キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回は『ナンバカ』のハニー役、『俺たちマジ校デストロイ』の加賀幸彦役、『18TRIP』の棗夜鷹役などを演じる光富崇雄さん。「真面目で硬い」と語る自身のことや、意外とかわいいもの好きな素顔など、仕事からプライベートまで幅広くインタビューしました!
光富崇雄 オフィシャルサイト:https://www.blackship.jp/male/takaomitsutomi/ ★光富さんの手書きプロフィール公開中! |
芝居で「真面目だし、硬いね」と言われ…
――光富さんはいつ頃から声優を目指していたんですか?
高校3年です。それまでは体育教師を目指していたので、中学・高校と軟式テニス部で、ずっと部活。アニメに触れる機会もなかったんですけど、受験勉強をしているとき、たまたま深夜に「化物語」を観て、櫻井孝宏さんが演じる忍野メメがすごくかっこいいなと。でも熊本の田舎者だし、そんな職業にはつけないだろうなって思っていたんです。
そしたら、高校3年の文化祭のライブコンテストで、友だちから「ギター弾くから歌ってよ」と頼まれて、そこで1番になれたら表現の道を目指してもいいんじゃないかと自分の中で賭けをしたんです。結果的に最優秀賞をもらえて、「感動した」「勇気をもらった」と言ってもらえたときに、自分が話したこともないような人に勇気や感動を届けられるなんて素敵だなと。そこから表現の道を目指す夢が明確になりました。
――どんな曲を歌ったんでしょうか。
コブクロさんの『赤い糸』です。友だちがアコースティックギターだったので、僕の声質だったら低音が響くんじゃないかと。
――ライブコンテストでの最優秀賞がきっかけになったんですね。
はい。親には大学に行ってほしいと言われました。なので、ちゃんと受験して、もし落ちたらお金を貯めて勝手に上京するねって親に宣言して。そしたら、見事に落ちまして(笑)。1年間お金を貯めて、19歳の終わりくらいに上京しました。
――A&Gアカデミー声優&ラジオパーソナリティコースに通っていたそうですが。
その頃はネットの情報もないし、熊本ではオーディション雑誌を買うくらいしかできなくて。かたっぱしからオーディションに応募していたら、文化祭でギターを弾いていた友だちから連絡があって。彼は上京してから文化放送でバイトしてたんですけど、僕があてもなく上京したのを知っていたので、A&Gでボーカルコースの養成クラスの1期生を募集してるから受ければ? と言ってくれて。
――それで、A&Gに?
はい。ボーカル養成クラスの優秀者に選ばれた特典としてアニラジのテーマ曲を歌っていたんですが、放送作家さんから「声がいいし、芝居や歌につながるかもしれないから」と教えてもらったのが声優の養成クラスでした。
――いろんな人との出会いがもとになって、声優への道が開けたんですね。
本当に人に恵まれているなって。A&Gに誘ってくれた友だちとは今も仲良しです。
――2つのコースに通ったということで、A&Gアカデミーではどんな思い出がありますか?
課題曲があって、僕は福山雅治さんの曲を提案されました。声が二枚目だから…と言われて、二枚目っていう言葉の意味を知らなかったんですけど(笑)。いちばん勉強になったのはストレートプレイのお芝居です。おちゃらけているキャラとか、自分とは全然違うようなタイプの課題もあったので、芝居の基礎を学ぶことができて、すごく勉強になりました。
――自分の声やお芝居を客観的に見てもらえるのは、勉強になりそうです。
ありがたいですね。これまで「いい声してるね」って言われても、その自覚がなかったので。プロの方から説明されて、やっと自覚できたところがあります。
――初めて挑戦した芝居は面白かったですか?
面白かったんですけど、なかなかできなくて。こう演じたいという自分の理想と、実際のアウトプットに相違があって、これが芝居の難しさなのかと。講師の先生には良くも悪くも真面目だし、硬いねと。真面目な人が頑張っておちゃらけてる感じが出すぎてる……と言われて、難しいなと思いました。
親から「うるさい」と言われるほど歌が好きだった
――歌を文化祭で披露したそうですけど、もともとよく歌っていたんですか?
