どんな仕事でも〝やり合うこと〟が大事
アフレコ現場でセリフを読んで「(尺が)余るんですけど……足りないんですけど……」っていう人がよくいるけど、あれはおかしい。そういう作業は声優が考えるべきだと思うんだ。僕は削る部分も全部自分でやっちゃうからね。それができて初めてプロだといえるのではないか。自分で処理できないのはセミプロレベルかな……。そこで「勝手にやったらマズい」と思うような人には、画面をぶち破るような表現や、度胆を抜くような芝居は金輪際できないと思う。
僕は、自分の表現する背中を見てもらって、もっと若い後輩たちが食らいついてくるかと思ってたんだけど、まったくついてこないんだよね(笑)。みんな〝いい子〟の枠組みに収まっていて、現場でもやり合わなくなってきている。何でも「ディレクターさんの言うとおり」で、「何か余計なことを言ったら干される」とでも思ってるんだろうか……。でもやっぱり、若い人は若いなりに自分の表現についてはパフォーマンス上主張すべきことはどんどん提案してみたり、お互いにバンバン言い合って、良き作品に仕上げていかないとね。昔は、先輩方がバトルしてたんだよね。たとえば『ルパン三世』の山田康雄さんや納谷悟朗さんは、現場で線画しかできていない状態だと「画面もできていないんじゃ、いいものは作れない!」って怒って帰っちゃったり(笑)。僕なんかもコマーシャルの現場でクライアントの人がいたとしても、こうだと思ったことは言うようにしている。そうやって角を突き合わせていくうちに深まってきて、納得できるような作品になってくる。どんな仕事でもそういうものなんじゃないかな? 通り一辺で仕上がったものは〝出来〟もそれだけの次元でしかない。どうせ演るなら血が噴き出るようなパフォーマンスでありたい!
声優道とは、けもの道
自分で切り拓いて作るもの
今これを読んでいるみんなもそうだけど、誰でも声は出るし、日本語も話せるよね。だからイコールそこそこ努力すれば、セリフもナレーションもできる、声優になれる、ような気がしちゃうんだけど、そこに大きな落とし穴がある。運よく事務所に入れたとしても、一向に仕事のオファーの来ない人もいる。それは、オファーする側から見れば使いモノにならないから、なんだよね。じゃあ何が必要かというと、まずはリクエストに応えられる「声優としての体作り」。それがあって、初めてクライアントが興味をもってくれて、仕事のオファーが入ってくる。だから、そういう体レベルに引き上げていくための日常の鍛錬が重要なんだ。ボイストレーニングのメソッドでは古今東西の歌をギターなんかの伴奏で歌ったりするのも声を鍛える有効な方法だし……ほかにも自分流に創意工夫しながら〝体を鍛え、声を鍛え込んでゆく〟修練を日々重ねてほしい。
声優学校を出て、プロダクションに入って、みんなで肩を並べながら進んで行くっていうのは、舗装道路をバスで行くようなもの。みんなで渡れば怖くないみたいな……。本当にこの世界で生きていこうと思ったら、バスを途中下車して自分独りで道を造っていかなきゃ、頂近くまでは行けないんだよ。みんなと同じことをやっていたら、みんなと同じようなところまでしか行けない。たまたま素質があれば、まぁ6合目くらいのところまでは行けるだろうが……そこから先にはたどり着けないんだよね。
だから〝声優道〟というものがもしあるとするならば、けもの道を自分でナタで切り拓いていくようなものだと思う。そうやってもがき苦しみ、のたうち回って創り上げてゆく道なんじゃないか。「仕事場に来たら、もう仕事は終わっている」……つまり、後はこれまで積み重ねてきた技量をマイクの前でご披露するだけ。現場に来てバタバタしているようじゃロクなパフォーマンスにはならない……。「これが声優道」という定まった道があるわけではなく自分流の道を拓いていくもんだと思う。僕はさまざまなその道の先達に師事して教えを乞い、本当にいろんなことを学んだ。ざっと上げてみると、浪曲、古神道祝詞息吹、肥田式強健術、声楽、古武道の身体操作術、大道芸、虚無僧尺八の呼吸法、クンダリーニヨガ火の呼吸法……その他呼吸筋の鍛錬やボイストレーニングメソッドの中から声優に必要なものだけを自分で探究し、取捨選択をして自分流のメソッドにしてきたんだ。
これから声優を目指す人たちは、声優学校で〝何をやらなきゃいけないのか〟を学んだら、その後は、自分で何をするべきか探求してゆく。それだけなんだよ。自己流でもできることはたくさんあるしね。違いが出てくるには、まぁ最低でも10年はかかる。だけど、過程の段階でも違いは出てくるから、現場で(声を)聴いている人たちにはわかる。本物の〝けもの道〟を歩いているヤツって、絶対わかるんだ。
今のアニメは画像もすごいし展開もスピード感が半端じゃない。その画面の圧倒的なパワーに声優の声が追いついていない感じがするよ。もっと画面をぶち破るような、ワイルドな声優が出てきてほしい。〝いい子〟にならずに自分の中に眠っている〝野性〟を解放して……本気で自分の声を鍛錬してね。声優はアーティスト(新世界の創造者の意)なんだ!! せっかく声優になったなら、「アーティストです」と胸張って言えるようにならなきゃつまらないじゃない?
Bon voyage!!
(2015年インタビュー)