【声優道】藤原啓治さん「うまくなれば、必ず仕事はくる」

『声優道 名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント』が3月9日から期間限定で無料公開中! 臨時休校などで自宅で過ごす学生の方々へ向けて3月9日~4月5日までの期間で随時配信予定となっている。

アニメや吹き替えといった枠にとどまらず、アーティスト活動やテレビ出演など活躍の場を広げ、今や人気の職業となっている「声優」。そんな声優文化・アニメ文化の礎を築き、次世代の声優たちを導いてきたレジェンド声優たちの貴重なアフレコ秘話、共演者とのエピソードなど、ここでしか聞けない貴重なお話が満載。

それぞれが“声優”という仕事を始めたキッカケとは……。

声優ファン・声優志望者だけでなく、社会に出る前の若者、また社会人として日々奮闘するすべての人へのメッセージとなるインタビューは必見です。

うまくなれば、必ず仕事はくる

▼父の反対を押し切り演劇の道へ 声優の初仕事はわからないことだらけ
▼この世界で絶対に食ってやる! 悔しさから勉強と練習に明け暮れた
▼うまくなれば必ず仕事はある! シンプルに考え、向上心をもって学ぶべき
▼ひろしというキャラクターを通して自分のできることに広がりが出始めた
▼芝居のもつ力…… 演じることの魅力とは

藤原啓治さん

【プロフィール】
藤原啓治(ふじわらけいじ)
1936年8月7日-2020年4月12日。AIR AGENCY所属。主な出演作は、アニメ『機動戦士ガンダム00』(アリー・アル・サーシェス)、『天保異聞 妖奇士』(竜導往壓)、『交響詩篇エウレカセブン』(ホランド・ノヴァク)、『屍姫』(田神景世)、『黒塚』(歌留多)、『西洋骨董洋菓子店〜アンティーク〜』(橘圭一郎)、『RD潜脳調査室』(久島永一朗)、『BACCANO!』(ラッド・ルッソ)、『クレヨンしんちゃん』(野原ひろし)ほか多数。


お悔やみ

アニメ『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役、『交響詩篇エウレカセブン』のホランド・ノヴァク役、映画『アベンジャーズ』シリーズのアイアンマン(トニー・スターク)など、数多くの作品で活躍した声優の藤原啓治(ふじわら・けいじ)さんが2020年4月12日、お亡くなりになりました。編集部一同、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

父の反対を押し切り演劇の道へ
声優の初仕事はわからないことだらけ

もとはと言えば、舞台や映画の仕事をしたいと思っていたのが、この世界に入るきっかけでした。初めはとりあえず大学に入ろうと、何となく受験勉強をしながら色んな学校が載っているぶ厚い資料を見ていたんです。でもああいう本って最後のページに近づくにつれて、演劇とかの学校も登場するんですよ。それを見ているうちに「あ、俺がやりたいことってこれなんじゃないの?」と、その気になってしまったんです。

で、悩んだあげくに父の反対を押し切り、進学をやめて文学座付属演劇研究所に入ることになったんですけど、入ってみたらなんと半数近くが学生。「うわ、両立できるんじゃん!」とショックを受けましたね。そこからまた別の劇団に入り……という感じで20代半ばまでやっていましたが、いかんせん劇団はメシが食えない。久々に会った親戚のおじさんからは「啓司くんもいつまでも夢を追いかけてないでさあ」なんて言われてしまったり。そんなわけで「これじゃいつまでたっても同じことの繰り返しだ。早く何とかしなくては」と、知人に賢プロダクションを紹介してもらったわけです。

声優の初仕事で大変だったのは、それが初仕事と言えなかったことですかね。「もう慣れてるって言ってあるから、初めてだって言わないように」と言われて現場に入ったんだけど、そもそもどこに座っていいのかすらもわからない。セリフを録ったら「藤原さん、ちょっとマイク吹いてます(※1)」と言われてしまって、でも「マイクを吹く」っていうこと自体どういうことかわからない。しかし、初仕事だと言えない以上、意味を聞くわけにもいかないじゃないですか。だから「あ、吹いてました? いやあ、すいません」と知らん顔してリテイク。で、やっぱり「あのー、まだ吹いてるんですよねぇ」なんて言われてしまって、もう必死に考えちゃいましたね。

※1:声を出すときに、マイクに強く息がかかってノイズが発生すること

この世界で絶対に食ってやる!
悔しさから勉強と練習に明け暮れた

最初の挫折は、わりとすぐでした。何本目かの仕事でゲスト主役みたいな役をいただいたんですが、それまでの役と違ってセリフが多かったんですよ。台本を見ながらさんざん練習して行ったんだけど、いざ収録が始まると、その練習が活きなかった。キャラクターの口の動きに合わないんです。現場がしらける。視線が痛い。ああ、俺はなんて無知だったんだ……。もうたまらない気持ちですっかり叩きのめされてしまいました。

帰り道、やりきれない思いでガードレールを蹴っ飛ばし、そこで初めて本気になりましたね。「くそぅ。俺は絶対にこの世界で食ってやるぞ」と。そこからはとにかく勉強と練習に明け暮れました。とはいえ、声優養成所に通っていたわけではないので、自分で何とかするしかありません。そこで目をつけたのがテレビです。テレビをつけると、毎日好きなときにプロの仕事が、それもタダで観られるんです。いちばんいい参考書だと思い、他の声優がどんなふうに演技をしているのかを見て、自分でも実際にセリフをしゃべってみたりもしました。

そうやって何とかかんとか5年たった頃に「あ、慣れてきたかな」と思い始め、10年が過ぎた頃には「もっとできるんじゃないかな」と考えるようになっていました。正直な話、長い間「声優です」とは言えませんでした。なんだか、負けて落ちてきた先で仕事をしているような気がしてしまって。でも、何となく食えるようになってくると、不思議と謙虚になるんですよね。「自分の偏屈さなんか何の意味もないんだ。技術的なことを変えるより意識を変えたほうが早いんだ」と。今は、スタジオでセリフをしゃべっているときがいちばん楽しいし、仕事をしていない自分に価値は感じません。