【声優道】草尾毅さん「技術だけの声優がぶち当たる壁」

声優事務所に所属したのに、声の仕事が来ない!

僕は青二塾を卒業して、青二プロダクションにジュニア所属という形で3年くらい、その後2年くらい準所属を続けてから、やっと正式所属になったんです。ただ、プロダクションに所属できたからといって仕事が来るわけじゃないし、下手をすると一生バイト生活なんです。だから僕は、どこで見切りをつけようか、どこでタレントにシフトしようかと考えてました。当時はジュニア所属になってもまったく仕事が来ないのが普通で、2年目になるときに優秀な人だけオーディションの話が来て、そのオーディションで制作スタッフさんの目に留まれば「村人A」とかガヤ(※1)で使ってもらえる、そんな時代でした。

僕の初仕事はジュニア所属になってから2カ月ほどたった6月。指定された場所に朝6時に行ってみたら、同期のジュニア全員やほかの事務所の若手など100人くらい集まっているんです。そこからマイクロバスに乗せられて廃工場に連れて行かれて、『赤い眼鏡』というVシネマのエキストラで死体役をやりました。実際の撮影は5分くらいなんですが、出番が来たのは夕方でした。ガレキとか折れ釘とかがあって、こんなところにうっかり寝そべったらケガしそうっていう状況で、「皆さん死体ですから絶対に動かないでください」と言われて5分間。翌日も同じ現場で、今度は死体になる直前のシーン。それが僕の初仕事でした。

その後にもらったのが、着ぐるみ人形劇団こぐま座(※2)さんのお仕事でした。劇団員さんから手ぬぐいの巻き方、着ぐるみの着方、使った後の片づけ方を教わり、録音されたテープに合わせてのフリの稽古をして、翌日から各地の幼稚園でショーを見せるという仕事が始まりました。僕が最初に入ったのは鹿の後ろ足だったんですが、周囲も見えない真っ暗な中で前足の人にしがみついて歩くというハードなもの。その次にもらった役が『ヘンゼルとグレーテル』の馬の後ろ足でした。

それから、遊園地のマスコットキャラクターとかショーのメインキャラクターのお友達とか、いろいろな着ぐるみの経験を積んで、ついには司会のお兄さん役にまでのぼり詰めましたよ。温泉施設の大広間でショーをやったときは、幕が開いてみたらお客さんが誰もいないんです。どうするんだ?と思ったんですが、何となく始まってしまったので、そのまま予定どおりに続けていたんです。それで最後まで誰一人見てないところでショーをやりました。本当に経験値が上がりましたね。暑いしハードなお仕事だったんですが、楽しかったし、すごくいい勉強をさせてもらったと今では感謝しています。

着ぐるみの仕事では、テレビ東京系で放映していた『タックス君の税Q&A』という5分番組で、タックス君というロボットの中にも入りました。ところがそのロボットがものすごく頑丈で、総重量が20キロ以上あるんです。しかもテレビ東京さんもそういう番組を作るのが初めてだったので、撮影チームも何をどうしていいかわからない状態。なので、タックス君の動きも全部僕が考えて「こっちから画面に入ってきて、こう動きますね」みたいに演じていました。2時間くらい飲まず食わずで中に入っていて、死にそうになったこともありましたね。今でも「僕がいちばんうまくタックス君を動かせるんだ」くらいに思っています(笑)。

そんな生活を1年ほど続けながら、「声の事務所に入ったはずなのに、いつまで着ぐるみの仕事を続けるんだろう」と思っていました。

※1:アニメーションや洋画のアフレコの際に、「その他大勢」として声をあてること、またはその音声のこと

※2:1969年に創立されたぬいぐるみ人形劇団。全国の幼稚園などのミニ公演から劇場まで幅広く活動している

メインキャラクターに抜擢されるも 右も左もわからない日々……

ジュニア所属になって半年くらいした頃に、劇場アニメ『AKIRA』のオーディションがあったんです。それを受けたら何と、主人公の友人・甲斐役をいただくことができました。ジュニア所属の駆け出しが役をとるなんてものすごい快挙だったんですけど、『AKIRA』がプレスコ作品(※3)で1年半くらいかけて録音していたことと、録音と並行して着ぐるみの仕事を続けていたこともあって、快挙なはずがうやむやになっちゃいました(笑)。

同じ年の秋に『JUNK BOY』というOVAのオーディションがあって、僕が何と主人公役に大抜擢されたんですが、それも本当に前代未聞の快挙だったんですよ。当時の人気声優といえば劇団出身で演技経験が豊富な人がほとんどだったので、僕のような養成所出身者は「演技のエの字も知らないひよっ子」みたいに思われていたんです。それが主役をとったということで、僕としては拍手喝采の気分ですよね。ところが事務所に台本を受け取りに行ったら担当デスクに呼ばれて、「先輩を差し置いていちばん最初に名前が書いてあるって、どういうことかわかるよね。しくじったらタダじゃおかないから」って言うんですよ(笑)。もう「頑張ります」って言うしかないじゃないですか。新人の扱いなんてそのくらい厳しい時代だったんです。

その後、翌年の4月から放映されるTVアニメ『鎧伝サムライトルーパー』のオーディションで主人公に選んでいただきました。今でこそ新人がレギュラーで現場に入るとなると、マネージャーが喜々として毎週付いてきてくださるんですが、『鎧伝サムライトルーパー』では青二から出演しているのが僕一人ということもあって、マネージャーが来たのは第1話と、同じ事務所の先輩がゲスト出演した回だけでした。右も左もわからないジュニア所属の小僧が、ほかの事務所の諸先輩方の中に放り込まれて、毎週どうしようという状態でした。どう立ち回って、どう対処して、どう芝居したらいいのか全部自分で考えなきゃいけませんでした。

※3:prescoring作品の略で、セリフを先行して収録する手法の作品