【声優道】島本須美さん「素の自分から素敵になること」

仕事を待つのがつらかった新人の頃
モチベーション維持のために先輩と体力作り

劇団にいた頃は、何がつらいかって、仕事を待つのがいちばんつらかったですね。仕事をやりたいのに、やる仕事がないという状況……でも仕事がいつ来ても大丈夫な状態にしておかなければいけない。自分のモチベーションを保ちつつ待つ、というのは大変なことでした。アルバイトもしていましたが、「いつ仕事が来てもいい状態にして、モチベーションを上げつつ、待つ」というのはけっこう大変でしたね。今、同じような思いをしている若い人もたくさんいらっしゃるんじゃないかな? 私は、そんなとき、モチベーション維持のために、近くにあった代々木公園で、劇団の先輩方と一緒に走ったりして体力作りをしていました。終わった後に先輩に付き合わされて、麻雀に行ったりもしましたね。

よく「この世界は、先輩・後輩の上下関係が厳しい」と言う方もいらっしゃいますが、私はそう感じたことはあまりなかったです。現場で先輩から教えていただいたことはありますが、怒られたことはありませんでしたから。もうお亡くなりになった青野武さんと現場でご一緒したとき、〝古文書〟という言葉を〝こぶんしょ〟と読んだら、「須美ちゃん、ここは〝こもんじょ〟のほうがカッコいいよ」ってさりげなく教えていただきました。そういう尊敬できる先輩が本当に多かったですね。

また(先輩の芝居を)聴いているだけでお勉強させていただくことも多かったです。『ザ☆ウルトラマン』のときは、富山敬さんをはじめ、滝口順平さん、兼本新吾さん、初代キャップの森川公也さん……といった大先輩たちに囲まれてお仕事をしていましたから。そんななか、私とほぼ同世代の千葉繁さんがいらっしゃって、よく話をしていました。千葉ちゃんは、どんな小さい役でも存在感のある役にしてしまう天才。すごく素敵な役者さんです。

『ルパン三世』のクラリスに大反響
大量のファンレターが届いた

雑誌のインタビューなどでよく「今まで演じたなかで、特に印象に残っているキャラクターは?」という質問を受けるのですが、その日の気分でお答えするようにしています。今日は『めぞん一刻』の音無響子さんでしょうか。『風の谷のナウシカ』のイベントのときに聞かれると、「今はやっぱりナウシカだな」と思いますし、初めて男っぽい女の子をやらせてもらった『Oh! ファミリー』のフィー・アンダーソンも、すごく好きで思い入れがあります。

『ルパン三世』のクラリスと答える日もあります。『ルパン三世』は、デビュー1年目の『ザ☆ウルトラマン』と同時期に録っていた作品で、クラリス役で皆さんに知っていただけたのではないかと思っています。だから、「初心忘るべからず」と思っているときにはクラリスと答えています。

クラリスについては、映画が上映されたときよりも、テレビでオンエアになったときにすごく反響があったらしくて、劇団にたくさんファンレターが送られてきました。そのとき、ファンレターの数が西田敏行さんよりも多かったそうです。劇団のスタッフの方からも「須美、これは大事にしなきゃダメだよ」って言われて、ものすごい数だったけど、一人ひとりにお返事を書いたことを覚えています。昔は、自分が使った台本にサインをして送ったこともありました。台本を送るなんて、今では考えられないことですよね。

今、力を入れている作品『猫のダヤン』は、私にとってやりやすいキャラクターです。最初はみんな普通のアニメのテンションでやったんですよ。でも「もうちょっと世界観を活かしたモノトーンな感じに」という指示もあって、今はナレーションも含めて、やり過ぎない微妙なニュアンスを出せるような作り方をしています。

ダヤンはオーディションではなくて、「やっていただけませんでしょうか?」と問い合わせをいただいて、もう「喜んで」とお受けしたんですね。作者の池田あきこ先生からの〝ご指名〟とお聞きして「うれしいなあ、光栄だなあ」と思っていたんですけど、昨年のイベントで先生とお話したら、ちょっとニュアンスが違っていたようで……。先生も「ナウシカの声をやっている人だから、どうですか?」とスタッフから薦められたんだと判明しました。