【声優道】大谷育江さん「ピュアな気持ちで演じ続ける」

キャラクターと新鮮な気持ちで向き合うことが大切

私が演じるうえで気を付けていることは、「演じよう」と思わないことです。「演じよう」と思うとマネになってしまうので、そのキャラクターになりきったときに体と心から何が出てくるんだろうと考えるようにしています。恐山のイタコか霊媒師みたいなものですね。そのキャラクターを自分の体に降臨させるというか、うまく言葉では言い表せないんですけど、体の外見からそのキャラクターに変化して、キャラクターと同じ考えをもつようになる感覚といったらいいんでしょうか。そうでないと、いくらセリフをすらすらしゃべっても、全部ウソになっちゃうんです。簡単にできることではないと思うし、私も「いつもそれが完璧にできています」と言い切れないくらい難しいんですけど、そうなれるように心掛けています。

今では私もさまざまな作品に出演させていただくようになり、なかには10年以上の付き合いになるキャラクターもいます。でも演じている私としては、1回ごとにそのキャラクターと向き合って演じているだけなので、特に何か思うことはないんです。もし最初から「この作品は15年続く予定なので、そのつもりで演じてください」と言われたら、どうしようと考えたかもしれませんけどね(笑)。ただ、ずっと同じキャラクターを演じるうえで、慣れてしまわないようには気を付けています。たとえば大人がアイスコーヒーを出されたら、今までの経験からどんな味なのかがわかっているから、普通に受け取って飲むじゃないですか。でも初めてアイスコーヒーを見た子供は、それが飲み物なのかすらもわからないから、まず新鮮な衝撃を感じるんです。キャラクター自身が新鮮に感じるものだったら、演じている私自身も新鮮に感じなきゃならないので、私の中で「これについて知っている」という知識や経験を削除して、ピュアな気持ちで演じたいと思ってます。

でも長年続けていると、キャラクターが作中での時間と関係なく大人になっていっちゃうんです。頭でわかっていても、ピュアな気持ちになるためには膨大な知識や経験を削除しなくちゃいけないこともあります。私は子供の役を演じることが多いので、年齢相応の大人として日常生活を送っていると、演じるときの年齢的なギャップが大変ですね。頭の中からいちいち削除するのが大変なので、自分でも無意識に経験値を削除した状態のまま日常生活を送っていて、子供みたいな反応をしてしまうことがあります。一種の職業病みたいなものですね(笑)。すごく暑いときに「アイス食べる?」と聞かれて、両手を上げて「食べるー!」って叫んでみたりとかね。いい年をした大人がそんなリアクションをとるのは絶対におかしいので、社会生活を送っているときには大人の反応をするように気を付けてます。

本心から願っていれば本当にやりたいことと出合える

舞台役者になりたいと思っていた頃は、演技をする者の最終形態として、ハリウッドスターやブロードウェイスターを夢見ていたんです。素人考えなんですけど、そういう世界は競争率もものすごくて、本物じゃないと生き残れない世界だと思っていたんです。そこで活躍できるということは、全世界に認められたという証しだから、そんな世界を目指したい、それだけの演技をしたいと思っていました。でも気が付いたら、私が出演しているアニメ作品がそれこそ世界中でオンエアされているじゃないですか。

それで初めて、私が考えていたハリウッドやブロードウェイは本当の目標ではなかったとわかったんです。世界中の人から「Good job!」と言われるような表現がしてみたいというのが、私の本心だったんですね。それを叶えることができた今となっては、夢は必死で努力すれば叶うんじゃないだろうかと思うし、夢中になれるほどの目標をもちたいとも思っています。実はひそかに抱いている野望はあるんですが、それは恥ずかしいのでここでは言わないでおきます(笑)。

声優に限らず、どの世界もそうなんですけれど、道は一つじゃないし、人それぞれの歩き方があると思うんです。多くの人が歩く幹線道路はあっても、そこを通れば必ず声優になれるという保証もないし、幹線道路を通らなかったからといって声優になれないわけでもありません。いろいろなところでお話ししているんですが、どんな二択、三択が出てきても、本当に心から声優になりたいと思っていれば、遠回りでも必ず声優に続く道を選んでいるはずなんです。もし結果として声優ではない別のところにたどり着いてしまったとしたら、それは心の底から声優になりたいと思っていなかったんじゃないでしょうか。神様ってすごくいじわるで、「え? 何で?」というタイミングで選択肢を出してきたりするんです。しかも一見どちらが声優に続く道かわからなかったりしますが、それでも本気で思っていれば自分にとっての正しい道を選択できるんじゃないかと思っています。

私はずっと舞台役者になりたいと言っていましたが、本心でやりたかったのは表現することそのものだったんだと、今になって思います。歌手という夢は小さい頃に諦めていましたが、さまざまなキャラクターとして歌を歌う機会にも恵まれました。声優という仕事を通じて、舞台に出るというお仕事をいただけたこともありました。最初は歌手、次は舞台役者というように私の夢はどんどん変わってきましたが、その根底にある「表現することで食べていきたい」という軸はまったくブレてないんです。自分の中の軸がブレなければ、自分なりのやりがいのあるゴールにたどり着けるのではないでしょうか。

ただ、声優になったからといって、そこがゴールじゃないんですけどね。何が正解なのか、どこがゴールなのかは私も知らないんですけど、「これがやってみたい」と思ったことをとことん突き詰めていけば、本当に自分がやりたかったこと、自分にあったものを見つけられると思っています。今この文章を読んでいるあなたが本気で声優になりたいと思い、その結果として声優になれたとしたら、ぜひ一緒にお仕事をしましょう。楽しみにしています。

(2013年インタビュー)

BAR『Envelop』バーテンダー・亜夜芽【CV.諏訪彩花】