【声グラ独占】終わりは新しいことの始まり――林原めぐみ2024年年末スペシャルインタビュー!

【声グラ独占】終わりは新しいことの始まり――林原めぐみ2024年年末スペシャルインタビュー!

1年ぶりのニューシングル「Gathering」をリリースした林原めぐみさん。話題を呼ぶパチンコの新機種『P ゴジラ対エヴァンゲリオン セカンドインパクト G』のテーマ曲だ。同作についてのインタビューを2024年12月10日(火)発売の「声優グランプリ」1月号本誌に掲載したが、取材はより多岐にわたる話題に及んだ。一線に立ち続けるレジェンドの人生論、現代社会論にまで至る含蓄のある話をお届けする。

知ったつもりで、直接触れたら全然違う

――2024年は韓国、イギリス、アブダブと、公私でたびたび海外に行かれていましたね。

海外では良くも悪くも、自分のいる世界の圧倒的な狭さを痛感しました。ちょっと扉が開いたなと思います。私、すごくYouTubeを観るんです。おかしいんじゃないかというくらい。目的は、面白さが半分、それから今キテるものを知る勉強が半分。(『ポケットモンスター』の)ニャオハの研究のつもりが、いつの間にか猫の動画ばかり観ていたり(笑)。それで、動画で猫のことをいろいろ知ったつもりになっても、友達の家で飼っている猫に直接触れたら、やはり本物の良さはけた違い。温度感から何から。イギリスへの飛行機も空港も事前に調べてすごくシミュレーションして行きましたけど、やっぱり行ってみればすったもんだはあります。そこをどう乗り切るかを含め、経験のないところに自分を置くということは、多少ストレスではあるけど、同時に最高の癒やしもあるなと。情報を取り入れていた気になりながら、こんなこともあんなことも知らなかった、と。でも、知らないことがあるから、また知りたいから、自分が枯渇しないんだと思うんですよね。

――海外でそういう体感を得るのは、若者の特権みたいにも言われますが。

どうなんだろう。若いかどうかで決めてしまう社会に、問題がある気がします。お元気なおじいちゃんおばあちゃんは、ずっと散歩していますよね。一方で、銀行でATMからお金が出てこないと怒鳴っているおじいちゃんは、気持ちはわかるけど、怒鳴っても解決はしないわけで、理解の範疇を自分の時代で止めてしまっているんじゃないかなと。私も問い合わせの電話をして、機械音声で「1番を押してください。4番を押してください」とたらい回しにされた挙げ句「ホームページをご確認ください。ブーッ」と切れたりすると「昭和、帰ってこい!」と思います(笑)。でも、そうも言っていられない世の中、流れについていくことを諦めたら、ただ怒る人になってしまうので。

――コロナ禍が収まったら円安になって、海外旅行の出費はかさみますが、林原さんには関係ないですかね。

魂は、金銭的なものでは変わらないかもしれません。仮にお金で困窮していたとしても、私は格安航空券を買ってでも、今回は行ったと思います。ロンドン塔が舞台の朗読劇『Mr.Prisoner』の再々演が決まって、その前に休める期間が得られたら、私という人間は、どう乗り継ぎをしようが、現地の滞在が1日でロンドン塔しか見られなかろうが、たぶん、現地に行っていました。実際はこれだけお仕事をしてきた自分へのご褒美も込めて、少し長く宿泊しましたけど。

多様性という言葉だけがひとり歩きしていて

――「Gathering」には「抗う事すら許されない追い込まれた選択」というフレーズがあります。そんな選択を強いられたことは、林原さんの人生にもありましたか?

最初、声優なのに人前に出ることになったり、グラビア雑誌が刊行されたり、歌のレコーディングをすることになった時は「おかしいな」と思っていました(笑)。ただやったらやったで、頑なに拒むほどのことではなく、その向こうに一生ものの出会いもありました。全部が全部そうとは言い難いですけど「声優は裏方」とも言っていられない時代になって。でも、表に出ていくことには弊害もあって、紙一重。それで言うと、アニメ『らんま1/2』の新作が始まってエゴサしてみたら、90%の「良かった」の中で「声優の声の衰えを感じる。もう観ない」と言っている人がいたんです。かわいそうだなと思いました。

――というのは?

