キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。記念すべき初回配信に登場するのは、『シャインポスト』の青天国春役や『ぼっち・ざ・ろっく!』の伊地知虹夏役など、様々な作品で活躍している鈴代紗弓さん。声優という仕事に出会ったきっかけや殻を破るきっかけになった恩師の教え、そして、初めてヒロインを演じた作品の思い出など、お芝居に向き合ってきたこれまでの活動について、じっくり語っていただきました。
鈴代紗弓(すずしろ・さゆみ) アーツビジョン所属 オフィシャルサイト:https://www.artsvision.co.jp/talent/4472/ Twitter:https://twitter.com/s_suzushiro ★鈴代さんの手書きプロフィール公開中!
「声優さんってラジオもやるんだ!」と思いました
――鈴代さんは、いつから声優という仕事を意識するようになったんでしょうか?
最初に声優っていう職業を知ったのが、小学校の卒業式のあと、教室で担任の先生やみんなと一緒に話していたときですね。「将来何になりたいか?」という話になって、その先生が「紗弓は声が通るから、声優さんとかいいんじゃない?」と言ってくれたのがきっかけです。
――一番最初のきっかけは、先生の一言だったんですね。
それから中学生になって、たまたま文化放送 超A&G+のラジオを聴く機会があって、そこでお話されていたのが井口裕香さんだったんです。井口さんのトークがすごく面白くて、調べてみたら声優さんだと知って、「声優さんってラジオもやるんだ!」と思いました。同じ頃、お芝居にも興味を持ったり、ハマったアニメの中に入ってみたいと思ったり、色んなことが重なって声優さんに興味を持ちはじめましたね。
――ちなみに、鈴代さんがハマっていたアニメというのは?
幼稚園児の頃には『おジャ魔女どれみ』とか『明日のナージャ』を見ていて、当時は魔法使いになるのが夢でした(笑)。中学の頃だと『銀魂』や『ワンピース』ですね。あとは深夜帯だと『けいおん!』とか、かな。アニメって日常でありえないことも出来ちゃう世界なので、そういうものに憧れを抱いた記憶があります。実際には魔法使いになれないけど、アニメだったらなれる。色々な可能性がある声優という職業に挑戦してみようと思いました。
――そこから、声優の道に進むために動き始めるんですね。
アルバイトもしつつ、高校2年生の頃に日本ナレーション演技研究所という養成所に通い出したのが始まりですね。
戦わなきゃいけないのは自分自身だなと思っています
――養成所でお芝居を学びはじめて、難しさを感じることはありましたか?
めちゃくちゃありましたね。人前で何かをすることへの恥ずかしさや抵抗感をなくすところから始めなくちゃいけなかったんです。小学生の頃から文化祭や体育祭のリーダーに立候補していて、どこか目立ちたいと思っていたところもあったんですけど(笑)、いざ実際に人前でやるとなると緊張していました。でも、一個殻を破ってからは、大きな声を出すことも新鮮だったし、表現することが楽しくなっていきました。
――最初の壁を乗り越えて、お芝居の楽しさを感じていったんですね。
でも、私は突出した何かが無くて、良くも悪くも普通だったんですよね。声がすごく特徴的なわけでもなければ、芝居も成立はしているけど面白味がない、というか。全部が70~80点みたいな感じだったのが、自分の中で引っかかっていました。私の通っていた養成所は「基礎科」「本科」「研修科」とレベルが上がっていくんですけど、一年に一回オーディションがあって、基礎科の人でも事務所に所属するチャンスがあるんですよ。でも、私は養成所の中で上がっていくことはできても、なかなか事務所への所属に至らなかった。恥ずかしさの殻は破れたけど、それ以上に行けなかったんですよね。
――その状況が変わる契機があったんでしょうか?
一番上の研修科の頃に、事務所の直属の先輩でもある福島潤さんに教わることができたんです。私は、潤さんに教えてもらえたことで、もう一個殻を破らせてもらえたなと思っています。潤さんの教えは今でもすごく大切にしていて、「何かしてやろう」「ちょっとでも爪痕を残してやろう」みたいな感覚が強くなりましたね。もちろん、それまでにいろんな講師の方が教えてくださったことがあったうえでのことなんですけど、事務所に所属することができたのは、間違いなく潤さんに教われたからだと思います。
――それほど大事な経験だったんですね。その後も、印象に残る出会いはありましたか?
養成所の研修科一年目の時にあったオーディションで合格しアーツビジョンに所属することになったのですが、所属後、系列の事務所に所属した人たちと一緒に集まる機会があったんですよ。そこで別の事務所の同期の子たちと話してみると、やっぱりみんな光るものを持っているんです。中でも一番「太陽!」って感じがしたのが、岡咲美保ちゃんでした。初めて美保に会ったときは圧倒されてしまって、こういう人たちがたくさんいるなかで自分もやっていくんだなって、背筋が伸びた記憶があります。
――同期の人たちの存在にも刺激を受けていたんですね。実際のところ、ライバル意識みたいなものもあったんでしょうか?
