【声優道】朴ロ美さん「体と心と魂が一つになる瞬間」

役者が全力でぶつかりあうからこそ、舞台は面白い

状況が落ち着いてきてからようやく再演を考えたんですが、私も宮野くんもモチベーションが下がっているし、かといってこのまま再演しなければ心の傷として残ってしまいそうだし、どうしていいかわからなかったんです。そんなとき、中島かずきさんが「朴さんは死ぬほど頑張ったんだから、もう頑張らなくていいよ。もうこのお芝居を手離していいよ」と言ってくださったんです。その言葉に救われたというか、肩に乗っていた荷物を下ろしてくださいました。おかげで逆に、前に進む気持ちが湧いてきました(笑)。

最初にこのお芝居を立ち上げたときには、プロデュース自体が初めてだったので、まだ周囲の状況を確かめながら手探りで進んでいるような状態でした。ところが2回目の公演を手掛ける頃には「このお芝居は私がプロデュースなんだから、私のやり方でやらせてもらいます」と言って、演出から照明からパンフレットにまでことごとく意見を出しました(笑)。

私は性格的に、やるからには全力でやらないと気が済まないんです。せっかくお金と時間と手間を掛けてやるんだから、妥協はしたくない。その全力でぶつかりあうエネルギーがあるからこそ、舞台って面白いし、お客様にも熱が伝わるんだと思うんです。作り込んでいくアニメ作品とは、また違った面白さですね。

ボイススクールを始めたのは
今の若者と向き合ってみたかったから

お芝居をプロデュースしたことで勇気が出て、始めたのが「studio Camblia」というボイススクールです。なんでそんなことをしてみたいと思ったかというと、今の若い人たちに全力でエネルギーをぶつけあう楽しさを知ってほしかったんです。

それまでも養成所に特別講師として呼んでいただくことはありました。最初にお話をいただいたときは「役者が誰かにものを教えるなんて冗談じゃない」っていう気持ちがあったので、「最近のしらけている子たちに私が接したら、きっとケンカになりますよ」と断ろうとしたんです。するとお話をくださった人が「そのくらい本気でぶつかってください。学生を泣かせてもいいです」とまで言うので、引き受けました。だから最初の頃のレッスンは、かなりケンカ腰だったと思います(笑)。

そのとき学生にやらせたのが、演劇集団円の演出家の福沢富夫先生がやっていたレッスン。誰かの目を見て、わーっと大声で泣き叫びながらほふく前進で突っ込んでいくというものでした。最近の若い子は他人の目を気にするから、こんなことは恥ずかしくてできないんじゃないかと思っていたんです。ところがみんな本気で突っ込んでいって、相手のすぐ目の前まで来ても叫び続けているんですよ。その姿を見たときに、自分が若い子たちを誤解していたことに気が付きました。
今どきの若い子はいつもしらけた態度を取っているので、きっと何も感じないのだろうと思っていたんです。でも実は、心の中にはこんなにも訴えたいことがあった。今の社会は何かと息苦しいことが多いので、あえて感じないように感覚をシャットダウンしていなければ生き抜いていけないんだと感じたんです。

そのときから特別講師とは別に、もっと時間をかけて若者と継続性をもって向き合ってみたい、自分でスクールをやりたいと思うようになりました。

まず大事なのは自分と向き合うこと
一度きりの人生なんだから、全力で生きて

集中して何かを伝えたいと思うと、体と心と魂が一つになる瞬間があるんです。普段はその感覚がバラバラになっているから、気がそぞろだったり落ち着かなくなったりしてしまうんですけど、本気で腰を据えて集中するとがっちりと一つになる。自分自身とガチで向き合って、体と心と魂が一つになる瞬間を味わってほしい。そんな感覚が味わえる場所を作ってあげたい。そう思って始めたのが「studio Camblia」です。だから「studio Camblia」の目的は、役者や声優を育てることではないんですよ。「自分を知りたい人、自分と向き合いたい人は来てください。一緒に真剣に向き合いましょう」と言っています。

もちろん中には役者を目指している人もいるんですが、それは結果として後からついてくるもので、まず大事なのは自分と向き合うこと。「何を表現したいのか」「何を伝えたいのか」という部分から発するエネルギーがなければ、何をやっても成功はできないと思うんです。そして、自分と向き合うという感覚を身に付けてから、社会に出て行ってほしいんです。

今の世の中で息苦しさ、生きづらさを感じている人は、心の中にある訴えたい物がたまっているので、いい表現者になれる気がするんです。だから決して負けないで自分と向き合い、強くなったうえで社会に出て行ってほしい。一度きりの人生なんだから、全力で生きたほうが面白いじゃないですか。

器用でなくてもいい。いろいろなことに興味をもって、心を豊かにしてほしい。その先に初めて表現という形があるんだと思っています。

(2013年インタビュー)