歌は好きでしたね。習ったことはなく、風呂とかで小さい頃から、親から「うるさい」って言われるくらい歌っていました(笑)。小学校で毎月の歌があって、それを家に帰ってからもずっと歌ってたりとか。小さい頃はポケモンの曲とか、デジモンの主題歌だった『Butter-Fly』とか、ガンガン歌っていたみたいです。
――人前でも歌えるのが素晴らしいですね。
そこの抵抗感はあまりなくて。たぶん、軟式テニスの影響が大きいのかなと。軟式テニスって、得点を取ると声を出して喜ぶパフォーマンスがあるんです。ウィンブルドンでも外国の選手が瞬間的に叫んだりしますよね。あれをもっと派手にしたような感じで、「よっしゃ、ラッキー!!!」みたいな。僕、県内でいちばんうるさかったんです。声が大きいし元気もあったから、保護者の応援がめちゃくちゃ多くて(笑)。他校の保護者さんが試合を見に来てくれていたりしました。
――すごい(笑)。なかなか他校からは来ないと思いますよ。
同世代のファンは全然いなかったんですけど……(笑)。そういうパフォーマンスで試合の流れを自分たちに引き寄せるというか、それで格上の選手に勝てたこともありました。テニスをやっていたお陰で度胸がついて人前で歌うことに抵抗がなかったのかなって、今になって思いますね。
ラストチャンスで事務所を移籍
――これまでの仕事で、思い出の多い現場を挙げるなら?
声優になったばかりの頃、オーディションでいきなり受かった『ザクセスヘブン』(2015年)っていうソーシャルゲームです。ライバルキャラの1人が福山潤さんで、もう1人が宮野真守さん、最後が僕です。何もできない新人だったけど、役との相性に監督が可能性を感じてくださったのかなと思います。
――いきなり共演がビッグですね。
はい。まだマイク前の動きとか全然わからなかったので、緊張しすぎて何もできていなかった気がしますけど、名だたる大先輩方とご一緒できて。この作品のショートアニメがYouTubeに残ってるんですけど、いろんな意味で“若いな”と……。福山さんは今の事務所の社長ですけど、『コードギアス 反逆のルルーシュ』とかを観ていたので、“目の前にすごい人がいる”と圧倒されました。
――現場で先輩たちの背中から学んだことはありましたか?
先輩方が「攻撃を繰り出すときにこういう言い方のほうが臨場感が出るんじゃないか」と監督に提案していて、台本に書かれていることだけをするのではなく、作品に関わる全員で作り上げていくんだなっていうのは、本当にそのときに気付かされました。
――2023年4月から今の事務所に所属しています。何かきっかけがあったんでしょうか。
30歳を超えて、今何かアクションを起こさないと、何もなしえないまま終わっていくなと思ったんです。今の事務所には、骨を埋めるつもりでアプローチしました。暖かく迎えていただき本当に感謝しています。
――心強いですね。相性のいい居場所って、人によって違うと思います。ちなみに、光富さんが自分の声やお芝居でアピールしたいことはありますか?
最近は、地声に寄せた声のほうがお前の強みだぞと、自分には言い聞かせています。『神神化身-Dance and Music for KAMI-』で秘上佐久夜を演じたとき、真面目な性格が自分に近かったのもありますけど、わりとナチュラルな地声のお芝居がしっくりきて。この声をもっとアピールしていきたい、と感じるようになりました。
――これから演じてみたい役や、声優として挑戦してみたいことを教えてください。
テンションが高くてちょっとおバカだけど憎めない……みたいな、僕だって気づかれないようなポップな役も演じられるようになりたいですね。新たに挑戦したいことは、やっぱり歌です。この世界に興味を持つきっかけになったのが歌だったので。目標は東京ドームでライブができるようなアーティストです。
部屋では「丸みがあるもの」に囲まれています
――プライベートでは、どんな休日を過ごしていますか?
ジムで体を鍛えたり、いろんな作品をチェックしたり。野球のシーズンはひたすら野球を観てます。
――メディカルハーブコーディネーターの資格を持っている、というのがちょっと意外で。
僕、なぜか薬があんまり効かなくて。昔、アルバイトをするなら表現を学べるものがいいなと思って、バーテンダーを3〜4年していたんですけど、それが西洋ハーブのカクテルを出すお店で。ハーブってホルモンバランスを整えたり、喉に良かったりして、僕自身もハーブティーなんかを飲むと調子が良くて。今でも休日にハーブティーを探しに行くことがあります。
――なるほど。バーテンのアルバイトをしていたから、特技にカクテルメイクがあるんですね。
そうなんです。もう一つの特技のラテアートも、表現のひとつとしてその頃に勉強したものです。僕の場合はアニメの絵を描いていて、(写真を見せながら)これは『ONE PIECE』のエースです。
――うまい…。Xに登場している、かわいいキャラクターたちも気になりますが…。
ちいかわとか、 カービィとか、カビゴン、モルカーみたいにかわいいものが好きで、家にもいっぱいあります。ぬいぐるみに囲まれているので、女の子の部屋みたいですよ。丸みを帯びたものが好きなんです。
――すごく癒されそうなプライベートですね(笑)。では最後に、これからどんな声優になっていきたいのかを教えてください。
表現の道を志した頃の気持ちを忘れず大切に、歌やお芝居などの表現で、あなたに寄り添えるような声優になりたいです。
撮影=武田真和、取材・文=吉田あき