歌以外にも表現の手段があると知りました
――本格的に芸能の世界へと足を踏み入れた、小学校5、6年生の頃には、『ラブ・ネバー・ダイ』、『ファントム』と、2作のミュージカルに出演していますね。
ミュージカルは、当時の僕の中で芝居というよりも歌がメイン。“歌に感情を乗せる”という意識だったので、比較的伸び伸びやれていました。ただ、ミュージカルって稽古期間から本番まで3、4カ月間くらい同じチームで過ごすので、終わった後のロスが大きくて……。千秋楽が終わった後は、すごく寂しくなってしまいました。
――どちらの役もトリプルキャスト。同じ役を演じる同世代の仲間と現場を共にしていたんですよね。
そうなんですよ! だから余計に楽しかったし、寂しかったんだと思います。当時たくさん遊んで、たくさんケンカもしました。本当に濃い思い出です。
――また、同時期に映画『ライオン・キング』の吹き替えにも挑戦しています。声優のお仕事は、これが初めてでしょうか?
そうです。こちらも、ミュージカル映画ではあったので歌を歌えるのはすごくうれしかったですし、歌の収録に関してはいつもどおり楽しくできました。ただ、芝居となると余裕はなかったです。「とにかくちゃんとしゃべろう!」「はっきり言おう!」と、基礎中の基礎、みたいな部分に集中していました。当時はまだ子供だったので、滑舌が悪く「水飲み場」がどうしてもうまく言えず、かんでは言い直す、を繰り返したのをよく覚えています。
――では、芝居が楽しいと感じられるようになったのは、いつ頃ですか?
中学1年生の時に出演したミュージカル『NINE』です。かなり大人向けのストーリーだったので、当時の僕がこの作品の全部を理解できていたとは思いませんが、この時演じたリトル・グイドと自分を重ねた時にすごく心が動かされて。稽古の段階から、涙を流しながら歌っていたんです。それまで、演技で涙を流せる子役の方々を見て、自分には難しいと思っていたんですけど、この役で歌うとなぜか涙が出てくるんですよ。自分でも衝撃でした。
――すごい経験ですね。ここまで積み重ねたものがついに花開いたのか、リトル・グイドという役に共鳴できる何かがあったのか。
どうなんですかね。ただ、この役のおかげで別人になりきる感覚や芝居の魅力をつかめた気がしますし、一気に芝居が好きになりました。歌以外にも表現の手段があるんだと気づけた、大きなターニングポイントですね。
アニメのアフレコはデフォルメできるのが楽しいです
――そして2022年からは『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』に出演します。メインキャストとして、アニメの現場に本格的に参加することになりましたが、いかがでしたか?
当時は、声優のお仕事といえば吹き替えが中心で、一人で収録することが多かったんです。だけど、『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』は、コロナ禍ながらメインの3人(ランズベリー・アーサーさん、福島香々さん、熊谷さん)は一緒に収録していて。「僕、大丈夫かな?」「二人に合わせられるかな?」と、最初のうちは不安な気持ちでいっぱいでした。ずっと心が張り詰めていましたね。最終回辺りの収録で第1話の台本を見返してみたんですけど、台本のいろんなページのいろんなセリフに「ゆっくりゆっくり」と書かれていて。当時の自分は、それだけ焦ってセリフを発していたんだなと思いました。
――アニメは、基本的に尺が決まっていますもんね。ボールド(※1)が消えるよりも早くセリフを言い終わってはいけませんし。
(※1)ボールド……アフレコの際に映像の画面上に表示される、セリフのタイミングや長さを示す帯・枠のこと。
第1話の収録時点で、「ボールドに合わせる」といった最低限のことは習っていたんです。だけど、いざマイクの前に立つとそううまくはできないんですよ。緊張もありますし、相手とのラリーやテンポを意識しながらセリフを言わないといけないので、こんがらがってしまって……当時の自分には相当難しかったんです。周りにいるキャストの皆さんやスタッフの方々が丁寧に優しく教えてくださったおかげで、少しずつ声優として成長できました。それに、同じ生活を3年間も続けられたことが、個人的には大きな財産になっています。
――そんな充実した3年間の中で、特に成長を感じるのはどんなところですか?