最初は「あ、あの子はもうメインでやっているんだ」と考えてしまった時期もありましたね。「Wikipediaがもう出来てる」とか(笑)。ただ、そういうのも大切な気持ちだとは思うんですけど、最近では結局戦わなきゃいけないのは自分自身だなと思っていますね。
「この気持ちをどうにかして残さないと!」と思いました
――デビューして最初のお仕事のことは覚えていますか?
一番最初はゲームの収録だったんですけど、待ち時間も「どうやって始まるんだろう……?」とソワソワしていました。同じ日に三役くらいやらせていただいたんですけど、そこまで多いワード数ではなかったのに、緊張してガチガチになりながらやったのを覚えていますね。……怖かった!(笑)
――最初のお仕事はやっぱり緊張しますよね(笑)。その後、出演作を重ねていくなかで、特に印象に残っている作品はありますか?
初めてメインの役で出演させていただいた『ハイスコアガール』ですね。サブキャラを上の先輩方が固めている作品で、台本を見せていただいたり、チェックの仕方を訊かせていただいたりした現場でした。ほとんどがリアクションや息のお芝居で、一話目でもセリフが全然ないキャラクターだったのに、それだけでもすっごい疲れちゃって。
――それだけ気を張っていたんですね。
でも、「この気持ちをどうにかして残さないと!」と思って、家に帰ってから必死にボイスレコーダーにその時の気持ちを喋りながら寝落ちしました(笑)。その音声は今でも残っています。ほとんど何喋っているのか分からないんですけど(笑)。
――それだけ深く記憶に残る作品になったんですね。共演者の方とのやりとりや思い出はありますか?
共演した杉田智和さんと他の現場でお会いすると、未だに『ハイスコアガール』の話をさせていただきます。それこそ『銀魂』も見ていたので(笑)、あんなにお忙しいなかで、私のような新人のことも覚えていてくださっていて嬉しいですね。お芝居のことだと、新井里美さんの遊び心やアドリブ感がすごく印象に残っています。後々、里美さんがやっていた言い回しを自分で使ってみたこともあったんですけど、その場にいた石谷春貴さんに「あれ、里美さんのやつ、やったでしょ~?」って言われて「うわ、バレた!」と思いました(笑)。里美さんだけじゃなくて、「あの先輩はこうやっていたな」と踏襲させていただくことはありますね。
――『ハイスコアガール』と前後して、ご自身のラジオも始められていますね。
「新人声優の登竜門」と呼ばれる、文化放送 超A&G+の「ラジオどっとあい」という番組で、憧れだった一人喋りをやらせていただきました。ラジオは本当にやりたかったので、すごく嬉しかったんですけど、いざやってみると全然喋れなくて(笑)。井口さんのラジオも聴いていたので、楽しくできるものだと思っていたんですけど、毎回反省しながら帰っていました。
――最初は想像していたように喋ることが出来なかったんですね。
自分の伝えたいことをきちんと言語化したり、話を面白く組み立てることが難しかったですね。でも、「どっとあい」が終わった半年後に、ソロで冠番組(「はーい! 鈴代です! 今行きまーす!」)を持たせていただいて、今でも続けさせていただいています。ゲストの方に来ていただくこともあるので、作品のラジオや生配信での立ち回りがなんとなく分かるようになってきたのは、ソロでラジオをやらせていただいているおかげだなぁって常々感じています。私にとっては、最初のきっかけになった「井口裕香のむ~~~ん ⊂( ^ω^)⊃」が同じ超A&G+という枠で続いているのもすごく感慨深いですね。
なんかいろいろ経験する!(笑)
――様々な作品で活躍している鈴代さんですが、今後、挑戦していきたいことはありますか?
ここ数年は、よりナチュラルな芝居ができるようになりたいなと思っています。今までは「足していく」作業ばかりやっていたんですけど、逆に「引いていく」作業も覚えたいな、と。作品によっても求められる芝居は違うんですけど、デォルメしすぎない「生っぽさ」みたいなものを出せるようになりたくて、最近はナチュラルな感じを意識することが多いですね。試みとして、台詞を覚えてアフレコをやってみたこともあります。その時は、相手の台詞が自分の中に入ってきて、来た台詞に対して反射で言葉が出た感覚がありました。ただ、台詞を覚えるのがすごく苦手なので(笑)、今も色々なやり方に挑戦している感じですね。
――今もお芝居を磨かれながら、日々のお仕事に臨まれているんですね。では最後に、声優を目指している人に向けて、何かメッセージをいただいてもいいでしょうか?
いま思うと、時間があるときにたくさんインプットをしておくのは、すごく良いことだなと思います。本当に経験が全部活きてくるので、やれることや興味があることは片っ端からやっておいて絶対に損はないなって感じます。なので……なんかいろいろ経験する!(笑) 傷付くことがあったとしても、傷付いたっていうことも感情として一個の引き出しにできるので、無駄になる経験がないのが、この仕事のめちゃくちゃ良いところだと思います。
【声優図鑑】鈴代紗弓さんのコメント動画
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
撮影=石田潤、取材・文=北野史浩、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」