私自身は、発信する側で台風の目にいるので、振り回されることはありません。でも、その人は私の年齢を知らなかったら『らんま』をフラットに観れていたかもしれない。観れば絶対に楽しい作品なのに、その楽しい時間を、私という声優が表に出ることで、寸断したんだなと思って。

――「声優を変えないでくれてありがとう」という声が大半ではありました。

人数の問題でなく、私の情報一つで何かを曇らせることもある。それで「ごめんね」と。今の『らんま』もこんなに面白いので、昔のと両方楽しめばいいのに。せっかく新しいお楽しみが1コ降ってきたのに、それを観られないのはかわいそうに……と思ってしまうんです。

――今の若い人たちにも「追い込まれた選択」はあるように感じますか?

受験生とかもそうだと思います。話が飛びますけど、オンラインの高校のCMが流れていたり、レールから外れることを容認したふりをしながら、容認してないのが日本の社会だと思うんです。戦後に統制を取るために必要な生き方だったにせよ、今はジェンダーを含め多様性を打ち出しながら、言葉だけが一人歩きしていて。制服と校則でさんざん縛っておいて、卒業した途端に「君の個性は?」と言われても、「どうすればいいんだ?」と。そういう若者の存在は、10年も20年も前から感じていました。かと言って、「好き勝手やっていい」とも違いますけど、個性を個性と認められない生き方には限界が来ているのかなと思います。

年を取った自分を愛おしく思ってます

――年末年始も海外に行くんですか?

行く予定はないです。もうおせちも頼みましたから、ゆっくりするつもりです。

――おせち料理はどんなものを頼んだのですか?

毎年相方に任せています。買うのとは別に、自分でも作るというか詰めるというか「好きなものだけ重」というのもあるんです(笑)。おせちって、そんなに味が好きでじゃないものも入っていて、縁起ものだからと食べるものもありますよね。だから、自分で好きなものだけ重を作ります。筑前煮とか、だし巻きでない甘い玉子焼きとかを入れるんです。

――新年に向けて、想いを新たにしたりも?

最近、犬と一緒に田舎暮らしをしている60過ぎの女性のYouTube動画を、流しっぱなしにしています。冬に向けて瓶詰めやペーストの食べ物を作ったりしながら、1日を過ごす生活。それがずっと傍らのビジョンに映っているので、妄想はし続けています。

――自分もそういう生活をしたい、ということですか?

願えば叶うと思っています。60歳なのか70歳なのか、そんなに遠くないうちに、そうしているかもしれません。私にとっては、今の時代の移り変わりがだいぶ速くて。好きだったゲームがいつの間にか、オワコンと言われていたり、しばらく前まではブログで大人気の人たちがいたけど、もうブログは長いから読まない、とか。私はできれば、種を撒いて双葉が出て、花が咲かない年もあって次の年は咲いて、また種を落として……というのを眺めていたい人なんです。バラが咲いてチョンと切って、花瓶に飾って、枯れたら飽きて次の花……というのは、どうにも体に合わなくて。

――地方で農業をやったりしながら、芸能活動をする女優さんなどもいますよね。

単純に年を取ったんだと思います。でも、その年を取った自分を愛おしく思っています。今のいろいろ牽引してきたつもりになっているのも奢りですけど、後ろに回って支えるほうに完全にシフトチェンジして、受け皿でいる60歳を目指す感じですかね。「林原は終わりだ」と言うならそのとおり。でも、終わりは新しいことの始まりだから。人を勝手に「終わり」にしたり、思ったことを正直に投じる世の中は素敵なのか。嘆いている人や追い込まれている人もいるのを、申し訳ないけど高いところから眺めていて、どうしたものかなと思います。でも、時代の流れはどうすることもできないので。私はイチ抜けた、って感じ。みんなが手をつないで、グルグルすごく速く回っていて、ポーンと放り出された子は「痛ててて……」となっていますけど、私はもうグルグルの中にいません。

――いつまでもガツガツは行かないと。

もともとガツガツしてなくて、演じるキャラが強いからそう見えていただけです(笑)。

――林原さんは昔から「駄菓子屋のおばあちゃんになりたい」と話されていましたが、もう駄菓子屋自体、見なくなりましたね。

チェーン店とかはあるけどねえ。うまい棒100本とか、ネットでポチッと買えちゃうし。でも、そういうことをたくさん経験したあと、ふと手作りのものを買いたい、聴きたいとなったとき「まだいるよ」くらいの立ち位置がいいかな。たくさんテレビに出たり、メディアで発信していると、目立ってスポットが当たるけど、その裏で不安を抱えたりする人もいる。そしてまた、そういう人に陰りが出た瞬間、世の中が一斉に叩いたりする。叩くほうも自分の手が痛いのに気づかない。その人の中では正義でピュアでも、残念だなと思います。

