【声優道】緑川光さん「〝王子様〟を捨てること」

アクセントがわからず一時はクビも覚悟した

ジュニア所属として事務所に入ってからも、週1回くらいの勉強会がありました。だけど、アクセントがダメだったので、パッと渡された課題にすごく弱くて、先生には「緑川くんは時間があればいいものになるのよねえ」と言われていて。ナレーションのお仕事で呼ばれたときも、渡された台本のアクセントがわからないところに印をつけて、アクセント辞典を引いていたら、すごく時間がかかるわけですよ。

あるナレーションの現場で、台本が10枚くらいあったのに1枚目の作業をしていた途中くらいで「ぼちぼち、いいですか?」と言われて「えっ!?」となって。「すみません、もう少しだけ……」とは言ったんですけど、結局「じゃあ、行きます」って見切り発車をして、案の定ボロボロですよね。その現場から僕は帰され、ほかの人を呼ばれました。せっかく事務所に残れたのはいいけど、こんなふがいないことばかりやっていたらクビになるなと思って、ちょっとお休みをいただいてアクセントを勉強したほうがいいのかなとまで考えましたね。

でも、ちょうど「休ませてください」という話をしようと思って事務所に行ったとき、たまたま手に取ったファンレターに、僕が出演したカセット文庫の感想と「楽しみにしています」というメッセージが書いてあって。それを見て「できないから休みたい」というのは逃げだなと思い、英単語を勉強するみたいにアクセントのわからない単語を書き出して、正解を隠して覚えるという作業を地道に続けていくことに決めました。それを始めたら、何となくアクセントの直し方がわかるようになっていって、徐々に自信もついていきましたね。それまでは何をやってもしんどかったです。

〝青二代表〟として「負けたくない」という攻めの意識に

僕のアニメデビューは、名前のあるレギュラーとしては『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の新条直輝役が最初でした。その前は番組レギュラーでいろいろな作品に生徒AとかBみたいな役で出ていて、その頃はもう23歳くらいになっていました。

デビューしてからずっと、僕はクールなキャラクターを担当しているというイメージが強いのかなと思うのですが、新条の次にレギュラーで演じたのが『南国少年パプワくん』のシンタローなので、真逆な感じではありましたね。それはそれで悩みましたよ。「シンタローは人気のあるキャラクターなんです」ということを聞いてしまっていたし、でもギャグ顔をするじゃないですか。僕自身はギャグにそこまで抵抗はなかったのですが、シンタローは普通にしているとイケメンなので、どこまで崩していいのかなというのがずっとわからなくて。でも現場で一緒だった先輩が「そんなに気にしなくて大丈夫だよ」と言ってくれてからは、思い切りやるようになりました。

クールが多くなったのは『勇者特急マイトガイン』の雷張ジョー役が走りなんですよ。テープオーディションで決まった役なので、最初はそれを思い出しながらやっていたら、ディレクターの千葉耕市さんに「ごめん、ごめん。1回それ全部忘れて、ボソボソと無感情にやってみて」と言われて。そんなことやったことがないから本当に手探りでやって、不完全燃焼で終わり、一方で主役の檜山修之さんはバリバリ叫んでいる。それをダビング作業で聴かせてもらったときに「こう聴こえるんだ!」と思ったら、千葉さんがニヤッとして「悪くないでしょ? こういうやり方もあるんだよ」って。それからディレクターさん公認のもと、ボソボソしゃべるやり方を学んでいったんです。そこで勉強した世界観とか声の出し方が、確実に『SLAM DUNK』の流川楓と『新機動戦記ガンダムW』のヒイロ・ユイに受け継がれているわけですよね。

その時期は自信というのはまだないにしても「泣き言を言っていられない」というのは感じ始めていた頃かな。うちの事務所は基本「ジュニア所属」「準所属」「正所属」という3段階があるわけですけど、その上がっていく過程で先輩を抜かしてしまったことがあったんですね。すごくプレッシャーで、でも若いから、経験がないからうまくできないというのはその先輩に失礼だよねと思うようにはなりました。

後はたとえば『サイバーフォーミュラ』とかの現場でも、いろんな事務所から似たような年代の方が来ていたりとかしたので、〝青二代表〟として負けたくないという思いも生まれ始めましたね。ちゃんと事務所を代表して来ているんだから恥ずかしくない仕事をしたいなという。「やっていける」とかじゃなくて「負けたくない」という、攻めの意識に変わってきつつあった時期ですかね。