畠中祐

畠中祐のゆっくりすくすく 第51回

畠中祐

このコラムでは畠中さんのお仕事や好きなもの、感銘を受けた作品などについて語っていきます。

今回選んだ作品は映画『罪の声』。

一時期、眠れない夜に、過去の未解決事件をネットで調べて過ごしていたことがありました。これ、余計眠れなくなるんですよ。調べれば調べるほど怖いですしね。だから、この「罪の声」の映画のもとになっていた「グリコ・森永事件」も、世代ではないのですがうっすら知っていて。その時は、派手な犯行と子供の声を使ったマスコミを煽る脅迫テープにただただ興味を持っていました。その裏に、子供達の悲しい人生があるなんて思いもせずに。

こうして消費されていったニュースの中に埋もれ隠された、3人の子供達の物語を描き出したのが、今回の映画です。

グリコ・森永事件。昭和最大の未解決事件の一つで、数々のお菓子会社を脅迫し、メディアや国民を巻き込む一大騒動となった事件。史上最大の「劇場型犯罪」として有名です。今回の作品はこの事件をモチーフに、壮大なストーリーで物語が展開されています。
この事件の脅迫テープに使われた「子供の声」に着眼点を置き、その裏で起きていた悲しい物語を、新聞記者の阿久津と、その「子供の声」の1人、テーラーを営む曽根が、当時の関係者への聞き込み調査によって紐解いていくという物語。いやぁ、聞き込みでジリジリと答えに近づいていく構成が、静かですが、非常に魅せられます。

この物語の序盤、映画を見ながらずっと「過去の事件を掘り返すことに意味があるのか」と考えてしまいました。
実際、脅迫テープで使われていた声の主人達は、当時は子供でしたが今は大人です。どこでどう暮らしているのかわらない。もしかしたら曽根のように、家族に囲まれ幸せに暮らしているかもしれない。それを壊すことになんの意味があるのかと。

でも、物語が進むにつれて、巻き込まれた子供達がいかに苦しみ、抑圧され、そして、闇に隠されていったかが描かれていきます。彼らはずっと、背負う必要のない「罪」を背負って生きることになってしまったのです。それは大人になっても彼らを苦しめ、逃げられない恐怖を抱え込ませます。重くのしかかるその罪は、彼らをどんどん暗闇へと引き摺り込みます。
この事件を掘り返していくことは、この子供達を、「罪」から解放することだったのかもしれません。

この物語の最も重要な登場人物、脅迫テープに声を使われた曽根以外の姉弟の運命が、もう本当に辛いです。夢奪われた生島望役の原菜乃花さんの演技に胸を抉られます。彼女の表情は、ものすごくリアルに迫ってきて、この作品の影の暗さをより際立たせます。

そして、弟の生島聡一郎役の宇野翔平さん、死の淵を歩いてきた人の、深い深い悲しみと混乱を纏ったお芝居に目が離せませんでした。「曽根さんは、どんな人生だったんですか?」という問いかけの重さは、子供達を巻き込み、未来を奪った犯人達の罪を、より一層深く描き出します。

犯罪に使われたたった数秒の子供達の声のテープ。どんな理由があっても巻き込んではいけなかった。子供達の未来は、欲望と、正義を謳った大人達の身勝手な行動の代償として支払われました。あまりにも酷い。だからこそ、生きてほしい、生きていてほしいという願いが、この映画には込められている気がします。

時効をすでに迎えた事件。でも今でも終わらない苦しみ。事件のその奥にいる人々の人生を、深く考えさせるそんな映画でした。これは、今夜も眠れなさそうです。

次回の「畠中祐のゆっくりすくすく」は、12月26日(土)に更新予定! お楽しみに!

畠中さんに質問!

Q:畠中さんが友達付き合いで大切にしていることは何ですか?(滋賀県・りん)

りんさん!
質問ありがとうございます!!
そうですね、一緒にいて気持ち良いやつかどうかですかね、、、感覚的な話になっちゃいますが(笑)。
でも理屈じゃなくて、フィーリングでピッタリはまるのが、友達って気がします!!!

畠中祐が今、答えます!!!

畠中さんが動画でも質問にお答えしていきます。
今回のお便りのテーマは「あなたのオススメの漫画を教えてください!」

次回のお便りのテーマは「今年一番欲しいプレゼントは?」です。まもなくクリスマス! ということで皆さんがプレゼントとしてほしいものやそれにまつわるエピソードを大募集! たくさんのおたよりをお待ちしております!

畠中さんへの質問&お便りを大募集!


    はたなかたすく
    8月17日生まれ。神奈川県出身。賢プロダクション所属。主な出演作はアニメ『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』(永見祐)、『バジリスク ~桜花忍法帖~』(甲賀八郎)、『ダイヤのA ActⅡ』(浅田浩文)、『うしおととら』(蒼月潮)、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(香賀美タイガ)ほか。