便利さにはしっぺ返しが来ますから

――あれこれありつつ、来年はアニメ『LAZARUS ラザロ』も始まりますし、林原さんはまだまだ各所から求められそうです。

もうちょっといろいろ勉強したいと思っています。さっきも言いましたけど、世界に行ったら知らないことがいっぱいあって。ロンドン塔だけでも、どんなところか調べたつもりで、深掘りしたらまだまだ知りませんでした。イギリスにはブルーバッジガイドという政府公認の観光ガイドの資格があるんです。取ったら一生ものではなく、常に新しい情報を勉強されていて。それでサービス業として特化している方たちに、何だか感動してしまいました。私はどれくらい自分をアップデートしているんだろう。知らないことを知らないままにしているのはまずいなと。苦手があるのは仕方ないし、無理に勉強しなくてもいいけど、そんなふうに心が豊かな自分でありたいです。

――具体的に勉強したいこともあるんですか?

キリがありません(笑)。この前は第一次世界大戦のことを、ちょっとだけ勉強しました。第二次世界大戦はある程度知っていましたけど、どうして第一次が起こって、二次へのうねりを止められなかったのか。何も知らなかったし、学校でもあまり習いませんでした。それを勉強して何になる?ということでなく、結局いろいろな歴史をなぞらえてますから。

――何かの作品絡みで興味を持ったんですか?

テレビで第一次大戦の特番を観たんです。何が発端で、第二次の前に日本は何をしてきたのか、知らないことだらけで。日々のニュースもわからないままにしていたり、こういう仕事だから関係ないと思っていた自分もいました。でも、たとえば『進撃の巨人』にしても、いろいろな歴史をわかったうえで観たら、見方も変わると思うんです。これは人類の歴史のオマージュだ、みたいなことを深掘りできて。結果、自分の揺るぎない支えになっていくように感じます。

――ただ物知りになるのが目的ではなくて。

私も大人になったんだと思います。遅いですよね(笑)。子供であろうとしていた、と言うと語弊がありますけど、空想の世界を生きることに徹底する自分を美化していたかもしれません。還暦に向かって、いつまでもテヘペロでいられないこともやっと自覚しました。私生活はテヘペロだらけですけどね(笑)。相変わらず忘れ物が多かったり。同じ年代の人たちと対等に話せる知識は持っていたいと思いつつ、まだチャットGPTとは向き合えていません。もう怖すぎて!

――合成音声で声優さんそっくりにもできるようですね。

それより、まず何者なのか。チャットGPTを使って論文を書いたりする人もいるわけでしょう? 何がその人の力になるのか。昭和魂だと、自分で考えて練って編み出した答えではないのに、マルをもらうことはズル?と思ってしまう。もしかしたら、その考えこそ古いのかもしれませんけど、それだとAIを使いこなしているつもりで、AIに使われている人間になっている。結局はエンタメの世界の思考にも跳ね返ってくるんですよね。

――便利なだけで止まらずに。

チャットGPTと向き合うことなんて、言ってみれば私にはリアルなSF。その覚悟がまだ揺らいでいます。ボカロとは対峙して曲にもしてみて、得た答えもありました。心より先にダイレクトに脳へのアプローチが凄いなあとか。

――「#ボクノユビサキ」ですね。

便利さを得ることは、失うことでもあると思うんです。ある日突然、GoogleさんやAppleさんから「月会費4000円にします」と言われたとしても、もう手放せないでしょう? 辞書を開いたことのない世代は、お金がなければ調べる手段を失う。ナビ無しで地図だけではもう運転も難しい。隕石で人工衛星がバーンとなって、検索も何もできなくなったら、大パニックじゃないですか。SFみたいな話で、誰もそんな想像はしませんけど、便利さのために考えないように、目をつぶっているところもあって。そこで耳が痛いことも含めて問いかけるおばあちゃんになりたいかな。人間ネットが無くても生きて来ましたし。

 

取材・文/斉藤貴志

『P ゴジラ対エヴァンゲリオン セカンドインパクト G』テーマソングのマキシシングル「Gathering」はキングレコードより12月18日に発売。キングギドラをしのぐカイザーギドラが襲来してエヴァンゲリオン、ゴジラが迎え撃つストーリーを盛り上げるオリジナル楽曲。カップリングにもその世界観をイメージした「Children ~はじまりの明日へ~」を収録。共に自身の作詞。作・編曲はたかはしごう。店舗別特典には本人直筆の楽曲歌詞がちりばめられている。

▼「Gathering」インタビュー記事が掲載された『声優グランプリ』1月号はこちら!▼

声優グランプリ 2025年1月号