一つ挙げるなら、“アニメでの声”の出し方かもしれません。僕が演じていた王道遊飛くんの声は、僕の地声がベースなんですけど、エピソードによっては声を変えていいタイミングがあったんです。たとえば、2年後、3年後の遊飛くんを演じる時とか。そういう場面で、普段の遊飛くんとは少しだけ違った声に挑戦できて、アニメーションに乗ったときに違和感のない声をつかめた気がします。
――では、この頃にはもう「これからずっと、この世界で生きていく」と決めていた?
そうですね。『NINE』と『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』に出演して、芝居の楽しさに気づくことができた中学時代で気持ちが固まったように思います。
――アニメの現場で、楽しいと感じるのはどんなときですか?
デフォルメできるところ、ですかね。舞台でもジャンルによってはデフォルメできることがありますけど、大人の方が大勢出演されるミュージカルや映像作品だと、生っぽくてリアルな芝居を求められることが多くて。でも、アニメの世界だと、自分が面白いと思う芝居を振り切ってできるのですごく楽しいなと感じています。
――フィクション性が高いからこそ、リアルかどうかを考えず思い切りできるのですね。
そうなんです。最近も、とある現場で「もっと暴れていいよ」というディレクションをいただきました。そう言われるとプレッシャーがかかりますけど、思い切った結果、笑ってもらえたらうれしいですし、自信にもつながりますね。
――では最後に、プライベートのお話も。お休みの日はどんなふうに過ごしていますか?
最近は、ギターを弾いています。高校で軽音部に入ったことを機に始めたんですけど、楽しくて! 休日は、何時間でも弾き続けてしまいます。そして気づいたら一日が終わっているみたいな。母からは心配されます(笑)。
――どんな曲を弾いているんですか?
最近のポップスをコピーしたり、作曲をしたりしています。
――曲作りもしているんですね。
はい。今はまだ趣味の範囲ですけど、作詞と作曲をやっているんです。ゆくゆくは発表できたらいいなと思って。
――いいですね。好きなミュージシャンはいるんですか?
最近はインディーズバンドが好きです。オルタナティブというジャンルのバンド中心なんですけど、ギターからシンセサイザーのような音色を出して演奏したりするのが斬新で面白いんです。今は、オルタナ系のインディーズバンドの曲を耳コピして弾いてみて、「こういう音の使い方があるんだ!」と勉強する毎日ですね。
――あらためて、本当に音楽が好きなんですね。
そうですね! これから先も、ずっと大好きだと思います。
~声優未来予想図~
1年後の私 声優・熊谷俊輝のイメージを確立させる!
「熊谷俊輝って、○○みたいな役がハマるよね!」「若手声優で○○といえば、熊谷俊輝じゃない?」と、はっきりとしたイメージをつけたいんです。そのためには、僕の存在をもっと多くの人に知ってもらいつつ、自分の強みを磨いていきたいですね。
3年後の私 トーク力を伸ばしたい!
声優はイベントや配信に出演する機会が多いので、トーク力で観てくださる人を楽しませる“芸人魂”が多少なりとも必要だと思うんです。なのに僕、全然ダメなんですよ……。数年前に比べたら100倍はマシになっているんですけど(笑)、今も緊張しちゃってうまくしゃべれません。3年後までには、レベルアップできていたらいいな……!
5年後の私 引き出しを増やし、役幅を広げる!
今は等身大の役を演じることが多いんですけど、将来的にはやったことのない役にもどんどん挑戦していきたいです。そうして場数を踏んで、技術を磨いて、芝居の引き出しを増やし、さらに役幅を広げたい! そして、ゆくゆくは声を使い分けられるような声優になって、「この役、熊谷俊輝だったの? 気づかなかった!」と思ってもらえたら最高です。
10年後の私 舞台、音楽などマルチにこなせる声優に!
声優を軸にしつつ、舞台やアーティスト活動もできていたらうれしいです。特にアーティスト活動は、物心がつく前から歌を歌っていた僕の、最初の夢。この頃には形になっているといいなと思います。それに舞台に関しても、声優として経験したことが活きると思うんです。きっと、以前とは違う感覚を味わえるんだろうなとワクワクしますね。
撮影/篠田直人 ヘアメイク/Sweets 取材・文/松本まゆげ
熊谷俊輝さん手書きプロフィール
熊谷俊輝さんコメント動画
▼動画URLはこちら
https://youtu.be/zSjh29LdyzY

















