アニメ作品だけでなく、洋画の吹き替えやナレーション、舞台俳優としても活躍している東地宏樹さん。そのさまざまな経験を通して、声優を目指す人達に贈る応援メッセージには、真摯な思いと温かな気持ちがあふれています。
プロフィール
東地宏樹 とうちひろき……5月26日生まれ。大沢事務所所属。おもな出演作は『機動戦士ガンダムAGE』(グルーデック・エイノア)、『BLEACH』(銀城空吾)、『テルマエ・ロマエ』(マルクス)、『黒執事』(バルドロイ)、『NEEDLESS』(アダム・アークライト)、『機動戦士ガンダム00』(ラッセ・アイオン)、『.hack//Roots』(オーヴァン)、『D.Gray-man』(クロス・マリアン)、洋画でウィル・スミス、サム・ワーシントン、金城武の吹き替えほか。舞台版『心霊探偵八雲 いつわりの樹』では、アニメ版でも演じた刑事・後藤和利役で出演。
vol.1 アフレコはとても奥が深いので、いまだに試行錯誤を続けています。
東地さんは日本大学芸術学部演劇学科のご出身ですが、小さいころから役者になりたいと思っていらっしゃったんですか。
不謹慎なのですが、それほど真剣に考えていたわけではないんです。日本大学芸術学部は入試がマークシート式で、国語と英語の2科目だけだったので、あまり勉強してなかった僕でも受かるんじゃないかと思って受験しました。2次試験では実技もあったんですが、演技経験などまったくなかったので、死にものぐるいでやりました。
大学で演技の勉強を始めてみての印象を教えてください。
僕はまったくの初心者だったので、演じることがとにかく恥ずかしかったですね。面食らったのは、同級生のなかに最初からできてしまう人もいたことです。そのほとんどが高校演劇などの経験者だったんですが、最初は「どうして恥ずかしげもなく演技できるのか」と思いました。ただ、4年間の授業を通してその差は次第に埋まっていき、逆に経験者よりも白紙の状態で勉強を始めた人のほうが上達が早かったという印象もあります。
声の仕事を始めたきっかけは?
大学4年のときに同級生と劇団を旗挙げして、最初は舞台を中心に活動していたんです。そのうちに同じ大学の先輩からCMナレーションの仕事が来るようになりました。CMナレーションはオーディションもサンプルテープで済むし、短時間でそれなりの金額がいただけるので、劇団を続けながらのアルバイト感覚で受けていたんです。そのころ金城武さんのマネージャーが金城さんの吹き替えをする役者を探していて、僕のサンプルテープを聞いて、やってみないかというお話をくださいました。それが初めての吹き替えだったんですが、なにしろアフレコ経験がないものですから難しくて、まったく口パクに合わないんです。それで僕だけ別録りになりました。別録りでも、芝居自体には慣れているので、口パクよりも遅くしゃべり出して早く上がってしまうという最悪のパターンで、NGの連発でしたね。自分のペースで演じてはいけないというのを身に染みて感じました。その経験からもう二度とアフレコの仕事は来ないものだと覚悟していましたが、また別の作品で金城さんの吹き替えをさせていただくことになり、そこで初めて共演者の方と一緒のアフレコすることとなりました。
アフレコの技術については、現場で学んでいったんでしょうか?
吹き替えの場合は、原画の音声が聞こえるレシーバーをつけて行うんですが、それすらも分からず共演者の方にいろいろと教えていただきました。僕の場合は本当に恵まれていたと思います。最初から主役の吹き替えをさせていただけたので、セリフの数も多く、1回のアフレコでたくさんの経験値を積めましたし、共演者の方からアフレコのコツも教えていただけました。それから次第に吹き替えやアニメのお仕事をいただけるようになりましたが、アフレコは奥の深い作業なので、コツをつかんでからがまた大変で、いまだに試行錯誤が続いています。
演じるときに一番大切にしていることは?
自分のなかでイメージを作り込みすぎないことです。昔は当日現場に行って初めて絵と合わせることが多かったんですが、今は事前にリハーサルビデオがもらえるので、誰でも練習すれば絵に合わせることができるようになりました。ところが事前練習をすればするほどイメージが固まってしまい、共演者の演技と噛み合わなかったり、ダメ出しに対応できなくなってしまうんです。もちろん、役への理解を深めなければ演じられないし、そのために事前の台本チェックや練習は必要なんですが、イメージを固定せずにできるだけニュートラルでいたいと思っています。これはアニメでも外画でも舞台でも同じです。
舞台版『心霊探偵八雲 いつわりの樹』では、アニメ版でも演じた後藤刑事役でご出演されますが、アニメと舞台では役作りに違いがあるのでしょうか。
まず原作小説をアニメ化する際に、制作スタッフが小説のイメージからキャラクターの絵を作りますよね。僕はその絵に合わせて演技をするわけです。でも舞台には、僕自身の姿で立たなければいけない。声はアニメ版と同じなんだけれど、外見は違ってしまうんです。もちろんアニメ版を知っていて舞台を見に来てくださる方もいらっしゃるので、なるべくアニメ版のイメージに近づけようとは思っていますが、どうしても限界があるし、物真似ではないからそこで勝負することではないと思うんです。アニメで後藤を演じたことで、僕の中には後藤の演技が叩き込まれているので、その上でどう見せていくのか、共演者とどう絡んでいくのか、舞台として新鮮に演じるのが大切だと思っています。そういう意味では、通常の舞台ともアニメとも違う意識が必要ですね。むろんアニメで後藤を演じたことが助けになる場合もあるし、逆にアダになってしまう場合もある。原作小説やアニメで培ったイメージで舞台を見に来る方もいらっしゃるとは思いますが、僕としてはいいバランスで演じられればと思っていますし、舞台としての完成度が高ければイメージと多少違っていても許していただければと思います。
vol.2 なにが良かったかなんて、後にならなければ分からないんです。
