【インタビュー】シンジくんを、ものすごく思いたかった――林原めぐみ「終結の槍/終結のはじまり」

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の映像を搭載した『ぱちんこ シン・エヴァンゲリオン』のテーマソング「終結の槍/終結のはじまり」をリリースした林原めぐみ。声優グランプリ誌上でのインタビューでは収まりきらなかった、作品のことに留まらないディープな話を余すことなくお届けする。

ドラムくんの声をあれだけ録るのは想定外でした

――今年の夏は日曜劇場『VIVANT』のドラムの翻訳アプリの声をよく耳にしました。ドラマのセリフ分だけでなく、ドラムさんがバラエティやイベントに出演するたびに録っていたんですよね?

そうなんです。TBSさんがまとめて録れるようにしてくださったんですけど、この番組用、あのイベント用……という感じで「今日は1日ドラムの収録日」という感じになっていました。

――そこまでの広がりは想定外でした?

想定外でしたね。役者さんたちのモンゴルロケが3月からだったのかな。ドラムくんの声は1月頃に録っていて、現場で皆さんは私の声を聞いて演じていたらしいです。だから、私の仕事はもう終わっていましたけど、放送が始まったら、バタバタと火がついて。

――ドラマが大ヒットして、今までの声優仕事とはまた違う反響があったのでは?

私のスタンスはまるっきり変わりません。ただ一時ザワザワして、台風のようなものが過ぎていった感じですかね。以前も『世にも奇妙な物語』で、電話だけかかって来て会えない女の人の声をやりましたし、ドラマでも外画でも、ヒットしてもしなくても、モチベーションは一緒。ただ、今回はナレーションでも呼ばれたのは意外でしたね。

――合成音声は「#ボクノユビサキ」でも取り組まれていました。

そういう声は、前から趣味みたいに面白がっていて。Siriとアレクサとグーグルだと、アレクサがいちばん優しいな、とか思っていました(笑)。実は5年くらい前にも、AIの声をやったドラマがあったんですけど、お蔵入りになって。それがオンエアされていたら、そのイメージが付いて、ドラムの声はできなかったかもしれません。いろいろな偶然が重なりました。

 

宇部の駅で馴染めてないのも通称・黒レイなんです

――「終結の槍/終結のはじまり」のジャケット写真は、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のラストシーンのイメージモデルとなった宇部新川駅で撮影。

前回の「集結の果てに」のジャケットを撮った時に、決めていました。髪を吊ってゴジラやキングギドラも入れて、軍神みたいになって……。ここまで作り込んだなら、次は自然の中がいいなと。その時点で「今度はじゃあ、宇部に行こう」と冗談半分で言ったのが叶いました。

――通称・黒レイちゃんを思わせる装いで。

このジャケットって、白の子だけでも成り立つんです。あのシーンの再現なんだなと。そういう意味では黒レイがここにいるのはおかしいし、この駅であの格好も変(笑)。でも、その馴染めなさも黒レイちゃんかなって。第3村で人にも空間にも馴染もうとして、赤ちゃんを見て心が動いたり、畑のおばさんに癒やされたりしたけど、最終的にずっとプラグスーツ。馴染めはしなかった。そんな違和感を表現しています。

――黒レイは愛おしさを感じるキャラクターでした?

終わってからね。演じている最中は自分が黒レイちゃんとシンクロしているから、愛おしいまでは思えていなくて。自分が愛おしいものをいっぱい見つけて、ちょっとずつ幸せになって、最後に消滅……ということでビックリでした。

――綾波レイを演じるときとはアプローチは違ったんですか?

聞いていてもわからないとは思いますけど、全然違うんです。おそらく庵野(秀明)さん(総監督)の中で明確に違う。ただのコピーではない。黒レイはこう、という指示に沿う形でした。

――でも、庵野総監督のドキュメンタリーでチラッと出ていたところを見た限りでは、指示自体は明確な言い方ではないような……。

それを汲むんです。だから、みんな力が付きます。求められたことと違っていたら、何本ノックしたって意味がない。「私の全力を受け取ってください」と肩が外れようが無意味。関係ない。全力が欲しいわけでなくて、欲しいものが欲しいの(笑)。

――アスカのセリフで「綾波タイプはシンジに好意を抱くように設計されている」とありました。そこは意識していたんですか?

