キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回登場するのは、『アイカツ!』の 氷上スミレ役、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』の浅倉透役などを演じる和久井優さん。名前のある役として初めてレギュラーを務めたデビュー作『アイカツ!』から約10年。声優を始めた当時から変わったことや、休日の過ごし方などを教えてくれました。
和久井優 オフィシャルサイト:https://mittma.com/profile/yu_wakui/ |
とにかくお芝居がしたくなった高校生の頃
――クラシックバレエ、書道、ピアノなど幅広い特技を持っていますが、興味の幅が広いほうなんでしょうか。
やりたいことがたくさんあるタイプなんだと思います。一番小さい頃から習っていたのはクラシックバレエで、その後に書道とピアノ。中学ではフルートをやらせてもらいました。高校3年生の冬に劇団ひまわりの養成所に入ってからも、ダンスのレッスンとは別に、個人的に日本舞踊を習いに行っていました。できないことが練習した分だけできるようになっていくのは楽しかったなと思います。
――人前で表現するような習い事が多かったようですね。それだけ習い事をしていると、学校で部活をする時間もなさそうですが。
学校が終わったら習い事……っていう日々で、友だちと遊ぶ時間はあまりなかったんですけど、いろいろと学べるのが楽しかったんです。中学校では部活に入るつもりはなかったのですが、入学の歓迎会で吹奏楽部の上級生の方たちが演奏している姿を見たら「入りたい!」と思っちゃって。すぐに体験入部に行って、フルートに出会いました。
――すぐに体験入部とはフットワークが軽いですね。
興味があることに対しては、そうかもしれません。大勢で合奏するときの気持ち良さは今でもよく覚えています。音楽って聴くのも素敵ですけど、音楽の内側に入って、その一員として演奏すると、音が体に染み込んでくるようで。『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『ハリー・ポッター』のような映画の壮大な曲を演奏していると、物語の中に入り込んでいるような気持ちになれて面白かったです。
――では、高校でも吹奏楽を?
高校は帰宅部でした。漫画とかの影響だと思いますけど、高校って日常の中でいろんなことが起きて忙しいだろうなと想像していたので。実際は、漫画のように華やかな学校生活はありませんでしたけど(笑)。でも、高校生になって初めて学校帰りに友だちとお茶をしたりして、あの時にしかできない経験が楽しかったですね。
――そんな毎日を送るなかで、演技への興味が膨らんでいったのですか?
明確なきっかけがあったわけではないんですけど、表現することへの憧れはあったような気がします。クラシックバレエを習っていたし、両親の影響で洋画をよく観ていたので。高校3年生のとき、“とにかくお芝居をしたい”と思って、演技の道に進む決断をしました。他にも興味のあるお仕事がいくつもあったんですけど、お芝居の道を進むには今がチャンスの時だっていう気持ちがどこかにあったんだと思います。
――他に気になっていた職業というと……?
勉強がそんなに嫌いではなかったので、勉強をしながら研究室で仕事ができる大学教授みたいなお仕事もいいなと思ったし、洋画をよく見ていた影響で翻訳家にも興味がありました。
――声優の仕事は、将来のことで悩んでいたときに、当時のマネージャーさんからオーディションを紹介されたそうですね。
アニメは昔から好きでしたけど、声優という職業を自分事として捉えたことがなかったんです。養成所に入ってから、ありがたいことに、映像、舞台、モデルなどいろいろなお仕事をやらせていただいたんですけど、自分の中で軸になるようなやりたいことを模索していて。そんなときに声優のオーディションで役をいただいて、声のお芝居の楽しさに引っ張られていきました。
――いろいろなジャンルを経験したうえでの声優だったと。
いろいろと経験できたからこそ、声のお芝居の楽しさに気付けたのかなとは思います。でも声のお芝居って本当に難しいなと何年やっていても思うし、これから先、自分のお芝居に完全に納得できることはないだろうな、っていつも思います。
“ちゃんとやらなきゃ”って思っちゃうタイプです
――声優になってから思い入れの強い作品を挙げるなら、どの作品ですか?
『アイカツ!』の 氷上スミレ役はデビュー作なので、やっぱり思い入れは強いです。マイクワークなどの技術を一から教えていただいた現場で、スタッフさんにもキャストの皆様にも本当にお世話になりました。養成所に入ってから最初のお仕事がモデルで、その後に大河ドラマに出演させていただく機会に恵まれて……その頃は、今みたいに声のお仕事が中心になるとは思いもせず。何が起こるかわからないから、いろんなことに挑戦したい気持ちはありますね。
――いろんな仕事に出会う中で声優の道が開けていったのだな、ということが伝わります。声のお芝居を始めてから約10年、お仕事で大切にしていることは?
