失敗してもいいから、セリフだけは
大きな声でしゃべろうと思ってた
俳協の養成所を卒業した後、プロダクションも俳協所属になりました。養成所の同期では6人だったかな。松本梨香も僕と一緒の俳協組でしたね。初めてもらった仕事は忘れもしない、入ったばかりの4月。作品は、劇場用の『キャプテン翼』でした。
ところが僕、「仕事入りました」って言われたときに、いったん断っているんですね。実は当時、養成所の先輩が旗揚げした「冒険団」という劇団にも入っていて、しばらくは、声優と舞台の二足のわらじでいこうと思っていたわけ。そしたら「冒険団」の旗揚げ公演で「主役をやってくれ」って言われて、だから『キャプテン翼』の仕事の話があったとき、「すみません。ボク、もうすぐ芝居が本番なんです」って断ったら、もうめちゃくちゃ怒られてね(笑)。「ふざけるな! 来た仕事を断るなんてとんでもない! 何様だ!」って話ですよ。まあ今思うと、当然なんですが(笑)。
そうそう、アニメ作品のデビュー作は、『キャプテン翼』じゃなくて、養成所時代にオーディションを受けた『メガゾーン23』。僕が逃した主役は(笑)、NHK教育テレビ『つくってあそぼ』の〝わくわくさん〟こと久保田雅人さんで、ヒロインが荘真由美さん。ほかには、川村万梨阿さん、冨永みーなさん、岡本麻弥さんなんかがいてね。仕事よりもまず、「かわいいコばっかりだあ」なんてね(笑)。みーなちゃんはセーラー服、岡本麻弥ちゃんは高校の試験中だったかな。そんな時代ですよ(笑)。
スタジオで驚いたのは、アニメ自体は、まだ完成してなくて、いわゆるオール線画の状態だったこと。生まれて初めてアニメの声優をやるっていうのに、キャラクターの顔一つできてないし、色もない。ただのビーッという線だけです(笑)。もう、何が何だかわからなかったなあ。
そういえば『キャプテン翼』もぜんぶ線画で、どこでセリフを言うのかわからなくてね。先輩の伊倉一恵さんに背中を叩いてもらって、やっとって感じでした。
でも、ド新人ながら思ったのは、失敗してもいいから、とにかくセリフは、大きな声でしゃべろうっていうこと。積極性がないように見られるのはイヤだったんですよ。それがまぁ、本当に失敗に結びついてね(笑)。ナレーションが入るところで「こっちだ! パスだっ!」とか思いっきり叫んだら「オイ、ナレーションだろう!」「それは別録りだ!」ってすっごい叱られたことは、今でも覚えてますよ。
「声優デビュー」はスタート地点
「声優の仕事を続けること」を目標にしてほしい
声優だけで食べていけるようになったのは、プロダクションの俳協に所属して4年目くらいです。いつ仕事がなくなるかわからなかったので、それまで養成所時代からのバイトをずーっと続けていました。ウナギ屋さんなんですが、配達用のバイクで稽古に行ったりして(笑)、居心地はよかったんですよ。初レギュラーは、『ボスコアドベンチャー』というTVアニメ。「レギュラー1本で頑張ってます。何でもやります! よろしくお願いしまーす!」なんて自己紹介がウケてた時代がしばらくあって(笑)、アニメのレギュラーがだんだん増えてきて、同時にラジオCMや企業の教育ビデオのナレーションなども入ってきた。声の仕事で入るギャラは、最初の頃はないに等しいぶん、仕事が入れば収入は倍々になるわけ。その点ではかなり順調だったんだけど、それは、いいことばかりではなくて、どん底の苦労を味わっていないことが僕の弱点でもあるんですよ。
ただね、プロとして意識しているのは、一つひとつの仕事の結果です。前回「声優の世界は実力主義」って話をしましたけど、そこで大事なのは、「向上心」だと思ってる。「向上心」をもっていることも実力のうちだってことですね。
声優に憧れて、声優になろうとする人が多いのは大歓迎。だけど、「声優になる」っていう言葉の意味は、「声優デビュー」じゃなくて、「声優の仕事を続けること」じゃないかなあ。声優デビューはスタート地点。そう思っていると、養成所で学ぶ姿勢も違ってくるでしょう。声優になると、日々いろんな仕事と出合う。そのとき、いかに「向上心」をもって取り組み続けることができるか。志は高くもって、ぜひ僕らの仲間になってくださいね!
(2007年インタビュー)