ううん、してない。客観的に見たら入れてもいいけど、プログラムと聞いたからって知ったことじゃない。湧いてくるものは仕方ない。そのプログラムは何かというと、ユイさんなのだろうと思っています。シンジを愛する母の気持ちが投影されているだけではないかなぁと。いわば、元も自分だから、同じという感じですかね。

 

無意識の目線が『エヴァ』では入ってきます

――「終結の槍」の詞は、「残酷な天使のテーゼ」の詞を分断して、言葉を組み込んでいったとのことでした。

始まりがあるから終わりがある、ということで。あの屈指の名曲に報いたいという気持ちが大きかったです。新劇場版しか観てない人もいるし、カラオケで「神話になーれ」と叫んで盛り上がっても、歌詞をちゃんと聴いてなかったという人もいるかもしれない。そういう人たちがたくさんいる中で、あえて、言葉を味わってもらうのも、アリかなと思いました。

――「残酷な天使のテーゼ」を作詞した及川眠子さんは、母親の心情を書いたと発言されていますが、「終結の槍」にはそういう目線は入らなかった感じですか?

無意識のうちに「母でなければ、この言葉は出てこなかった」ということはあるかもしれません。その辺が『エヴァ』って本当にわからないんです。レイちゃんも黒レイちゃんもいる。テレビシリーズのレイちゃんもいれば、ユイさんも初号機もいる。何なら、取り込まれたときの使徒もちょっといる。自分の中に視点がすごくいっぱいあって。たとえば使徒の目線で書くのは無理でも、その目線があるから、これを客観的に見られる、といったことはあったりします。

――それが図らずも滲み出ると。

そうです。この苦しみって……あっ、黒レイちゃんのときのだ! とか。幼いシンジを抱いていたのはユイさんでも、それは誰かの回想であって、ユイさん自身の目線ではなかったり、夢を見ているような状態? いろいろな部屋を渡り歩いている夢を一つにする作業が、『エヴァ』ではいつもあって。自分のアルバム用に詞を書くのとは、全然違う感じです。

――「終結のはじまり」の詞は、『シン・エヴァ』のシーンやキャラクターが浮かぶように書かれたそうですが、「君を君を君を」と繰り返すところがあります。

シンジくんを、ものすごく思いたかったんです。私の中で『エヴァ』は、シンジくんがたくさんのものを背負わなければならなかったばかりに、大変だったというお話だと感じています。シンジくんが、ちゃんとすべてに落とし前をつける。そこを大事にしたかったかな。何でもいいから行きなさい。あなたが決めたとおりでいいんです、という。

――これで『エヴァ』との関わりはすべて「終結」となりますか?

どうなんですかね。今後もコラボで呼ばれたり、副産物はいろいろ出てくるでしょうから。それを願っているわけでも、匂わせているわけでもないけど、たとえば庵野総監督以外の誰かがキャラクターのスピンオフを作るかもしれない。現時点では誰にもわからないと思います。

 

SNS全盛期ならフルボッコだったでしょうね(笑)

――ブログにも書かれていましたが、今年は『魔神英雄伝ワタル』35周年、『カウボーイビバップ』25周年とか、アニバーサリーに関わることが多かったようですね。

5周年、10周年だとクラス会くらいな気持ちでしたけど、25周年、35周年となると、もう歴史。そんな前にデビューできた自分が、どれだけラッキーだったか。SNS全盛期なら、私はたぶんフルボッコになっていたと思うんです(笑)。言いたいことをバンバン言いすぎて、日々炎上みたいな。

――『らんま1/2』のイベントで、お客さんと喧嘩したり(笑)。

そう。本当に生意気でしたから。自分が思ったことを言っただけでも、今の時代は正直が暴力になってしまう。ラジオで「SNS断ちを2年していたら、自分がどこにいるのかわからなくなった」というおたよりを読みましたけど、私はそんな感覚も味わったことがなくて。どこにいるか…?なんて、考えても見たこともないです。ただ物理的に家か、学校か、職場にいるぐらいの感覚。ただ、今はオシャンティなスポットとか、どこでデートしているとか、知らない誰かに、お知らせする場所がありすぎる。挙句に自分の居場所がわからなくなるって、なに暇な哲学者みたいなことを言ってるの?となりますけど(笑)、それが今の20代の当たり前…なのかもしれない。私はそういうものがなかった時代に育ったから、携帯がなければないで何とかできる。そんな細胞が自分の中にあるけど、今は、便利だけど、しんどい時代なのかもしれないなあと思いますね。

