【声優道】朴ロ美さん「体と心と魂が一つになる瞬間」

感覚を引き出してくれる音響監督さんとの出会い

これまでさまざまな作品で少年役を演じさせていただきましたが、少年役であっても大人の女性の役であっても、私のなかでは役に対するスタンスは変わらないんです。演じるからにはとにかく役と一緒になりたい、自分のすべてを出し切りたいと思っています。もし違いがあるとしたら、少年役は心が隠せないこと。大人は本心を隠すというか、あまりストレートに感情を出すことはありませんが、少年は気持ちや思いがもっと前面に出てくる気がするんです。

『∀ガンダム』のロランで初めて少年役を演じて、『デジモンアドベンチャー02』の一乗寺賢、『シャーマンキング』の道蓮、『ドラゴンドライブ』の大空レイジと、さまざまなタイプの少年を演じさせてもらったことによって、ようやく『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックが演じられたのかなと思ってます。

これまでの声優人生を振り返ると、さまざまなキャラクターとの出会いと同時に、さまざまな人との出会いがありました。

デビュー作の『ブレンパワード』のときは、右も左もわからなかった私に、スタッフさんやキャストの皆さんが手取り足取りいちから教えてくださったんです。

私は、演技に関してはわりと粘る性格なので、自分が納得できるまで何度でも演じたくなっちゃうんです。それで現場でも、よく「もう1回やっていいですか?」とお願いしていました。監督や音響監督がOKを出したものに役者側からNGを出すって、本来ならしてはいけないことなんです。でも『ブレンパワード』の音響監督だった浦上靖夫さんは、何も言わずに私が納得いくまで演じさせてくださいました。

あるとき、共演の方が「実はあまりしてはいけないことなんだよ」とさりげなく教えてくださったので、その後で納得いかない演技になってしまったとき、「ベストの演技ができなかった自分が悪いんだ。仕方ないんだ」と思って黙っていたんです。すると浦上さんのほうから「納得がいってないんでしょ。もう1回やる?」って声をかけてくださって……。それからもたびたび「ここが気になっているんでしょ?」と声をかけられることがあって、すっかり見透かされてました(笑)。

浦上さんには、私のさまざまな感覚を引き出してもらいました。私も演じていてすごく楽しかったし、感謝してもしきれません。

音響監督さんでは、三間雅文さんとの出会いも大きいですね。三間さんは仕事に関してはすごく厳しい方なんですが、ダメ出しも腹が立つほど的確なんです。三間さんとのエピソードでいちばん印象に残っているのは『鋼の錬金術師』。お母さんが死んでしまうシーンで、エドが「え?」って言うんですが、その「え?」だけで20テイク以上やりました。私は普通に「え?」という感じで演じていたんですが、三間さんからは「違う。子供なんだから、もっと状況を理解できない感じやって」と言われてしまう。でも私としては、シーンの流れからしてそういうチョイスができなかったんです。おかげで『鋼の錬金術師』では、居残りも何度もありましたね。三間さんとのお仕事は、本当にエネルギーの要る現場です(笑)。でも、私も粘るけど三間さんも粘るので、いいバランスなのかもしれませんね。

お芝居のプロデュースに挑戦するも
東日本大震災で公演中止に……

お芝居のプロデュースをするようになったそもそものきっかけは、以前に宮野真守くんとラジオで共演するようになったことです。宮野くんが私の出演しているお芝居を観に来てくれて、「僕も舞台がやりたい」と言うので、「それなら一緒にやろうか」とずっと言っていたんです。そんなとき、劇作家の中島かずきさんが「この脚本、演じてみない? 宮野さんと朴さんに合うと思うんだ」といって『戯伝写楽-その男、十郎兵衛-』を薦めてくださったんです。

私はそのとき、お芝居を作っていく流れを把握したいという気持ちがあったんですが、自分が役者として出演してしまったらどっちつかずになっちゃうんじゃないかという懸念がありました。それで宮野くんの座長公演という形にして、自分はプロデュースに回ったんです。すべての状況がぴたっとはまって、舞台に向けての歯車が動き出したような感覚がありました。それでいよいよ公演という日になったんですけど、まさかの公演2日目に東日本大震災。もう、いろいろなことを考えさせられました。「こんなときこそ演劇のもつ力が生きるんだ」という思いと、「こんなときに演劇なんて言っている場合じゃないだろう」という両極端の思いが頭の中で渦巻いてました。

いよいよ公演決行か中止かを決めなければならないときには、「まだ余震も続いていて、今後どうなるかもわからないのに、『命を懸けてこの芝居を観に来てください』と言えるのか。言える人がいたら私を説得してほしい」と泣き言をいってしまいました。もちろん誰も言えるわけがなくて、結果、さまざまなものをのみ込んで公演中止を決めたんです。