今まで演じてきたなかで印象深い役、転機になった作品などはありますか。
『メン・イン・ブラック』の吹き替えではすばらしい諸先輩方と共演させていただいたんですが、まだアフレコにそれほど慣れていないこともあって、周囲を気にする余裕なんてまったくありませんでした。でもディレクターさんから「ダメだったら後日録り直しても構わないから、とにかく自由に堂々と演じてほしい」といわれ、無我夢中で演じて後半では喉を潰すことにもなりましたが、収録が終わったあとに共演した内海賢二さんから飲みに誘われたんです。拙いながらも全力で演じたことで認めてくださったんじゃないでしょうか。そういう意味では非常に印象に残った現場でした。アニメ作品では『トリニティ・ブラッド』です。初めての主役だったのでやはり責任感が違いましたし、原作小説ファンの方のイメージを壊さないようにしたいと思って演じました。
主演作となると、やはり責任感が違うものなんでしょうか。
とくにTVシリーズなどのレギュラー作品では、現場の雰囲気作りが大切だと思うんです。例え作品の内容が猟奇的なホラーであったとしても、演じていて楽しい、面白いという空気を作っていかなければならないし、主演には率先してそうしなければと意識しますね。あと、主演はほかのキャストの方に背中を見せるような存在でありたいので、つまらないミスなどは絶対にしないようにという緊張感もあります。
現場で印象に残っているエピソードがあったら教えてください。
滝口順平さんと共演したときのことが忘れられません。通常は、口からマイクまでの距離は20センチ程度なんですが、滝口さんはマイクから50センチ以上離れて立つんです。ところが、特に大きな声を出しているわけでもないのに声が通る。音声ミキサーさんにお聞きしたところ、誰よりもクリアに届いているそうなんです。一体なにが違うんでしょうね。もう笑うしかないといった心境でした。
声優になりたいと思っている人に、メッセージをお願いします。
あくまで僕の経験からなんですが、友達とぶつかって傷ついたり傷つけられたりといった経験が、今の仕事に大きく反映されているなと感じています。よりたくさんのことを経験しておいたほうが、演技にも深みが出てくるんじゃないでしょうか。人間にはさまざまなタイプがいるので、極端な話をすれば人と一切つきあわず家に籠もってゲームばかりしている人が、絶対に声優になれないということはないと思います。でも僕自身、演技が上手いか下手かよりも、その人の人間性に興味を惹かれることが多いので、最後に評価されるのはやはり人間性だと思います。
ご自身の中学・高校時代を振り返って、やっておけばよかったと思うことはありますか?
僕は中学・高校と男子校だったので、当時は「共学に行きたかったな」と思っていました。でも改めて振り返ると「男子校に行って良かった」と思うことも多いし、大学で共学になったときの感覚も新鮮だったし、なにがいいのかなんて後になってみなければ分からないんです。今、中学生・高校生で声優を目指しているみなさんも、どんなことでも演技の糧になるんだ、ムダなことなんてなにひとつないと、自分の置かれている環境をポジティブに受け止めてくれたらと思います。
最後に、間もなく公演が始まる舞台版『心霊探偵八雲 いつわりの樹』への意気込みを聞かせてください。
アニメ版で後藤を演じるに当たって原作小説を読みましたが、心の内側に響くというか、人気があるというのも納得できる、非常に面白い作品でした。心霊という言葉だけを聞くと怪しげな雰囲気を感じるかもしれませんが、心霊、幽霊というのも元は人間なんです。それが死に際して残した思いを、霊と会話ができる八雲を通して描き出していく。「死後の世界があったら、自分もこういうことを感じるんじゃないだろうか」と想像できるような、リアルな作品世界なんです。舞台でどう表現するのかという問題もありますが、会場が青山円形劇場という非常にユニークなスタイルということもあり、脚本を読んだときに容易にイメージが湧いてきました。それだけに僕自身も気合いを入れないとと思います。今まで培ってきたものをすべてぶつけなければ、この先に役者としての僕はないというくらいの意気込みで臨んでいます。間違いなく面白い作品になると思いますので、ぜひ劇場まで足を運んでください。
★大人気ミステリー小説の完全舞台化
『心霊探偵八雲 いつわりの樹』に東地宏樹さんが出演★
舞台版『心霊探偵八雲 いつわりの樹』
2013年8月21日(水)~28日(水)
こどもの城 青山円形劇場
STAFF 原作=神永 学(「心霊探偵八雲」シリーズ/角川書店刊)
脚本=神永 学、丸茂 周 演出=伊藤マサミ(bpm/進戯団 夢命クラシックス)
協力=株式会社文芸社 協賛=株式会社角川書店 主催=シン×クロ/ネルケプランニング
CAST 久保田秀敏 清水富美加/佐野大樹 平田裕香 寿里 野村真由美 菅野勇城/三浦 力 東地宏樹
チケット料金 5,500円(全席指定・税込み)
前売り開始 2013年7月7日(日) 10:00~
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≪ご好評につき 8月28日(水)13:00 追加公演決定!!≫
チケットは各プレイガイドにて7月28日(日)10:00より販売開始します。
詳しくはオフィシャルブログをご覧ください。
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ネルケプランニング 03-3715-5624 (平日11:00~18:00)
●チケットに関するお問い合わせ
サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (全日10:00~19:00)
『心霊探偵八雲 いつわりの樹』公演情報サイト |
『心霊探偵八雲 いつわりの樹』特設サイト |
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