――『ウルトラセブン』の55周年にも、ナレーションで関わられました。

ありがたいことです。私は出ていませんけど『シン・ウルトラマン』や『シン・ゴジラ』で、庵野さんが特撮と太いパイプを作ったおこぼれみたいなものだと、私は思っています。

――イメージが作品経由でつながって。

『エヴァ』でも『ワタル』とかでも全部、やった仕事が次の仕事へのご縁になるという道を歩いてきました。SNSのフォロワー数が多くてキャスティングされるのもうれしいだろうけど、だったらいつの日か、フォロワー数が減った後どうなるのか…。チャンスと恐怖を同時にもらうことになりますよね。

――自分自身より数字を見られていると。

いろいろありすぎるとブレちゃうけど、“自分は自分”みたいなことを最終的に歌でもラジオでも伝えていけたらと思います。そういう意味では、どうしようもないところまで落ち込んだシンジくんも、最後にはちゃんと自分を見つめて、父親も乗り越えていくという、非常に大きな人間のテーマが描かれていて。ブレても戻れる場所があると、しっかり言えたらいいですよね。発信側がブレると、リスナーもブレてしまう。常に「大丈夫、大丈夫!」と言っているおばあちゃんになっていこうと思います(笑)。

 

今後の人生は掃除や料理にエネルギーを注ごうと

――林原さんは「レジェンド声優」と言われることが多いですよね。

その言葉は、野沢雅子さんや羽佐間道夫さんや田中真弓さんくらいにしか使わないでほしい(笑)。でも、私や山寺(宏一)さんも言われたりしますよね。きっと若い人たちには括りやすいんでしょうね。

――レジェンドというとなんだか殿堂入りみたいな語感ですが、林原さんは今回のような歌手活動も含め、変わらず第一線の現役で。

私はずーっと同じところにいる気がします。仕事の種類が変わるだけ。いろいろチャンスは頂いても、やっぱりそんなにたくさんは表に出たくなくて。もう声優だ、俳優だ、アイドルだ、Vチューバーだと分ける時代でもないし、山ちゃんのモノマネだったり、個々にやりたいことをすればいい。でも、私は特に何かやりたい、やりとげたい!とはもともと思っていなくて。ずっと、ただただ目の前にあるものを頑張っている感じです。成長しているのか衰退しているのか、何をもって成長というのかもわかりません。

――今でも何かと闘っている感覚はありますか?

闘うという表現でなくて、追究するに変わりました。わからないことをどうしたらいいか。ただ、昔は仕事の中に溺れている自分も、疲れながらも邁進している感じで好きでしたけど、それは楽しくなくなりました。1個1個をより大事にしたい。ここから先の人生、掃除や料理にもうちょっとエネルギーを注ごうかなと(笑)。今も毎日やっていますけど、相変わらず掃除はへたくそなので。

――レジェンド声優が頑張ることは家事でしたか(笑)。

モデルルームみたいな部屋に住みたいけど、ダメなんです。モノがいっぱいになってしまう。おいしそうな調味料を見つけるとすぐ買って、何でこんなにたくさんあるんだろうと思ったり(笑)。冷蔵庫を開けるとガラガラと落ちてきて、ダンナさんに「いい加減にしてください!」と怒られる。そんな日々の繰り返しです(笑)。

 

『ぱちんこ シン・エヴァンゲリオン』テーマソングのマキシシングル「終結の槍/終結のはじまり」はキングレコードより1,430円(税込)で発売中。パチンコ新機種には興行収入102.8 億円を突破した『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の映像を初めて搭載。その世界観を盛り上げるべく、2曲が書き下ろされた。共に自身の作詞。作・編曲はたかはしごう。「集結の園へ」「集結の運命」「集結の果てに」に続く『エヴァンゲリオン』のパチンコの楽曲で、「集結」シリーズが「終結」として完結となる。

取材・文/斉藤貴志

 

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