【声優道】日髙のり子さん「『タッチ』で学んだ、キャラクターの感情の奥を考えること」

子供の頃を思い出して演じた『となりのトトロ』

これまで声優としていろいろな作品に出させていただきましたけど、作品ごとにそれぞれ特徴があって、当然ながら求められるものも違います。毎回求められるものに精いっぱい応えようとして、気が付いたら声優として成長させてもらっていた……そんな感じでここまで来たと思います。

たとえば『トップをねらえ!』では、最初に「パイロットのテンション、エネルギーがロボットの強さに反映する」という設定を説明されました。つまり、叫ぶときは最大級に振りしぼって叫ばないといけないんですね。台本にも「ウオー」ってセリフが何度も出てきて、「ウオー」が伸び棒になっていたり、波線になっていたり、「!」が5個くらいついていたり。なかには「ウオオオオオオオオ!!」ってセリフもあって、「この〝オ〟一つひとつを前に押し出してください」って言われるんです。「ウオー……」って尻すぼみになるんじゃなくて、どんどん大きくなる、どんどんエネルギーを出していくイメージなんですね。本当に〝全身を使って叫ぶ〟ということを学んだのが、この作品でした。

その少し前になりますが、初の子供役を演じた『となりのトトロ』のときは、リアルな子供をナチュラルに演じることが一つのテーマでした。オーディションではサツキとメイの掛け合いのシーンをやったんですが、私がセリフを言うと男の子っぽい感じになるんですよ。振り返ってみれば、私は子供の頃、弟たちと外で鬼ごっこをして遊んでいて、女の子らしい遊びをしたことがなかったからなのかもしれません。もともとサツキちゃんの言葉は女の子っぽくなくて、メイに対して「待っててね」じゃなくて「待ってな」って言うんです。私も弟たちにそういう言い方をしていたので、リアルにやれたのかも。『トトロ』のときは、自分の幼少時代の記憶をたぐり寄せて、「姉弟間ではどういう話し方をするだろう?」と思い出しながらアフレコしていました。

『ピーターパンの冒険』『ふしぎの海のナディア』で男の子役にチャレンジ

あるとき、事務所のマネージャーさんたちに「『タッチ』はヒットしたねえ」「でもあれだけ大きな役でヒットしちゃうと、次が大変だね」って言われて、「じゃあ、どうしたらいいんだろう?」と考えました。『トトロ』のサツキちゃん、『らんま1/2』の天道あかねちゃんなど、女の子役が多かったなかで、ガラッとイメージを変えるとしたら、「やっぱり男の子役にチャレンジすることかな?」って思ったんです。

そんなとき『ピーターパンの冒険』のオーディションがありました。私はウェンディの役で呼ばれたんですけど、「ピーターパンは普通の男の子じゃない、中性的な感じがする。もしかしたら私にもできるかもしれない」って思ったんです。だけど、音響監督に面と向かって「受けさせてください」と言う勇気もなくて……。なので、音響監督さんとすれ違いざまに小さい声で「ピーターパンもやってみたいな……」ってささやいたんです(笑)。そしたら、「何、やってみたいの?」と、すぐ声を録ってくださって、結局ピーターパン役をやらせていただくことになりました。

第1話のアフレコでは、最初から力みっぱなし、飛ばしっぱなしだったから声が枯れてしまって。収録の最後のほうには「誰?」ってくらいガラガラ声でした(泣)。でも、その後OAされたものを観ながら「ここをこうすればいいかな」と少しずつ感じをつかんでいきました。この『ピーターパン』では全体的に力んだ感じで声を出していましたが、次に男の子役をやる機会があったら、もう少しナチュラルに演じてみたいなって……。

そう思ったときに『ふしぎの海のナディア』のオーディションがありました。私はナディアとジャンの両方で受けて、ジャンをやることになりました。ピーターパンはちょっとヒーローっぽく、やんちゃ坊主って感じでしたけど、ジャンは今でいう草食系の男の子。まったく違うタイプのキャラクターを、1年間かけて作らせてもらいました。そんなふうに、私は出合う作品、出合う作品で成長させてもらっています。