楽しみたいと思っているんです。お仕事だからちゃんとやらなきゃって思っちゃうとキュッと視界が狭くなってしまって。窮屈に考えすぎず、肩の力を抜いて、その場その場を楽しんでいけたらいいなと思っています。
――肩の力が入りすぎることも?
すごく力を抜いたつもりが全然抜けていなかった……みたいなことが本当によくありますね。それこそ昔は今よりももっと色々な場面で緊張していました。無意識でしたが、たぶんちゃんとやらないといけないっていう気持ちが強かったんですよね。
――そんなふうに以前の自分を振り返るようになったのは、約10年のなかで自分の中に変化があったということですか?
そうですね。大人の方や初対面の方と接するのは緊張するって思っていましたけど、話してみたらみんな優しいし、“敵ではないんだな”って。もちろん緊張はしますけど、皆さん本当にあたたかく見守ってくださる方ばかりで、以前よりは落ち着いてお話できることが増えたように思います。
――最近は『アイドルマスター シャイニーカラーズ 2nd season』浅倉透役としての活動が目立っていますね。シャニマスのお仕事に携わるようになってから変化したことはありますか?
「和久井さんってこういうお芝居もできるんだ」って言ってくださったり、大きなコンテンツなので、「シャニマスに出ている人ね」って認識してもらえたり。本当にありがたいですね。
最近始めたのは「散歩」と「パン作り」
――プライベートについてもうかがいたいのですが、よく会う声優さんはいますか?
それこそシャニマスの子たちはみんな仲良しで連絡を取り合っていますし、『アイカツ』で一緒だった下地紫野ちゃんや、事務所の先輩である石川由依さんとは仲が良くて。お二人とも忙しいので、たくさん会うことはなかなかできないですけど、たまに会ってご飯を食べたり、他愛のない話をしたり。
――ご飯はどんなお店で?
カフェに行くことが多いですね。あとは一緒に舞台を観劇に行ったことも何度かありました。
――休日は何をして過ごすことが多いですか?
家事をしたり、普段できないようなお掃除をしたりするのも好きですけど、最近は外に出たくなってお散歩やハイキングに行って、自然を感じるのが好きです。
――ちゃんとした観光地というより、ちょっとした場所に。
はい。美術館とか、高尾山とか。「明日行けたら行こう」とか、急に思い立って行くことが多いです。いつもより早起きをして。
――朝何時くらいに起きるんですか?
高尾山に行ったときは、朝7時か8時くらいに現地に着くような時間に起きました。でもしっかり登山をする方だともっと早くて、早朝6時から登り始める方もいらっしゃるので、それに比べたら全然早くないのかなと。
――外に出たいと思ったきっかけはあったんでしょうか。
なんでしょうね!? どこかで高尾山の話を聞いた……とか、ふとしたことがきっかけで。でも、とりあえずやってみて、ハマることとハマらないことがありますね。決断が早いとか、好き嫌いがはっきりしているという訳ではなく、むしろ決断が遅いんですよ。わからないからこそ手を伸ばしてみて、好きなのか嫌いなのかを発見するところはありますね。
――まずはやってみる、と。
はい。色々考えすぎてしまって、自分の気持ちがすぐに定まらないことがあるのですが、ひとまずやってみる。「意外と楽しかった」「意外とできた」っていうこともあるので。ちなみに、最近はパン作りにもハマっています。
――パン作りですか。
たくさん失敗しましたけど、最近は「この生地ならいけるな」とわかるようになってきました。油を使わず体に優しいベーグルから始めたんですけど、白くてモチモチした生地がかわいくて、かわいくて。そのかわいさにハマって、白パン、シナモンロールなどいろいろ作っています。
自分の知らない自分を教えてくれたみなさんに恩返しを
――いろいろうかがってきましたが、声優になって良かったと思うのはどんなことですか?
自分の世界が広がりましたし、どの仕事も同じでしょうけど、素敵な人たちとの巡り合いはかけがえのないことだなと。それから、ファンの方と出会えたのもありがたいことだなと思っています。
――これから声優として叶えていきたいことはありますか?
昔出演させていただいた作品を見返すと、当時のフレッシュな自分をまぶしく感じることがあるんです。だから、日々生きているなかで経験したいろいろなことを、今だからこそできるお芝居に活かせたらいいなと思っていて。それがどんな形で活かされるのか、これから自分がどんな活動をしていくのかはわかりませんが、どんな形であれ、とにかくお芝居を続けていくことが今の目標です。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
まだまだ未熟な私ですが、見てくれる方や応援してくれる方がいるからこそ、ここまで役者を続けてこられたのだと思います。本当に感謝してもしきれません。皆様からいただいたパワーをしっかりと力に変えて、役者として成長していたいですし、お芝居でお返しできればと思っていますので、これからも温かく見守ってもらえたら嬉しいです。
撮影=石田潤、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」