自分の得意技はあったほうがいい
でも、別の技ももっているかどうかが大事
ちょっとだけ、辛口で言わせてもらおうかな(笑)。今、声優が活躍する場って、映画やアニメだけじゃなくて、OVAもあればゲームもあるし、ラジオも電波以外のインターネットラジオがあるし、それにパチンコだって声優が必要でしょう。それこそいっぱいあるんですよ。こうしたなかで、「このキャラは、この声優しかいない」といわれる声優が、どのくらいいるかというと、少ないんですよ。もちろんそれは、自称・器用貧乏な僕も含めての話なんだけど(笑)。もちろん、声優ファンにとっては、「このキャラはやっぱり……」という見方もあると思う。でもね、普通に見ている人にとって、そこまでじゃない。かつてのアテレコ創世記を支えてくださった先輩方のなかには、個性的な声をもつ声優はたくさんいたと思う。外国映画の俳優を見た瞬間、心の中に声が聴こえるような声優、と言えばいいかな。そういう声優が少なくなった理由は、いろいろあると思う。誰にもマネができないほど個性的な声の持ち主なんてめったにいない。いや、もしかしたらいるかもしれないけど、その個性的な声が求められるかどうかは、別の話なんですよ。この場合の「声」って、もちろん声質だけじゃなくて、演技力、表現力も含めての意味ですけどね。
それにね、たとえ個性的な声だとしても、それだけで勝負できるほど、甘い世界じゃないんです。自分の得意技はあったほうがいい。でも、別の技ももってるかどうかが大事なんです。たとえば「ありがとう」という言葉を言うときに、声の高低、質感はもちろん、微妙なニュアンスを含めれば100万通りだってある。でも、100万通りできるようになれという意味ではなくてね、そのうち、ものにできたのは何通りあって、なかでも得意技はどれかというくらいの気持ちは必要なんですよ。
そのためにも、声優になりたいのなら、自分はどんな声をもっているのか、どんな表現ができるのか、自分の声に興味をもって、幅を広げていってほしい。あと、やっぱり声量は大事ですよ。声優にとって声量は、車にたとえると排気量みたいなものでね、排気量が大きい車はスピードも楽に出せるけど、ゆっくり走っても快適に乗れる。つまり、声が大きい、声量があるというのは、幅を広げる意味でも、声優にとって武器になると考えてください。
声優の世界は実力主義
声がダメだと100%選ばれない
僕がプロとして、一つだけ自信をもって言えるのは、声優という仕事の世界はすごくクリーンだということです。声優としての実力さえあれば、たとえ年齢が若かったとしても、その実力はきちんと評価してもらえる世界。声優としての力がないのに、誰かの後押しだけでキャスティングされるなんて理不尽なことがない、いや、あってはならない、本来の意味での実力主義で動いているはずなんです。
いや、でも、声優ってね、受け身の仕事なんですよ。制作サイドが僕たちを選び、僕たちは選ばれて仕事をする立場。だからキャスティングされるには、さまざまな要因があって、人間性がいいってのもそうだし、場が盛り上がるとかね。演出家と気が合うのも大事。ただ、そこも含めてプロの声優の実力ではあるけれど、声がダメだと、100%選ばれない。最も重要視されるのは、やっぱり演技力なんですよ。声優の仕事は、これからも声という実力が評価されると思う。だからこそ、自分の声を良く知って、どういう道を選べばベストなのか、最善の入り口を見つけ出してほしいと思ってます!