【声優道】吉野裕行さん「選択の先にあるもの」

いろんな活動が求められる時代だけれど
自分はやっぱり”声優”にこだわりたい

デビューから20年たって、そこそこ芝居に自信もついたけど、もっといいものを提供できる人たちはいっぱいいますからね。自分がどれだけ努力しても、先輩も同じだけ努力しているから、いつまでも追いつかないんです(笑)。僕は若い頃から「先輩を倒さないとダメだよね」という考え方でやっていました。その当時、僕が勝手にですけど「この人たちと戦っていくことになるのか……」と思ったのは、うえだゆうじさん。『ラブひな』でお会いしたときにそう思ったし、生意気にも「戦えるようになりたいんです」という話をうえださんに言ってしまった気がします。あとは僕が初めて主役をやらせてもらった『ヴァンドレッド』で出会った岩田光央さんですね。岩田さんはありがたいことに「今まで俺がこういう役をやってきたけど、おまえが出てきたのを見て、俺は次のステージに行かなきゃいけないと思った」とおっしゃってくれました。そういうふうに先輩が言ってくれるんだったら、もっと上の人と戦っていかなきゃいけないなと思いましたね。

今では後輩も増えてきましたが、僕らの世代はみんな自信をもっていると思いますよ。とくにこの10年、20年って、短い時間のなかで声優業界がすごく変わったんじゃないかと思うんです。歌もそうだし、ラジオもそうだし、イベントとかも急激に増えていった時代で、それに対応しないと、もう声優じゃいられなくなるという。そのなかで若い頃からもがいてやってきているから、よほどのことがなければみんな生き残るだろうと思います。

ただ、僕はやっぱり〝声優〟にこだわりたい。今はいろんなことができるけど、僕がいつも感じるのはアニメの作品とキャラクター、それを応援してくれる皆さんに支えられているということです。だからこそ、先輩たちがやってきたような、スキルを提供できるような声優でありたいという想いはずっともち続けています。

これからの課題としては、自分のしっかりとした武器を作ること。声も含めて、与える芝居のイメージを一つ作れてもいいのかなと思いますし、逆に作らずに、何でもできるくらいになれるのかどうか。あとは、生涯声優でいられるかどうか、です。おかげさまで歌を歌ったり、映像コンテンツをやらせてもらえたりするけど、どんな仕事をしても「声優だ」って言いたいですからね。自分の評価は死んで完成するものだと思っているから、その答えは死ぬまでもらえない。その間、どれだけ自分自身と戦い続けられるかでしょうね。

(2017年インタビュー)