【声優道】関 智一さん「声優とは〝一生飽きないおもちゃ〟」

『Gガンダム』のドモンがなければ
今の自分はいないと思う

デビュー当時、僕はかなり生意気でした。最初は、「共演者の誰にも負けるものか!」と思っていたんです。でも、所詮まだ駆け出しだったので、だんだん実力の差を身に染みて感じてきて、粋がってもいられなくなってきました。そこから気持ちが変わり、先輩へのリスペクトが生まれ、皆さんに近づきたいと思うようになりました。人気があって売れている人がすごいのだと思っていましたが、そうじゃないんだということも知りました。もちろん、売れている人はとても魅力的です。けど同時に、長く続けていくということがどれほど難しくて大変なことか、わかりました。誰しも、主演などで輝く瞬間と、そうでない時期があると思いますが、そうでない時期に地道な努力をして続けていける方たちには本当に実力があります。そういう方たちが業界を支えているし、そうなっていかないと長く職業としてやってはいけないんだなと思いました。

デビュー後、最も印象に残っている役は……やっぱり『Gガンダム』のドモンです。あの役が決まらなかったら、今の自分はいないと思いますよ。『Gガンダム』をやっている間は、悩むこともありました。実は、主演候補は僕のほかにもう一人いたらしいんです。選考の結果、新人だった僕に機会をくださったらしいのですが……。収録後、スタッフさんか誰かが「もう一人の方を選んだほうがよかったかも」と話しているといううわさが聞こえてきたことがあって……さすがにその日は落ち込みました。でも、それをすぐに「負けないでやってやる!」というガッツに変えて、頑張りました!

そこで折れずに、ガッツに変えることができたのは、友達のおかげだと思います。当時よく一緒に行動していた、声優の長沢美樹さんと、もう一人の養成所友達。この二人が、ものすごく前向きだったんです! 僕は少し年下だったこともあり、ネガティブになりがちなところがあったんですけど、その二人と一緒にいたことにより、前向きな気持ちに切り替えてもらえました。

現場では、山口勝平さんのような、面倒見のいい先輩によく助けてもらいました。勝平さんは、目がいいというか、よく気が利くというか……隣にいる人が困っていると、すぐに気が付いて助けてくれるんです。彼は集中力があるから、どんなに早いカット割りのアニメでも見逃さないんです。で、周りの人が一瞬、台本に目を落とした隙にシーンを見逃すと、「今ここだよ」と教えてくれるんです。ほかにも勝平さんには、「口パクに合わせるような芝居をしてはいけない。どんなに合わせたつもりでも、後でスタッフさんが合わせ直してくださるものだし、多少こぼれた(口パクと合わなかった)としても、演技をちゃんとしたほうがいい。いい演技をすれば、絵のほうを合わせてくれるから」と教えていただきました。誰がどこの事務所だということは関係なく、現場のみんなが本当によくしてくれました。大事なことを、『Gガンダム』を通して教えていただいたと思っています。

「教える」のではなく「想いを伝え」て
一緒に何かを創っていく仲間になりたい

現在は後進の指導をしています。まあ、なかには昔の僕のように、生意気な子もいますが(笑)、長くお付き合いしていると、感情移入してしまいますね。教える側になった今、ようやく先輩たちの偉大さを実感しています。

聞く側の姿勢も関係してくることですけど、別の人間同士ですから、やっぱり思いどおりに伝わらないんです。でも、できるだけ誤解のないように伝えてあげていると思っています。言いっぱなしではなく、自分の言ったことに責任がありますから、態度で示さなくちゃいけないし、怒ってばかりでも、怒らないのもいけない。どうやったら、自分と一緒の想いでものを創る仲間になっていけるか、すごく考えます。もう4年ほど指導をやっていますが、それでも日々考えてばかりです。

「教える」「指導」という言葉を使いましたが、僕は「教えている」とは思っていません。それって、なんだかおこがましいような気がして。役者というのは、パーソナルな部分を売りにしていくものなので、僕のコピーを作る必要はないんです。だから、教えているという感覚はありません。一緒に何かを創っていきたい。その人の良さを引き出してあげたい。そう思ってやっています。……それが難しいんですよね(笑)。

きっと成長は、ある日突然起こるものだと思います。蓄積して上達するものもあるけれど、感性的、感覚的なものって、いくら人に言われても、自分自身がピンとこないと成長しません。口で説明することは簡単で、みんなも気を遣って「わかりました」という顔をしているけど、本当にピンときているかどうかはわかりません。数年後に「やっとわかりました!」と言ってきてくれる子もいます。僕はかつて、僕の先生にそれを教えてもらったので。どうしたら、自分の恩師のように気づきを提供してあげられるかを、いつも考えています。