僕めっちゃ才能あるじゃん」って思っていたら、その後は1年以上何も受からなくて(笑)。100回に1回は嘘じゃないんだな、ただ運が良かっただけなんだなと。
――嘘じゃなかったんですね(笑)。オーディションでもラップはあったんですか?
セリフとラップでした。専門学校で2年学んだとはいえ、演技は素人と変わらないようなレベルだったから、他の声優さんと同じスタート地点かもしれないラップで差をつけるしかない! と思って、いっぱい練習してからオーディションに臨みました。
――今や、有栖川帝統役のラップはいろんなところで評価されています。最初はどんなふうに練習したんですか?
まずはオーディションの課題だったラップを聴きました。口ずさむこともありましたけど、僕は聴くほうが性に合っていて。声に出すよりは、聴きまくりました。課題曲のほかに、ラップバトルの番組をチェックしたりして。
――もともと音楽や歌は好きだったのでしょうか。
リズム感をよく褒めていただけるのですが、この作品に関わるまではラップを全然知らなくて。でも、ラップバトルって知っていくと、音楽の格闘技みたいな感じで面白くて、個人的にもハマったんですよね。このオーディションがなかったら触れなかったジャンルだろうし、出演できているのはもちろん、新しい音楽にも出会えて感謝しています。
――初めてオーディションに受かった作品でラップバトルまで披露して、不安はなかったですか?
不安よりも期待やワクワクのほうが大きかったです。ライブもレコーディングも、大量のセリフをしゃべることも初めてだし、すべてが楽しみで。Fling Posseのほかのメンバーは、白井悠介さん、斉藤壮馬さんというすでに人気の声優さん2人だったので、ついていくぞと。お2人が何も知らない僕を優しく導いてくれました。
――『ヒプノシスマイク』が世に出るとすぐに話題沸騰しましたよね。中の人たちはあの現象をどんな風に見ていたんでしょう。
1曲目がけっこうゴリゴリのラップで、果たして受け入れて貰えるのかと心配してましたけど、すごく受け入れられていてこちらがびっくりしました。当時、声優のラップってあまり見かけなかったので、真新しさに興味を持ってもらえたのかなって思いますね。
――そんな『ヒプノシスマイク』も今年で6周年。これからまだまだ進化していきそうですね。
僕のデビューと同じだから、本当に一緒に歩んできている気がします。追加のキャストも6人増えたし、作品がどんどん進化し続けているから、自分も声優としてスキルアップしていかないといけないなと。僕自身も、ありがちですけど、今日より明日、というイメージで頑張っていきたいです。
――他にも出演作はいろいろありますが、ラプル役を演じる『冒険大陸 アニアキングダム』は子ども向けの作品。収録現場はどんな雰囲気ですか?
キャストがすごく豪華で、玄田哲章さんのようなレジェンドもいらして。収録ではアドリブが多いんです。歩いている感じの音とか、戦っている時の掛け声とか。僕は同じ恐竜役の小野大輔さんと収録することが多いんですけど、小野さんのアドリブはやっぱり面白いし、先頭に立って思いっきりやってくださるから、それを間近で見られるのは自分にとっても大きな経験になっていて。思い出深い現場ですね。
――声優さんってアドリブもできれば、トークも上手な方が多いですよね。野津山さんはお笑いにも挑戦していますし、トークも好きだったりするのでしょうか?
トークは好きですね。小さい頃から笑い飯さんや中川家さんが好きだったし、最近はチュートリアルさんとか、芸人さんとご一緒させていただくことがあるんですけど、ワードチョイスや、トークの間がさすがで、しゃべりのプロは違うなと。自分もこれくらい話せたらいいなと思うことがあります。
――声優として、これから演じてみたい役があれば教えてください。
クールなキャラクターを演じてみたいです。今までは快活な役や破天荒なキャラが多かったので。自分とは対極のタイプということでも挑戦してみたいですね。
プライベートでは釣りと筋トレにハマり中
――プライベートで最近凝っているものはありますか?
最近は釣りにはまってます。東京ではあまり釣りスポットがないので、千葉とか神奈川とか、休みの日に余裕があったら行くような感じで。バンバン釣れる日もあれば、全然釣れない日もあって面白いですよ。
――何が釣れるんですか?
今年始めたばかりで、夏に行った時はマメアジとか、シロギスとか。アイゴっていう毒を持っている魚も、ちゃんとさばけば食べられるみたいで。広島の親戚の家に行った時、釣りに誘われて、餌に似せたものを下まで垂らしてチョンチョンって動かしながらタコを探したんですけど、これが結構楽しくて。東京に帰ってから、自分でも釣具を集めて始めました。
――時間に余裕がある時は釣りでリフレッシュを。日常の中での息抜きは、何かありますか?
ジムですね。体を動かすとすっきりするし、人前に出ることもあるお仕事なので。声優って動かない仕事なんですよ。アフレコで出番になったらマイク前に行きますけど、それ以外は椅子に座っているし。
筋トレって自分との戦いなんです。行くたびに限界までトレーニングするんですけど、その限界を毎回少しずつ更新するのが、筋トレでは大事。ダンベルの重さが最初は10kgだったのが、1ヶ月で15kgになったりとか。毎回ジムに行くだけで自分の限界を越えられると思うと、ちょっといいなっていう。それに、筋トレってメンタルも鍛えられるんです。「絶対上がる!」と思えば上げられるというか。メンタルを鍛えれば、オーディションに落ちてもくじけず、次も「絶対に受かってやる!」という気持ちで挑める。自分に自信がない方や、ストレスが溜まって達成感がほしい人にもおすすめです(笑)。
いろんな表現で、いろんな人たちのちょっとした支えになりたい
――これからどんな声優になっていきたいのか教えてください。
お芝居を軸にしながら、僕自身が表現者として最高のエンターテイナーになることを目指しています。野津山くんが出てるアニメ面白いよねとか、ラジオいいよねとか、いろんな形の表現をして、いろんな人たちの日常のちょっとした支えになれたら。まだまだ未熟ですけど、自分を知ってもらう機会を増やしていきたいです。
――目指すべき場所に到達するためにどんなことが必要だと考えていますか?
何でも挑戦することが大事かなと思っています。ラップバトルも最初は「悪口言い合うやつでしょ?」という偏見があったけど、そうではないし、触れてみないとわからない世界はあるから。「これをすれば演技が上手くなる」っていうのが僕の中ではまだ見つかっていなくて、たとえ興味がない物事でも一つ一つ挑戦していくことが、将来自分のやりたいことに繋がるのかなって思います。
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
撮影=石田潤、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」