『サザエさん』は〝1週間たてばまた会える家族〟
私はカツオくんを演じて22年目になりますが、和枝さんが演じていたカツオくんが大好きで、そのカツオくんを私が演じているという方程式は変わっていないです。ただ、まねにはしたくない。言い方が難しいんですけど、カツオくんを崩したくないんです。意地悪とイタズラの線引きって難しいですけど、カツオくんのやっているのはイタズラで、意地悪やいじめは絶対にしない。でも自分が元気じゃないと、ちょっとのことで意地悪に聞こえてしまうこともありますから……。
先週のカツオくんに納得できたからといって、今週もそうとは限らない。毎回毎回が大事なんです。そんな一回一回が積み重なって、『サザエさん』は45周年を迎えたわけですから、すごいことですよね。キャストの皆さんは「向こう(演じるキャラクター)は年とらないし」とおっしゃいますけど、最初から出演されている方は本当にすごい!! サザエさん役の加藤みどりさんのプロフェッショナルさといったら、もう考えられないほど素晴らしいです。
でも、私も頑張らなくちゃと思います。以前プロデューサーさんが「『サザエさん』を100年続けたい」とおっしゃっていたんですね。それを聞いたとき、100年は一人の声優では続けられないから、私からバトンタッチする人が出てくるだろうし、それがいつのタイミングかはわからないけど、そういう作品に携わっているんだという重みを感じました。
ただ、加藤さんを見ていると、「自分も永遠にいけちゃうんじゃないか?」という気にもなりますけどね(笑)。これまでキャストの入れ替わりもありましたが、途中からメインキャストに加わる方はものすごい緊張を抱えていると思います。私はウキエさんからファミリーに加わったので、その意味ではまだ良かったかもしれない。だから、今度新しい方を受け入れるときは、私なりにフォローはさせていただきたいと思います。
『サザエさん』は毎週収録があるので、〝1週間たてばまた会える家族〟のような、ある意味〝永遠〟みたいな感覚がありますね。キャストはもちろん、作家さんや演出家さんも含めてチームとしての絆がどんどん強くなっているので、とてもいい現場だと思います。ぜひ多くの方々に『サザエさん』を観ていただきたい。10~20代のアニメファンの皆さんも、観たい作品もたくさんあるでしょうけど、ときどきは『サザエさん』に帰ってきてほしいですね。
息子の年から母親の年まで幅広く演じてみたい
私はアニメでは『サザエさん』を長くやらせていただいていますが、ナレーションも長く続いた番組が多いんです。『世界ウルルン滞在記』に『どうぶつ奇想天外!』。『開運!なんでも鑑定団』は今も続いてますし。ここ20年を振り返って、仕事の面では大きくは変わりないんです。その半面、プライベートは劇的に変わりました。主人と出会って、娘と出会って、息子と出会って……。子供からいろんなことを教わります。一緒にアニメを観ていて、その反応に「アニメーションってすごいな」と改めて思えたり。子供は敏感だから、絶対ウソはつけないな、などなど。
以前、息子を戦隊ヒーローショーに連れて行ったとき、ヒーローの声がTVで演じている方とは違う声だったのを、息子がいち早く気づいて「声が違う!」とビックリしていました。私はよく聴かないと気づかなかったけど(笑)。でも、そのときに「ほら、声ってやっぱり大事」って感動しました。そんな敏感な子供たちと過ごしていられるのは、日々刺激的で勉強になります。
子育てが始まってから、生活が一変。声の仕事はほかの仕事より朝起きるのもゆっくりだし、休みの前日には「明日は休みだ。イエ~イ!!」という生活でした。なので、子供が産まれてから、「今まで、なんて楽をさせてもらっていたんだろう」と思いました。でも、フルタイムで働いて子供を保育園に通わせているお母さんたちと出会い、「あぁ、へこたれていられないな」って思いました。母業の大変さのなか、まだまだなことばかりの私ですが、子供と共に成長していけたらと奮闘中です。
私の場合、母親になってからも、お母さん役はあまりなかったので、『プリキュア』シリーズでお母さんを飛び越えておばあちゃん役をやらせていただいたときはうれしかったです。指名してくださった東映のスタッフの方に感謝です。今、小学5年生のカツオくんをやっているので、幅を広げもっと上の年齢の役をやってみたいと思っています。年齢自在が声優の良さですからね。そうだなあ……実母の年齢の85歳ができたらいいかな。そしたら、小学生(息子)から85歳(実母)までになるし。それぞれの役の年齢の躍動や温かさが出せるように演じたいです。
私たち声優は、作品作りに携わっている歯車なんだ
日本工学院で講師をやるようになり5年たちますが、素直ですごくいい子たちに出会えているので、授業をやっていても楽しいです。授業で「明日、私とあなたがオーディションに呼ばれたとして、私が必ず受かるとは限らないし、あなたが受からないと決まっている世界ではないです。私は何十年とやっているけど、この世界はキャリアじゃない」という話をよくします。むしろ、キャリアにあぐらをかくとダメなことも出てきちゃいますよね。〝毎回毎回〟という意識は、やっぱり大事だと思います。それは新人でもベテランでも同じです。毎回初心! 何事も初心の生徒たちとの時間は発見がたくさんあります。
もちろん上下関係はある世界ですが、一つの作品を作るために集結したメンバーである以上、どっちが上でどっちが下ということだけではなく、全員が作品を作っている一員なんだ、という意識をきちんともっていたいですね。作品に真摯に向き合う気持ちや、「私たちは作品作りに携わっている歯車なんだ」という認識を大事にしていきたいと思っています。
私は、お仕事を自分から断ったことは、ほぼないんです。言われたことは何でもやってみます(笑)。「声をかけてくれる方がいるんだから、やってみよう」と思うんです。どの仕事も自信があるわけではないので、やりながら勉強するんですけどね。多少自信がなかったとしても、「言ってくれた方のイメージに私があるのなら、やってみよう」と。お仕事を断らないというのも、この世界で長く生き残る秘訣の一つなのかもですね。
あとは「イキイキしていれば大丈夫かな」って。この仕事って、変にしがみつかないほうがいいように思うんです。〝しがみつこう感〟みたいなものが出てしまうのは周りの人が困っちゃうでしょうから。そもそも声優自体が社会の中では〝娯楽部門〟ですから。その人自身がイキイキとしている事が大切なんじゃないかと。
そして、仕事がなかなか決まらなかったとしても気にしないで。もっと長い目で自分のことを見てあげてください。これは極端な話ですけど、1回でも声優の仕事をした経験があれば、その後10年間仕事がなくても、ずっと〝声優〟を名乗っていいわけですよね(笑)。続けていれば、いつのタイミングでどんないい作品があなたにプレゼントとしてやってくるかわからない。長くやれる職業なので、焦らないで。逆に言えば、いつ何どきでもスタンバイOKな自分でいなくてはいけないのですが……イキイキと自分を磨かなくてはですね。
(2016年インタビュー)