【声優道】堀内賢雄さん「心の底から役に成りきる」

役を演じるには自分の人生経験を生かすしかない

洋画の吹き替えも、いろいろと経験させていただきました。ベトナム戦争を舞台にした映画『プラトーン』がTV放映されたとき、チャーリー・シーンの吹き替えを担当したんですが、面白いことがあったんですよ。あまりに役に入りすぎちゃったのか、自分がベトナム戦争の真っただ中にいるような感覚に陥る瞬間があって、撃たれると本当に痛みを感じるんです。だから、自然とそういう痛さにのたうち回るような声が出てくる。その領域に行き着くまでは大変だし、僕としてもそう何度もある体験じゃないですけど、絶対にあり得ないことではないんですよ。

僕は正式に芝居の勉強をしたことがないので、先輩方の演技を参考にしてきたんですが、味のある演技っていうのは、その人の生きざまがセリフに出ていることだと思うんです。同じセリフでも別の人が読むとまったく違う印象に聞こえたりするし、どんな役であっても「この人が演じているんだ」っていう存在感を感じさせることもできる。この個性はいったい何なんだろう、どうしたら生まれるんだろうと思いました。新人の頃に、そういう味のある先輩方の演技に触れられたのは大きいですね。

声優をしていると、毎日のように違う役を演じることになります。そのとき、その役をどうやって演じるのかといえば、自分の人生経験を生かすしかないんです。日常生活で感じたこと、いろいろな人と接して得たものを自分の引き出しの中に溜めておいて、キャラクターに合ったものを引っ張り出して演じるんです。まだ演技の勉強を始めたばかりの人のなかには、よく「別のキャラを演じるんだから声を変えよう」と思う人がいるんです。でも、声が違うから別のキャラクターに聞こえるんじゃない。キャラクターによって生い立ちや性格や考え方が違うから、しゃべり方や声が違ってくるんです。だから、キャラクターを活かす演技をするためには、どれだけ掘り下げられるかが勝負ですね。

今、声優になろうと思ったら、まず専門学校や声優養成所に通うことを考えると思います。でもなかには、声優学校に通っているというだけで、満足してしまう人がいるんですよ。1週間のうちに養成所で学んでいる時間なんて、ものすごく少ないじゃないですか。養成所に通っている以外の時間をどう過ごすかが大切なんです。何をしていても芝居のことしか考えられない、日常生活のすべてがどっぷりと芝居に漬かっている、そのくらいでないと役者にはなれないと思います。そういう意味では、とにかく演じることが好きだと胸を張って言い切れるようじゃないと務まらないし、続けられない仕事ですね。

使えば使うほど声は鍛えられる
仕事を続けるためにどう努力していくか

『ネオロマンス』シリーズでは長いことオスカー役を演じさせていただいていますが、役者は年をとるのに、オスカーは年をとらないんですよ。声だけならまだしも、イベントではオスカーではなく僕自身の姿でステージに立たなければいけないじゃないですか。お客様がせっかくステージを楽しみにして来てくださっているのに、老けたジジイが「お嬢ちゃん」なんて言っていたら、まったくロマンティックじゃないし失礼ですよね。どんなに頑張っても僕がオスカーみたいな外見になれるわけではありませんが(笑)、まず不健康ではダメだと思うし、太ってもいけないと思うし、最大限の努力をしなくちゃいけないと思いますね。

僕は、声は使えば使うほど鍛えられると思っているんです。ものは使わないとさびていくし、野球選手だって毎日のように素振りをするじゃないですか。声も同じで、使っていくうちに芯ができて存在感を感じさせるようになるんです。

そのためにはまず発声ですね。新聞を声に出して読んでみたり、朗読の発表会をしてみたり、僕もいろいろとやりましたよ。たまに「役者はプライベートでは無口じゃないといけない」と言われたりすることもあるんですが、僕はずっとこのやり方でやってきたし、今まで続けてこられたことに誇りをもっています。

歳をとれば次第に声は出なくなっていくものだし、口も回らなくなってくる。そうなったら仕事が来なくなりますからね。そのためどう努力していくかが大切じゃないでしょうか。

ただ、この業界にもどんどん若い役者が入ってくるし、そういう人と若さで張り合ってもしょうがないと思うんですよ。たとえば『ネオロマンス』のイベントだったら、僕なりの立ち位置を考えて、自分が目立つことよりもイベントをどうやったら盛り上げられるか考えるとかね。そういう考え方ができるようになってきたのが、年をとったという証明なのかもしれませんけどね(笑)。